第十一話少年
僕の名前はレイナ。
明後日12歳になる、ごく普通の男の子だ。
この世界の人間は12歳になると1人残らず職業を手に入れるのだ。
僕にはどんな職業が来るのだろうか……
勇者が良いなぁ……
そんなことを考えながら農作業をしていると、大きめの鍬に重心を取られてうっかり転んでしまう。
「イテて……」
「もー、何やってんのよ。ドジねぇ……」
転がった僕に近づいてくる影が一つ……
「なんだ、コトリか……」
「なんだじゃないわよ!良い?村で1番人気のある私が、幼馴染のよしみであんたの為に弁当を作ってきてやってんだからね!感謝しなさい!」
「へへ……コトリの弁当は美味しいもんな。みんな食べたがってるよ」
「弁当の方じゃないわよ!……まぁそっちも美味しいけど……」
「…………?あっ!そんな事よりコトリ、お前今日誕生日だろ?職業は?なんだった?」
僕がコトリに向かってそう聞くと彼女は眉を引き攣らせた。
「ねぇ…私の誕生日はあ、し、た、なんだけど?」
「えっ!?ああ、そうだった、そうだった。ごめんなさい」
こういう時のコトリは少し怖いので早めに謝っておく。
「……まぁ良いわ、明日は1番にあなたに教えてあげる」
「おお!ありがとな!」
「……フン。アンタも明後日は誕生日でしょ?」
「おう!勇者になるんだ!」
「まだ決まってないでしょ……なんでそんな自信満々なのよ」
「うーん……なんとなく?」
「ただの勘じゃない!どうせアンタは野菜ソムリエとかよ」
「とてつもなくキレの無い悪口だな……そういうお前こそ、弁当職人だろ?」
「言ったわね〜、アンタの髪の毛で素敵な人形を作ってあげるわ……あっ!こら!待ちなさい!」
「やなこった!やれるもんなら捕まえてみろよ」
と、遊んでいたところ…父さんがやってきた。
「おいおい、仲睦まじいなぁ……将来は夫婦か?何でもいけど仕事はしっかりやれよー」
「あっ…父さん。ごめんなさい、今すぐやります」
「おう、畑仕事が終わったら、掃除と庭の手入れと洗濯と買い出しに行って夕飯作れよー」
それだけ言うと父さんは家に戻って行った、
「……いつも思うけどアンタ働きすぎじゃない?両親は何やってるのよ」
「お母さんは病気で、父さんはその看病をしてるんだよ」
「あ……そうだったの、ごめんなさいお母さん体調はどう?」
「元気そうだよ」
「ん?病気じゃないの?」
「病気だよ。ギャンブル依存症って病気だって。毎日狂ったように馬の名前を呟いてる」
「庭で駆け回れるほど元気じゃない!おかしいでしょ!?じゃあお父さんの方は何してんの!?」
「前に聞いたら『俺はお前に仕事の指示をしてるんだ』って言ってた。言って知らない女の人を部屋に連れ込んでた」
「つまり何もしてないのね!?いや、ヤっちゃダメなことはヤってる……」
するとコトリは僕を憐れむ目で見てきた。
「いや、別に自覚してない訳じゃないから。あれで気づかないとか、洗脳に近いレベルだから」
「あっ……ああ良かった。でもならなんであの人達に従ってるの?」
「僕1人では稼げないし、せめて職業を手に入れてからだよ。戦闘系の職業だったら冒険者。それ以外ならそれにあった道を行くよ」
「あら、勇者になるんじゃなかったの?」
「あっ…そ、そう勇者。僕は勇者になるんだ!」
「ふふ…応援するわよ。じゃあ私は戻るわ。あんまりここにいたらまた噂立てられちゃうもん」
こうして僕達は別れた。
もう目の前まで迫っていた将来の職業へと期待を寄せて。