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金魚戦記  作者: 悠布
1章 騰蛟起鳳
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7話 海龍

 龍。

 当然、実物は見たことが無い。

 テレビの中では、大きくて強くて誇り高い、神様みたいな生き物として描かれていた。

 

 ウミガメやタツノオトシゴが実在の生物なのは知っていたが、まさか龍までいるとは。


「...すげぇ、かっけー」

 

 いかん、思わずポロっと口にだしてしまった。


 龍はこちらを見て微笑むと、軽く手を挙げる。


「みんな、槍を収めなさい。大丈夫だ、彼に敵意は無いようだよ、最初から」


 兵士達からはほんの少しだけ迷うような気配がしたが、すぐに武器を収めてピシッと左右に整列する。


「すまなかったね、突然武器を向けてしまって。

 こちらに来てくれないか?ベニッピー」

「気にするな。自分で言うのもなんだが、怪しい者なのは自覚しているからな。お前たちの対応は普通だよ」


 スイスイと前に進んで、上を見上げる。


「では改めまして。ベニッピーだ。

 お察しの通り、敵対するつもりは無い。よろしくな」

「ガルトニクスという。部下の無礼を許してくれて感謝する。よろしく」


 ふぅ。始めの挨拶はなんとか上手くいった。

 

 あー、いきなり槍が来てビビった。

 格好いい龍を見たおかげで震えが止まってよかったぜ。


「水空両用の鳥に捕まってな。丁度遠くに離れたい時だったから、そのまま運ばれたんだが...脱出の機会を失って、このとおりだ」

「なるほど。よく理解できた。二度も失礼をしてしまったようだ、すまない。

 災難だったね、後で地上に届けさせてもらうよ」

「それはありがたい。深海は初めてだったから、どうしようかと思っていた」

 

 海を生で見たのも、初めてだったけどな...


 それにしても、なんだか彼は元気が無いようだ。

 この堂々たる姿の割には、生命力が乏しい気がする。


「...ガルトニクス、体調が悪そうに見えるが、大丈夫なのか?」

「ああ、病や怪我ではないよ。少し待っていてくれ」


 そう言うと、ウミガメと兵士たちが動き、既に散らばりつつあった魔力のガラクタを一か所に集める。

 集まったものに彼が手を触れると、スッと魔力が彼に移動した。

 

 それを見て俺は驚く。

 この世界では、空気にも海水にも魔力が含まれている。

 だが、無限に身体に吸い込まれ続けるような仕組みにはなっていないようであった。

 

 しかし、魔力が収まる空の器があれば、ゆるゆるとそちらに移動するだろう。熱が高い方から低い方に流れ込むように。

 ガルトニクスが今何かしたようには見えなかった。本当に、軽く触れただけだ。

 彼の魔力は、これらの魔力品に含まれる総量よりも当然多い。

 しかし、魔力は移動した。

 それが意味するのは、大きな身体に引き伸ばされて薄まった魔力は、この品々よりも少ないということ。

 そんな僅かな量でも、彼の顔色は少し良くなったのだ。


「これはまた、随分と魔力不足のようだな」

「そうなんだ。 ...聞きたいかい?」

「気にはなるな。聞かせてくれるのか? 初対面だが」

「隠すほどのことでもないからね。君が急いでいないのならば、お詫びに話をしよう」


 俺が頷いたのを確認して、ガルトニクスは話し始める。


「約1年程前から、世界の地脈が狂ったのは知っているだろう?

 ある所では魔力の自然放出が増大し、また別の場所ではピタリと止んだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。悪いが既にそこから…知らん。

 俺は...まだ生まれたばかりのようなものなんだ。

 この世界のことについては全くの素人でな」

「ほう?面白いな。わかった、では一から教えてあげよう」


 なんだか機嫌が良くなってきた彼は、楽しそうに教えてくれた。


 質問を繰り返すこと数十分、俺は世界についての付け焼刃の知識を手に入れた!


