花嫁に恋する。
僕が、莉音を、初めて見たのは、大学を卒業して、入社してすぐの、転勤で新しい職場に案内された時だった。
「はじめまして、英莉音です。」
パソコンに向かっていた莉音は、手をとめ、こちらに向かって頭を下げた。数週間後に結婚を、控えてる莉音は、他の女性達とは、違って、僕には、目もくれず、データの入力に、忙しそうだった。
・・・結婚するのか・・・
その時、僕は、何も気にとめなかった。彼女が、僕より、8歳年上、とか、結婚するとか。その時の僕には、地元に残してきた彼女がいたし、誰よりも、彼女は、僕に気がなさそうでは、ないか。でも、その時、もっと、彼女に、近づけるよう努力すれば、良かったんだよね。ひきとめれば、良かったのかもしれない。だって、僕の手の届かない所にいってしまうんだから。
・・今の生活は、捨てれない・・・
莉音は、僕に言った。
「そうだよ」
僕は、冷静を装った。何度も、頭の中で、繰り返したんだ。この別れは・・・。もっと、僕に勇気があれば、莉音を、奪う事ができたのに。この時に、戻る事は、できない。余りにも、僕達の恋は、周りを傷つける。
「へぇ・・・。夫婦別姓なんだ」
同じ職場の、加奈子が、ハシャギながら、新婚旅行土産を配りにきた莉音を、ひやかした。あれから、数週間が、過ぎていて、七藤嶺が、莉音を目にしたのは、結婚式を終え、新妻になったばかりの初々しい姿だった。嶺はと、いうと、学生時代から、付き合っていた彼女、美央と遠距離だった事もあり、別れる別れないで、もめていた嫌な時期であった。
・・・別れようか・・・
呆然と、嶺は、考えていた。若いという事もあり、そんなに、美央を失いたくないと思うまで、好きでは、なくなっていた。10代からの恋なんて、こんなものだろうか・・・。美央と一緒にいるだけだ、いろいろ楽しかった。今も、そうだろうと思い込んでいた。今は、新しく変わった環境になれるのに、必死で、寂しいからと、メールをよこす、美央をわずらわしくさえ、思えていた。新しく、やり直すのに、いいかもしれない。そう思えていた。
「七藤君、どうぞ」
莉音は、嶺にお土産の、チョコを差し出した。
「あっ、すいません。俺、甘いの、目がないんです」
嶺は、恐縮しながら、手を出した。
「初めて、ですよね?」
莉音は、笑っている。両側に、笑窪が、見えた。
「何が?ですか?」
「こうやって、話すの。結構、後輩達に、人気あるんだから」
「初めてじゃないですよ!。俺、赴任してきたばかりの時、挨拶したじゃないですか?」
「そうだった?あっ!ごめーん」
莉音は、笑った。
「ごめん。ごめん。あの時は、締めに遅れてて、あせってたの。七藤君の職場の完成検査とあたしの購入課は、ライバル同士だから、今後共、よろしくね。」
莉音は、嶺をみつめ、にっこりと微笑んだ。その笑顔を、曇らせるのは、いつも、嶺になってしまう。