携帯は鳴る。
当日、嶺と莉音は、駅のターミナルで待ち合わせをした。案の定、朝に弱い嶺は、少し、遅れて現れた。車の助手席を開け、莉音は、滑り込むと、頭から、コートを被り、顔を隠した。
「いつまで、そうしてるの?」
サングラスの嶺が、笑いかけた。
「高速乗るまで・・・。」
「どうして?」
「見られたら、困るから・・・。」
「へぇ・・。見られたら、困るんだ!」
「いじわる。覚えといて」
「俺、頭悪いから、覚えてられないかも」
コートの隙間から、莉音は、キッとにらんだ。
「まあ、まあ、怒らない。怒らない」
嶺は、莉音に何かを放り投げた。
「なあに?」
莉音の好きなチョコだった。それもビター。
「わかってるじゃん。」
「だろう」
「それじゃあ。はい」
莉音が、差し出したのは、小さいお弁当箱。
「食べて、ないでしょう?」
「やった!俺、今朝は、ヨーグルトだけなんだ」
莉音は、小さなお弁当に、おかずとおにぎりを用意していた。いつも、莉音は、晩御飯のお裾分けを嶺に用意し、こっそり会社のロッカーにいれといた。室温の高い日等は、保冷剤を入れて、ロッカーに用意していた。
2人は、北関東を目指した。初日は、莉音の好きな美術館をめぐる。着いたら、生憎の雨だった。早咲きの桜が、雨に濡れている。
「だーれかさんの行いが悪いから。」
嶺は、おどけた。
静かな美術館を巡りあるってると、突然、お腹がなった。
「ごめん」
莉音のお腹の虫だった。
嶺は、笑った。いつも、すましている莉音には、意外な行動だったから。
「らーめんでも食べるか?」
「うん」
嶺は、車に戻ると、2人でらーめんを食べにむかった。事前に嶺が調べておいたらーめん屋へ。
その後、名物のじゃが揚げを食べ、ショッピングセンターで、莉音の買い物に付き合い、山間に温泉宿に向かった。濁り湯の、こじんまりとした上品な旅館だった。
「ここに泊まるの?」
「そうだよ」
嶺が、フロントで受付をすませた。小さな旅館。2階の奥の部屋に着くと、嶺は、ガイドを莉音に放り投げて来た。
「俺、温泉に行ってくるから。明日、どこまわるか、調べておいて」
持ってきた荷物を広げると、嶺は、タオルを片手に温泉に向かっていった。
「はいはい。そうしますよ。」
莉音が、嶺の出て行った後、ガイドを広げようとすると、携帯がなっていた。
「?」
みると、嶺の携帯である。開こうか・・・。莉音は、迷った。どうしようか・・・。迷いながら、莉音は、嶺の携帯を手にとっていた。・・・が、開かなかった。ロックされていたのだ。
「なんだろう」
ロックしておかなければ、ならないなんて・・・。すっきりしないまま、時間だけが過ぎていき、しばらくすると、嶺が戻ってきた。
「あー。気持ちよかった。莉音も行ってくれば?」
「うん。」
莉音は、嶺の携帯をとった。
「携帯鳴っていたみたいだけど」
「そう?」
嶺は、莉音から、携帯を受け取ると、画面をみた。
「大丈夫なの?」
嶺の表情が、硬かったのを見逃さず、莉音は、言ったが。
「うん」
と、言ったまま、嶺は、携帯を閉じた。
「じゃあ、あたし。行ってくるね。」
自分が、温泉につかっている間に電話するのかも。そう思いながら、莉音は、部屋を出た。女の勘だった。
・・・なんか、嫌な予感がする。・・・
莉音は、何かを感じていた。
部屋に戻ってくると、いつもの嶺になっていた。
「どうだった?」
「露天風呂もあったね?」
「恋愛成就の露天風呂だって」
「お帰り」
嶺は、莉音を抱き寄せた。
「いい匂い。」
「シャンプーかな。」
莉音が、顔を上げようとすると、また、携帯がなった。
「いいよ。出てよ」
「ううん。こっちが大事」
「気になるから、出て!」
促されて、嶺は、しぶしぶ携帯にでた。
「はい。どうしたの。」
嶺は、ちらっと、莉音の様子をみると
「ごめん」
と、いって、部屋から、出て行ってしまった。
・・・気になる・・・
この、古い温泉宿は、音が、よく響きわたる。莉音は、テレビの音をひくくして、思わず、聞き耳をたててしまった。嶺の声が聞こえてくる。
「今・・・。ちょっと。そう。ごめん。」
要所は、うまく聞こえない。そのうち、嶺は、部屋に戻ってきた。
「うん。大学の友達」
聞いていないのに、嶺は、言い訳をした。
「聞いてないけど」
莉音は、不機嫌に応えた。
しばらく、沈黙が続き、食事の時間になった。なんとなく、気まずい雰囲気のまま、移動して、2人は、食事をし、再び、部屋に戻る頃には、莉音は、気を取り戻していた。
「親父からのなんだ」
嶺が、とりだしたのは、高級そうなワイン。今日は、時間を気にしないで、飲もうとばかり、嶺は、莉音のグラスにワインをついだ。
「だめだよ。飲みすぎちゃうよ」
「まあ。」
嶺は、莉音にグラスを渡した。そして、時間は、すぎ、嶺は、莉音を腕に抱き眠りについていた。一度、眠ると、なかなか、起きない。気持ちよさそうに、深い寝息をたて、横に眠る嶺をみていた。おもいだしたように、頭を掻き、口をならす。面白いクセがあるものだ。トイレに立とうとして、ふと、嶺の携帯が、目にはいった。
「誰からだったんだろう・・。」
なんとなく、莉音は、わかっていた。