秋花火の計画。
結局、嶺は、あれ程、友達に言われていた。別れ話は、出来なかった。
・・・出来る訳がない。・・・
逢う時間を惜しむ様に、過ごしているのに、別れの話なんて、そう簡単に出来る訳もなく、まして、自分にその気がないのに。
・・・もう少しだけ・・・
嶺は、思った。
2人が、過ごした2月14日から、職場であう嶺と莉音は、なるべく、自然を装っていたが、なんとなく不自然な感じが周りは、感じとっていた。鈍い人達は、気付かなかったが、特に女性は、なんとはなく、莉音が、嶺を意識しているのを感じとっていた。
「もう、英さん!人妻なんですからね。」
意地悪なお局達は、からかい、ランチのネタにしていた。
「まずいよな・・・。」
嶺は、気にしていた。
「俺は、ともかく、莉音は、気をつけないと」
「そう?」
「だって、旅行。行きたいだろう?」
嶺からの、メールだった。もう、少し、暖かくなったら、温泉に行こう。嶺からの、提案だった。温泉は、北関東に行く。莉音の好きな美術館巡りをし、ショッピングモール巡りをして、ラーメンを食べる。
旅行好きの嶺が、ネットでいろいろ調べて、計画をたてていた。
「いい所、あったんだ」
嶺が、はしゃいでいた。
「白い温泉なんだ。とろっとしてるんだって」
「温泉に泊まるんだよね?」
「そうだよ。」
なんとなく、莉音は、照れ笑いした。
「部屋は、2つ?」
「2つとっても、最終的には、1つになちゃうから、1つにしておく。」
「布団は、放してね?」
「1つにする?」
嶺は、うれしそうだった。2日間、この街を離れ、ずーっと、一緒にいる事が出来る。時間を気にして、あわてて、莉音が帰って行く後ろ姿を見送る時、嶺は、切なかった。夫の待つ家に帰る現実の莉音がそこにいた。
「莉音の夫が羨ましいよ・・・。」
遅くなった莉音を、車でおくる時、嶺の口から、思わずでた言葉。莉音は、何て、言ったらいいか、解らなかった。何の弁明も出来ない。このまま、嶺についていきたい。
・・・嶺が、一言言ってくれたら・・・
莉音は、考え始めていた。
・・・もし。嶺が、言ってくれたら・・・
覚悟は、出来てる。思い切って、嶺の元へ、行く。
「なんか、嬉しそうね?」
「そりゃあね。」
いろんな所へ行こう!嶺は、提案していた。温泉に行く。そして、花見。嶺のフットサルの試合を応援して、コンサートも行く。東京にショッピングに行って、海にも行く。そう、花火。花火大会。嶺は、花火大会が好きだった。
「花火?」
莉音が言った。
「花火って、夏だけじゃないのよ?知ってる?」
「そうなんだ?」
「9月にも、花火があるの。寒いけどね。秋花火って、言うんだって」
「秋花火?」
「そう、あまり、聞かないでしょう?」
「見に行きたいな。」
「でしょう?見に行きましょう」
「だね。」
嶺は、ふっと、寂しい目をした。秋には、2人は、どうしているんだろう。できれば、2人で、居たい。
「花火行って。そして、コンサート行って。また、温泉行って」
「京都もね」
「京都?京都じゅあ、1泊は、きびしいな。」
「じゃ、軽井沢。」
「軽井沢は、5月に行こう」
ずーと、2人でいれる。莉音は、そう思っていた。そして、北関東への旅行の計画に思いをめぐらせた。2日間一緒にいれる。それだけで、幸せだった。