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 「…………」


 何と答えたら良いのやら?狼狽える私を見た伯父は伯母の肩を抱きながら『すまないね』と謝った。


 「……ごめんなさい。あまりにもアイリーンにそっくりだったものだから……まるで生き写しだわ」


 そう言いながら伯母はおいおい泣いている。アッカーソン氏も同じことを言ったけれど、実際年頃になるにつれて両親を知る人達に『お母さんそっくりになってきた』と挨拶代わりに言われるもので少々鬱陶しいななんて思っていた。私は両親の顔を知らないから定かでは無いけれど色んな人が口々に言うのだからそうなのだろう。まさか号泣される程とは思っても見なかったが。


 「来てくれて嬉しいよ。今日からお前はこの家の娘だ。私達は家族なのだから何も遠慮は要らないよ、いいね?」

 「はい、ありがとうございます」

 「声まで、声までアイリーンそっくりよ……」


 伯母はそれからも私の一挙手一投足を見ては『アイリーンそっくり』だと泣きじゃくり続けた。



 伯父には二人の息子がいる。つまり私の従兄のジョシュアお兄様とフィリップお兄様。ジョシュアお兄様は伯父の補佐をしておりフィリップお兄様は王城に勤務する文官だ。活発なフィリップお兄様は騎士になりたかったらしいけれど、父のせいで祖父の騎士に対するイメージが最悪で許されなかったらしい。なんか、うちの父がごめんなさい。


 奇しくも私と亡くなった伯父夫婦の娘さんは同じ年だった。末っ子にかけられずにもて余していた愛情を注ぐ器を得た彼らの勢いは留まるところを知らず、シスター達がそうだったように早くも私は注がれる愛情で溢れそうにされている。どうやら私はそういう運命の元に生まれて来たらしい。行き場を失くした愛情の受け入れ先になるのが今生のお役目なのかもとすら思うくらいだ。


 特に伯母は凄まじい。男子二人を産んだ後暫く間があっての待望の女の子には色んな楽しみがあった。生きていれば同じ年頃だったはずの令嬢達が、華やかなドレス姿で茶会に現れるようになりデビュタントの話題に華を咲かせている。そんな伯母の手からするりとすり抜けて消えてしまったワクワクをもう一度掴み取ったのだ。伯母の熱意たるや、ちょっと……いや相当たじろぐ熱量だ。どうやら私にそっくりだったという母はそれは美しい人だったらしく……なんて事を私が言うと自慢気に聞こえちゃいそうだけど、正直言うと確かにそっくりさんの私は我ながら綺麗だと思ったりなんかしてしまう。なんだかんだ言って王太子がグラッときたのはステラの容姿あってこそなんだから。ほら、街の人達が母を見て抱いた『妖精のように可憐で』っていうイメージはそこそこ的を射ていたのだ。『何を着せても似合うのですもの。ステラを着飾らせるのは本当に楽しいわ!』なんて伯母がはしゃいでいるが、実際母譲りの白銀髪の巻き毛に(これこそ街の人々が『お貴族様のお姫さんだろうな』とピンときた一番の要因であったらしい)深く鮮やかな瑠璃色の瞳、色白な肌をした私に受け付けない色味は無い。濃い色を着れば色白な肌が際立つし淡い色なら可憐さが倍増する……って言ってるのは伯母様ですからね!


 執事のアッカーソンは家庭教師の選定のし直しをしお勉強よりもマナーやダンスのレッスンに時間を掛けるようにしてくれた。躾に厳しい修道院育ちでも貴族の常識は皆無なので有り難い限りだ。特に修道院では日常的に俯いて過ごして来たものだから私ってば直ぐに項垂れてしまうので、これは本当にビッシビシ矯正された。とにかく避けなければならないのは学園での悪目立ちであるからして、私は入学式を迎えるまでアッカーソン氏にその辺にしておきましょうと止められるくらい夢中になってお稽古に取り組んだ。


 伯爵家に引き取られ二ヶ月あまり、入学式を明日に控えた私はジョシュアお兄様に連れられて学園を訪れていた。ヒロインのステラと王太子が出会ったのはステラが迷子になんてなったせいだ。念には念をいれ何があっても迷子になんてならないように場所を把握するべく下見……名目上は見学ってことにしたけれど……にやって来たのだ。