 ・地下には地脈が巡っており、魔力が流れている

 ・気候や自然現象、地脈を正しく管理するのは「神」

 ・「神」とは、めっちゃ強い力を持った生き物が、交代制で引き受ける役割

 ・最近、自然がおかしい。神が正しく機能していないと思われる。 しかしそんなこと、今までの歴史に無い

 ・異常現象のせいで、世界中が軋み始めている


 一部を抜粋すると、こんな感じだ。


「つまり、おまえのところの魔力が減って、敵のところの魔力が増えたと。で、その分を強い君一人が自分の魔力を削って凌いでいるが、それも危ないということだな」

「...まぁ、間違ってはいないね。略し過ぎているけれど」


 そうか。簡略化し過ぎたようだ。


 ・ガルトニクスの領海は、大事なモノを守護している

 ・強力な国なので、敵はいれどもずっと安泰であった

 ・しかし地脈が狂い、力の均衡が崩れて結界などが危なくなった

 ・維持のため、彼が頑張るも、どうしようもない。

 ・海中から魔力品を集めたが、それも尽きた。知能は劣るが、海鳥(仮)に地上で集めさせていた


 よし。これでいいだろう。


「万事休しそうになってるじゃないか」

「想定外の事態だったのでね。予備戦力もほぼ使い切った。

 守備で手一杯、もうずっと後手に回っているのだ」


 涼しい顔をしているのは、部下の手前だからかな?

 トップは大変だな...


「俺が敵方のスパイだったらどうするんだ。こんな懐に入り込まれて、まったく。」

「うっかり海鳥に捕まる生き物がいるなんて想像もしなかったよ。現に生き物は君が初めてだし?

 そんな奇策、切れ者の間者にも思いつかないだろうね」


 大丈夫だ、俺の心は身体同様ダイヤモンド並みなのだ。かすり傷すら負わないのだ。


「...さて。存外の楽しい時間を過ごせたよ。ベニッピー。そろそろ地上へ送り届けようか」


「ああ、それなんだが。

 ...もしよければ、ここで働かせてくれないか?

 いや、えっと...働かせてクレサイ!

 ここで働きたいんダス!」


 たしか、就職希望のセリフはこんな感じだったはずだ。テレビで細い女の子が、怖い老婆に頼んでいた台詞だ。

 うん、合ってる。


「俺、遠くに離れたいところだったって言ったろ? 海の中なら都合がいいんだ。

 それに多分今、人手不足なんだろう。下働きでも見回りでも、何でもいいからさ!

 ちょっとなら魔法も使えるし。ダメかな?」


 なぜかキョトンと気が抜けた顔をしていたガルトニクスは、ハッとして、ふわっと笑った。


「勿論、ダメなことはない。歓迎するよ...と言いたいところだけれど。

 君は、見たところ淡水魚なんじゃないのか。地上に居たようだし、海の中でも大丈夫なのかい?」


 おお、そんな事か。魔法でお口チャックされなくて良かった。


「大丈夫だ。最初は塩辛かったが、3分で慣れた。ついでに空中でも問題ない」

「凄いついでだね。...それが一番助かるかもしれない。

 何にせよ、君という強力な存在が力を貸してくれるなら、これ以上のことはない。ぜひともよろしく頼む、ベニッピー」


 そんなに強力じゃないぜ俺は。

 絶対買い被ってるよ、じきにわかる。がっかりしても知らないぞ?


「ありがとう。

 ...居場所が手に入って、本当に有難いんだ。

 これからよろしくな、ガルトニクス…様?」


 様付け必要だよな。そういや俺、敬語使えないわ……どうしよ。

 だが、彼は首を振って微笑んだ。


「敬称も敬語も要らないよ。君には臣下ではなく、仲間の客人のような位置に立ってほしいんだ。

 幸いにも、君にしかできない仕事がたくさんあるだろう。

 一緒に頑張ろう、ベニッピー」


 彼は、優し気だが妙に気迫を感じられる表情で、嬉しそうにニッコリと笑んだ。


 こうして俺はこの世界で、仕事と居場所を得た。

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