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 そこに居たのはジョシュアお兄様と同年代とおぼしき金色の髪の男性だ。美型男子がゴロゴロいるのはネット小説に有りがちなのだろうが、この人はずば抜けてクオリティが高い。背が高いわ手足が長いわ顔がちっちゃいわでスタイルは完璧だし、スーッと通った鼻筋に形の良い薄い唇、涼やかな目元ってコレの事だ!とビンゴしちゃうくらいの美型だ。おまけにその榛色の瞳!シェークスピアが『ヘーゼルアイ』って表現したその瞳は実に複雑で柔らかな美しい色合だ。


 その容姿端麗を実体化した男性は顔を上げたお兄様を見てやっぱりそうかと言うように顔をしかめた。


 「ウォルターじゃないか!久しぶりだな!」


 どうやらジョシュアお兄様は『恥ずかしいところを見られちゃった』と思うことも無いらしく、小枝を投げ捨てた手をパンパンと払うとにこやかにその男性と握手を交わした。


 「お前……ちょっと変人だなとは思っていたが……ここで何を?」


 ウォルターという男性は相変わらず顔をしかめている。


 「うちのステラがこの学園に通うことになったのでね、とっておきの穴場を教えておこうと連れてきた」

 「うちの……?あぁ!おじ様の姪御さんを引き取ったと耳にしたが……こちらがその?」

 「ステラ・フランプトンでございます」


 私はスカートを摘まんで膝を折った。


 「このご令嬢が…………この場所を教えられて喜ぶのか?」

 「こう見えてステラはお転婆娘でね。ステラにとって今の暮らしは少々息苦しいと思う。それでも必死に努力しているステラに少しくらい羽を伸ばさせてやりたい、そう思ってステラが本来の生き生きした姿を取り戻せる場所を教えてやろうと思ったんだ」


 優しい微笑みを浮かべながら私を見つめるジョシュアお兄様ではあるけれど、さて、私はどうしたものだろう?私別に百匹以上の甲虫が群がるクヌギを見ても『おっしゃー』なんて拳を突き上げたりしませんことよ?大体そんな事を言ってこの方が鵜呑みにしたらどうするのよ!


 しかしどうやって否定すれば良いのかと戸惑っているうちに、残念ながらこの方は丸々そのままごっくんと呑み込まれたらしい。しかめっ面に険しさを加え拳を顎の下に添えて私をしげしげと眺めながら口を開いた。


 「つい最近まで市井に居たとは思えぬお嬢さんだが……やはりフランプトンの血筋か?」

 

 ち、が、い、ま、す!


 と言いたいのをぐっと我慢して私はジョシュアお兄様の袖口を引っ張った。が、ジョシュアお兄様は物凄く役立たずのいらんことしいであると、私は猛烈に思い知らされた。


 「ステラの母であるアイリーン叔母様は本当に美しく淑やかな貴婦人の鑑であったそうだが」


 が、というその文末でこの先に反する内容が来るのが予想できたけれど、お兄様はこういうところでは期待を裏切らない男だ。


 「ステラは市井で自由に伸び伸びと育ったからね。何と言うか、型破りで実に楽しい」

 「ほお……」

 「屋敷の窓に張り付いていたヤモリに名前を付けて話し掛けるんだ!驚きだろう?」

 「ヤモリに名前を付けた?一体なんと?」

 「ゲッピーちゃん、だったか?」


 聞かれた私は首を振り『ゲコッピよ』と耳打ちするしかなかった。えーん、私ったら、どうしてヤモリに名前なんか付けたのかしら?そのせいで、たったそれだけでとんだ野生児お転婆娘キャラにされちゃうなんて……バカ、ばか、馬鹿。修道院で真面目にお行儀良く清く正しく生きてきたのに、アッカーソン氏も太鼓判を押してくれちゃうくらい貴族令嬢っぽくなったのに!


 私の心の嘆きなど知る由もなく彼は吹き出し『やはり血筋か?』なんてカラカラと笑っている。そちらこそ初対面の私を相手に屈託無く大笑いし過ぎなのではないでしょうかと少々ムッとした私を見て、彼はこほんと咳払いをした。


 「失礼した、ご令嬢。ジョシュア、君の愛らしい従妹にわたしを紹介して貰えるかな?」

 「もちろんだ。ステラ、こちらはウォルター・オルフェンズ。学園で共に学んだ友人だ」


 ウォルター・オルフェンズ……?私はぱちくりと瞬きをした。ウォルター・オルフェンズって言えばですよ?


 「ステラも名前を知っているだろう?ウォルターは若きオルフェンズ公爵だよ」

 

 はぁ、このお方があの若き公爵ウォルター・オルフェンズ様でいらしたのね。それでもって現実?ではジョシュアお兄様がウォルター・オルフェンズ様と友人関係だなんて世間は狭いわぁ。そんな設定は無かったし、大体ステラの従兄兄弟も小説には出てこなかったもんね。


 ウォルターは私の手を取り指先に口付けするアクションだけをした。だって私まだ未成年ですから。心に大きな傷を持つウォルター・オルフェンズは誰にも心を許すことは無かった……とか書いてあったけど、どうもジョシュアお兄様と仲良しっぽいし、小娘相手に笑顔全開でマナー遵守の丁寧な振る舞い。かなりのズレを感じますわね?


 「可愛いお嬢さん、どうぞよろしく」


 細めた目尻を下げて私を見つめるウォルター・オルフェンズに、私は動揺を抑えながら微笑んだ。



 

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