 そして来てみて驚いたんだけど、どうしてヒロインのステラは迷子になんかなったのかしらね?入学式の会場になる講堂は校舎の真横にドーンとあって空に向かって時計台がズーンと聳えていて、敷地内どころか外からでも『あそこだな』って判るくらい目立ちまくってる建物なのに。もう同じポジションにいるのが恥ずかしくなって参りましたわ。


 「あぁ、そうだ。秘密の場所を教えておこう!」


 ジョシュアお兄様が人差し指を立てて爽やかに笑った。タイプで分類するとこの人は爽やかクールな美形で対するフィリップお兄様は彫りの深いワイルドな美形で、おまけに伯父は大好物のイケオジときたもんで私は毎日眼福です。


 あ、いやいや。それよりも秘密の場所のことよね?


 ジョシュアお兄様が向かったのは校舎の裏側だ。とはいってもオラついた輩がこっそりたむろするような薄暗さは皆無で、綺麗に整えられた庭園になっている。生け垣で区分けされちょっと迷路っぽく作られていて奥にはこんもりと葉を茂らせた大木が見える。ちょっとあれ、クヌギじゃないの?


 ジョシュアお兄様は綺麗に咲いている花には目もくれず良い感じに配置された小洒落たテーブルセットも完全に無視して進み、まさかと思ったけれど目指していたのはその大木の下。そしてやっぱりこれはクヌギの木だった。


 「この木は凄いぞ、なんと一本一本に百匹以上のカブト、クワガタ類がいるんだ。夏になったら見に来てごらん?だけど昼間よりも夕方の方が良い」

 「…………えぇ」


 どうやら爽やかクールな見目にも関わらず、ジョシュアお兄様はいくつになっても瞳は少年みたいだ。


 実は私は芋虫毛虫は嫌だけど甲虫は苦手じゃない。触るのもやぶさかではない。だからと言ってこのカブトクワガタ捕獲スポットにワクワクドキドキして『ヨシッ、絶対に来るぞ!』なんて思いはしないんだけど?


 どうもね、お兄様達って修道院育ちの私に対してちょっと歪んだイメージを持っちゃったらしい。まぁ私もいけなかったのよ。窓の外をチョロチョロしているヤモリを見つけて名前を付け、見かける度にニヤつきながら赤ちゃん言葉で話し掛けているのを見られてしまったのだから。


 令嬢とはヤモリなんて見掛けようものなら失神するものである、と思い込んでいたお兄様達にとってその姿は青天の霹靂、修道院に居た私はお転婆で虫取網を片手に走り回って高い木の枝も果敢に攻めていた……みたいな日々を過ごしていたに違いないと思い込まれてしまったのだ。いえいえ、そんなことしてみなさいよ。シスター達に身柄確保されて半日に渡りお説教され、夕食抜きでベッドにお入りなさいの刑を執行されちゃうから!


 それなのに貴族社会に溶け込もうと自分を圧し殺して頑張っているとは、ステラ可哀想!なんてご親切に思っちゃっているらしいお兄様達は、やたらと腕白少年に受けそうな情報を私の耳に入れてくるのだ。


 『ほら、ここに穴があるだろう?ここをつつくとさぁ……』等とぶつぶつ言いながらジョシュアお兄様が拾った小枝を幹に開いた穴に入れほじくっている。というかあなた、この学園に通っていたのはそこそこ成長されてからの筈なのにそんなに熟知しているなんて、一体どんな青春を過ごされたのかとわたくしちょっと心配になって参りましたわ。こんな姿、婚約者のナタリー様には絶対にお見せできないわね。


 私の存在を忘れすっかり熱中しているジョシュアお兄様をどうしたものだろう?止めようにもいらぬ罪悪感が湧き出してきて躊躇してしまい声が掛けられないのだ。


 もうお手上げ状態で眺めていた私は、背後から聞こえた


 「ジョシュア?」


 と呼び掛ける声にびっくりして飛び上がった。


 

 

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