1枚の写真。
「どうしたの?電話じゃだめだって?」
莉音と旅行から、帰った嶺は、すぐ、美央にメールした。なるべくメールの方が、都合が良かった。第一、感情を抑える事が出来る。美央の話は、だいたい検討がついたので、電話で揉めるのは、どうしても避けたかった。・・・が、美央は、どうしても、嶺と直接、逢いたがった。わざわざこちらまで、出てきるのは、大変だからと、嶺が言っても、美央は、きかなかった。嶺のマンションまで、美央は、やってきた。
「嶺。私の話聞いてくれる?」
美央は、バッグを開けると、中から、1枚の写真を取り出した。
「見てほしいんだけど」
粗い映像写真だった。何かをエコーで撮ったような・・・。
「これは?」
嶺は、美央の顔を見た。美央が、ひきつった顔で嶺の顔を見ていたのだ。
「胎児の写真よ」
「・・・」
嶺は、驚いて、美央の顔を見た。
「私の。」
無表情の恐ろしい顔だった。
「正確には、あなたと私の」
「ちょっと、まって」
嶺は、パニックになった。
「冗談だよな?だって、美央。あの時は・・・」
震えながら、美央の肩を掴んだ。
「そう。大丈夫だって、言ったわ。でも、そんなの、嘘。どうしても、あなたの子が、欲しかったの」
「な・・・。待ってくれよ」
嶺は、首を振った。
「やっぱり、嬉しくは、ないのね。喜んでくれると思ったんだけど」
美央は、表情ひとつ変えない。
「いいわ。私、一人でも育てるから」
嶺の手から、写真を奪い取ると、バッグに、投げ込んだ。
「美央。俺は、君をもう、愛していない。」
嶺は、哀しそうに呟いた。
「俺の気持ちが、ないのに、一緒にいて、幸せになれるのか?」
「なれるわ!」
美央は、嶺を押し倒した。
「私は、あなたを愛している。傍にいたいの。嶺が、傍に居てくれてるだけで、幸せなの。どうしても、どんな手を使っても、嶺の傍にいたいの。」
嶺の胸に、すがりついた。美央は、結婚している訳でもないのに、病院に通い、子供の出来やすい環境を整えていた。なんとしても、嶺の子供を授かりたい。計画的に、嶺を誘った。
「俺が・・・。悪い」
確かに、誘いに乗った。嶺が悪い。でも、それは、恋人同士だった時には、ごく、普通にあった事。
「嶺。私、産むから・・・。」
「でも。そんな事、君の両親だって、許さないだろう?」
「おろせなくなるまで、黙ってる。あとは、親も諦めるわ」
「美央」
嶺の唇を、美央は、ふさいだ。
「だめだよ。美央」
「いいの。返事は、しなくても。私は、あなたの子供ができた。それだけを、言いたかっただけだから」
美央は、立ち上がると、ドアに向かっていった。
「そおいえば・・。」
美央は、振り向いた。
「嶺。あたし。待ってるから」
哀しい眼をすると、美央は、ドアから、出て行った。動けない嶺を残して・・・。