2人のバレンタイン。
結局、嶺は、美央に負けてしまった。美央に誘われるまま、思い道りにされてしまった。
無理矢理、嶺の別れ話を、否定すると、
・・・また、くるから・・・
と、言い残し、美央は、怖いほど、キツイ顔で、嶺のマンションを出て行った。
嶺は、ずーっと横になっていた。考えていた。その間、実家から、何度か、帰宅を問う電話がなっていた。
・・・自分は、どうすれば、周りを傷つけないで、すむのだろう、このまま、美央と一緒にいて、美央を傷つけないのだろうか?自分の気持ちに嘘をつく事が、出来るのだろうか?莉音と、少しだけでも、一緒にいたい。後で、別れる事になったとしても。いま、ほんの少しだけ、莉音と過ごす時間を許して、もらえないものだろうか?・・・
嶺は、深いため息をついた。
「ねぇ!ちゃんと、あわ立ててよ!聞いてるの?」
莉音が、イタズラして、生クリームを、嶺の顔につけた。
「聞いているよ!」
嶺は、ふざけてる莉音の、頭をこずいた。
「だって、ぼーっとしているからん」
莉音は、嶺に蹴りをいれた。
「普通、するかな!」
「普通じゃ、ないしー!」
こうして、嶺のマンションで、ふざけるのは、何回目だろう?最近、週に、2回は、逢い、一緒に食事をし、時間を過ごす事が、ふえていった。最初は、誰か、人に見られるのを気遣って、マンションや、隣の街で買い物していたが、次第に、2人で、映画を見にいったり、ドライブに行きたくなってきた。勿論、旅行も。メールで、いろいろ架空の旅行計画をたてたりした。
・・・いつかは、別れなければ、ならない・・・
時間を惜しむ様に、莉音を愛す。嶺は、時間を惜しむように、莉音との時間を大切にした。
・・・でも、もし・・・
嶺は、考えを打ち消した。
・・・いや。そんな・・・
出来る事なら、莉音とずーっと、一緒にいたい。嶺は、思っていた。
・・・もし。叶うなら・・・
嶺は、嶺の為に、料理する莉音の後ろ姿を、黙って、みつめていた。
「ねえ。莉音。」
嶺は、莉音をそっと、後ろから抱きしめた。
「どうしたの?急に・・・。」
莉音は、嬉しそうに振り返った。
「旅行行きたい」
「旅行?また、なんちゃって、旅行の話?」
「違う・・・。本当の旅行。」
「行きたいね。」
「そうじゃなくて」
嶺は、向きなおった。
「行こう。うん。時間は、作らないとだよ」
「えーっ!まだ、ティラミス出来てないんですけどー!」
嶺は、無理矢理、莉音の手をひくとパソコンの前に座った。
「どこいきたい?」
「本気?」
「本気」
嶺は、莉音を前に座らせた。
「予約を入れて。後は、休暇願いを出すだけ。俺は、当日、腹痛かな?」
2人で、笑った。嶺の胸には、莉音からのチョカーが、光っていた。