第十八話賢者襲来
帰る故郷がなくなってから4ヶ月。
身体強化魔法は、練習を重ねた結果約2倍まで上がる様になった。お陰でコトリにも模擬戦で互角以上の勝負ができる様になったのだ。
1日の修行が終わり、自分の部屋に戻ろうとした時師匠が僕達を呼び止めた。
「今日は新メンバーを紹介するぞい」
「なんですかそのアイドルチームみたいなノリは」
「良いか?勇者パーティーのメンバーは古来より4人と決まっておる。そのメンバーは勇者、聖騎士、賢者、聖女じゃ」
「知ってます」
「その中でも勇者と聖女は特に重要でな。パーティーに無くてはならない存在なんじゃ」
「ねぇ、聖騎士は?聖騎士もなくてはならない存在よね?」
「という訳で今回紹介するのはこの子じゃ!入っておいで」
コトリがなんだか不満そうだ。後で慰めてあげよう。
さて、師匠の言葉で道場に入ってきたのは丸メガネで杖を持ち、大きな帽子を頭にかけた男だった。
「初めまして、拙者は賢者のリエでござる。仲良くしてくれると嬉しいでござる。デュフフ」
随分変わった奴だ。というか……
「あの……失礼を承知で言わせてもらうと、この流れで賢者ですか」
「ん、おかしいかの?」
「だって完全に聖女を紹介する流れだっから……」
「まあまあ、可愛い女の子に来て欲しい気持ちはわかるが焦るなコトリよ。お主達がここに来てからもう7ヶ月も経っとるし、どのみち5ヶ月以内にはくるはずじゃからのう」
そうである。勇者パーティーはメンバーが全員同い年なのだ。つまり、どんなに遅くても一年以内には全員が揃うということ。
焦る必要はないのだ。別に女子が良かったとかいうわけではないが……
「そうですね……」
「ほれ、リエの歓迎会を開いてやれ」
「はい。今夜はご馳走にしましょうか」
こうしてパーティーメンバーに賢者リエが加わった。
話をしてみると少し変わってはいるが、気さくな男で、すぐに打ち解けることができた。
どうやらここから少し離れた街で暮らしていたようだが、賢者の職業を獲得したのが1ヶ月前のことらしい。その後すぐに魔王軍の襲撃を受けてしまい、街は半壊。馴染みの者も死んでしまって、敵討ちのため魔王軍と戦うことを決めたらしい。
「へー、なんだか私達と少し似てるわね」
「この分だと聖女も……大丈夫であって欲しいけどなぁ……」
「フラグ立てんな。そうそうこんなこと無いわよ。まったく……ほんとふざけた連中だわ魔王軍は」
「まったくでありますなコトリ殿……拙者は魔王のことが憎くて仕方ないでござる。絶対に倒すと泣き友達に誓ったのでふ!」
「よし!じゃあ早速明日から修行だ!師匠は結構厳しいから覚悟しておいた方が良いぞ」
「デュフ、頑張らせてもらうでござる」
………………………………
………………
……
リエの歓迎会が終わって翌日。今日は朝っぱらから修行である。
「それでは今日からリエを交えて修行を行う。まずは……コトリよ、リエと戦ってみてくれ」
「ええ!いきなり僕と戦うんですか?」
「うむ、一度戦ってみることでお互いに現在の実力が確認できるじゃろう」
「分かりました」
こうして僕は、突然やってきた賢者といきなり模擬戦をすることになった。
「よろしくでござる。デュフ、デュフフ」
ここは先輩として余裕を見せよう。
「こちらこそ。剣は木剣で魔法はなんでもアリでOK?」
「……それだと賢者の拙者が有利でござるよ?」
「ハンデだよ。流石にこの間職業を手に入れた新人にハンデ無しで勝負はきついだろうからね」
「なるほど……じゃあ先輩の胸借りるつもりでやらせてもらうでござる。デュフフ」
「それでは、両者構えなさい……」
僕達は互いに剣と杖を持って相手と向き合った。無言の時間が続く……
「はじめ!」
開始の合図と共に詠唱を始めるリエ。
僕は、すぐさま身体強化魔法を自身にかけて木剣片手にリエに接近する。
しかし、近づく前にリエが詠唱を終わらせて魔法を撃ってきた。
「ガトリングファイヤー!」
「あっぶね!」
炎の粒が数十もの弾丸として僕に乱れ打ちされる。
避けれるものは避けて、大きなダメージを受けかねないところは剣で防ぎ、残りは防御結界極小を所々に張る。
一々結界を張っていたら魔力がもたないので、極小結界で防ぐ場所を絞ることで魔力消費を少なく、ダメージを減らす寸法だ。
これによってほとんどノーダメージでリエの元に辿り着く……が、木剣をリエに当てようと振り翳したところでリエが魔法を唱えた。
「腐食!」
途端、僕が握っていた木剣がボロボロと崩れ始めた。炎の粒を弾いた時にかなりダメージを受けていたようだが、今の魔法で完全に壊れてしまったようだ。
武器を失って一瞬迷った僕にリエはさらに魔法を撃ってきた。
「ロック!」
ロックの魔法をかけられた僕は、右手が固まってしまい、動かなくなる。
右手はもう使えない……左手で戦うしかないが、そうなれば持久戦になり、負けてしまうだろう。
そう考えた僕は今すぐ決着をつけねばと、リエに左腕で殴りかかる。
しかし、それを読んでいたリエがシールドを自身に右側に展開した。
「勇者の攻撃はこのシールドじゃ流石に防げないでござるが、、利き手と剣を封じて弱った状態なら十分に防げるでふ。デュフフ!」
「うん……そうくると思ってたよ」
リエが左を警戒してシールドを展開してくることを予想していた僕は、左を囮として使い右足で蹴り上げた。
「グッハァッ」
リエの顔面にもろに入って動かなくなってしまった。
「そこまで!勝者レイナ」
こうしてリエとの模擬戦は終わったわけだが、
随分と強かった。とても職業を手に入れてすぐとは思えないくらいに……