6話 遭遇
プシュゥゥゥ......
俺の緊張とやる気を返してくれ。
いや、え、はぁぁっ!?
あの鳥、もう何なん!?
わざわざ遠くから、小さいゴミを収集してきたの!?
存在価値を否定されたような気分になり、ブスッとしながらも泳ぎだす。
...積極的に行くと決めたからな。
集められたモノを検分する。
石、木の枝、古ぼけた服、錆びた短剣、花など...
ゴミというよりも、ガラクタのようだ。
なぜか全てが魔力を帯びている。ただのガラクタ集めではなく、魔力集め? なのかもしれない。
そして、少し落ち着いて気づいたのだが、結構お腹が空いている。
ご飯をくれるご主人様はもういないのだから、自分で食料も確保しなければならない。
今までは人工的な完全栄養食を主食としていたが、柔らかい植物や小さな生き物ならば基本的に何でも食べられるのだ。
と、いうことで、食料を探す。
数十分後。
最初から薄々わかってはいたが、やはり食べられるものはこの小さな花しかないようである。
当然、花なんて食べたことは無いが、空腹感を消すには食べるしかない。
「いただきます」
リョウタ様の真似をして、食前の言葉を口に出してみる。
彼はメインの食事は別の部屋でとっていたが、自分の部屋でおやつを食べる際にも、よくこう言っていた。
食べ物そのものと、作ってくれた人、加工してくれた人、用意してくれた人全てに対する感謝の言葉らしい。
折角喋れるようになったのだから、できるところは彼の真似をしていくつもりだ。
無造作に地面に放り出された花に近づく。
スミレに似た銀色の花だ。こんな色の花は、元の世界では見たことが無いな。
ハムハムと含んで飲み込んだ。
いかにも花びらっぽい味がする。
美味くも不味くもないが、とりあえず腹は満たされた。
満腹になったら、睡魔が襲ってきた。
今は近くに敵もいないようだし、少し昼寝をしてもいいよな?
起きたら何をするか考えよう。
傍に転がっているぼろいローブにくるまって、スッと眠りに落ちた。
「...、...」
「...か、これ...な」
「しかし、もうこれ以上は...」
身体の揺れで目を覚ます。
あれ。
起きたらまたなんか運ばれてる。誰かの話し声も聞こえるぞ。
ローブからそっと顔を出して、様子を伺う。
いつのまにか、ガラクタ仲間たちと共に大きな網に包まれて、広い洞窟を進んでいた。
なんということだ、また受け身のまま事態が進行している!
仕方ない、次こそ気張っていこう!
俺たちを運んでいるのは、巨大なウミガメとタツノオトシゴだった。
いや、もう驚かないよ?ほんの少ししか。
鳥が海を深く潜り、花は銀色の、精霊だらけの世界だ。
服を着た海洋生物が海底洞窟を泳いでいたって驚かない。少ししか。
どうする、網を破って飛び出すか?
もたもたしていたら、今度は本当に危なくなるかもしれない。
飛び出して...この強そうな連中が襲ってきたら?
この外は深くて暗い海だ。さすがに大きな海洋生物からは逃げ切れる気がしない。
...待て、よく考えよう。
おそらく俺は「魔力を含むモノ」としてこの場にいる。
敵対行動をとらなければ、「生き物が混じってたか~、ゴメンね、行っていいヨ!」って解放されるんじゃね?
きっとそうだ、そうに違いない。
そしてその時こそ「ふはは、苦しゅうない!」スタイルでいこう。
「あのー...」
そっと発せられた俺の声はしかし、ゴゴゴゴゴ…という音に搔き消される。
眼前の岩壁が動く音だった。
いかなる絡繰りか、壁が左右に分かれていく。
自動ドアなのか!?
開いた岩壁の先に広がる空間に向かって、タツノオトシゴが声をかける。
「失礼いたします。魔力品をお持ちしました」
「そうか、ありがとう。入ってくれ」
誰かの返答が聞こえ、俺たちはまたスイスイ運ばれていく。
やっぱり「魔力品」だった!よかった、無事にやり過ごせそうだ。
おもむろに網の口が開き、俺たちはわさわさと水中に出されてその場に漂う。
ローブを抜け出し、偉い人がいそうな方向を向き、シャッキっとヒレを伸ばして声を張り上げる。
「こんにちは! うっかり紛れ込んだ、ベニッピーだ!
怪しいものじゃないぞ!」
挨拶ってこんな感じでよかっただろうか?
名を名乗り、軽く事情と状況を説明する。うん、大丈夫だ。
だが。
ヴォン…という音がして、一拍遅れて水流による衝撃が全方位からやってきた。
一瞬前まで俺がいた場所に。
怪しい魚に槍を突き付けたはずの海洋兵士?たちは、突如、対象が消えて戸惑う。
「どこだ!?」
「上だよ。...今は後ろ」
ヒョイヒョイと移動し、兵士たちを攪乱する。
怪しいものじゃないと言ったが、こうなったか。
さっき鳥さんに後ろから不意打ちされたばかりだ。同じ手はもう食わない。
ましてやここは敵地かもしれない場所だ。最初から油断なんてしていない。
昼寝は...例外だ。生理現象には逆らえん。
最初に出た場所から少し後ろに下がって、この場の主らしき人影がやっと視界に収まる。
今まで巨大過ぎてわからなかったが、それは...。
龍だった。