3話 脱出
最大限に辺りを警戒しながら、こそこそと進む。
天井の高い、シンプルな造りの巨大な廊下を、人気の無さそうな方へと向かっていたのだが。
...待てよ。
このまま外に出てしまって、いいのだろうか。
建物の外に酸素が無かったり、一歩外に出た瞬間に空飛ぶサメに襲い掛かられたり…しないだろうか。
―――そんな事が無いとは、言い切れない。
だってここ、地球じゃないんだから。
いや、そもそも。
なんで、誰かを召喚しようとしていたんだ?
「......。」
うん、もう少し情報収集していこう。ノープランのまま逃走開始する方が、危険かもしれない。
身の安全を最優先に、見つからないように人間を探そう。
低空飛行を止め、思い切って天井すれすれまで上昇した。
よく考えたらさ、下向いて進む人よりも上を向いて歩く人の方が少ないよな。
何事も、上昇志向でいきましょう。
視野の高さに驚きながら飛んでいた所で、一つ目の壁に遭遇した。
物理的な壁だ。正確には、木製の重そうな扉である。
そっと身体で押してみたが、開かない。向こう側から押す構造なのだろう。
力ずくで、体当たりして開けるか...?
...いや、止めておこう。
俺の身体、頑丈になったからな。本気で突進したら、弾丸のように貫いてしまいそうだ。
こんな美麗な扉を破壊するのは忍びない。
誰かが来るのを待って、しれっと背中にひっついて通るか?
――とも考えたが、幸か不幸か、全く人気が無い。
廊下の反対側にも進んでみたが、残念ながら、行き止まりの壁だった。
どうしようかな。
扉を突き破って廊下の先に進むか、その辺の窓ガラスを割って、外へとアイキャンフライするか。
実は、部屋を出た時から、誰かの視線を感じている。
魚って、視線に超敏感なんだよ。本能ってヤツだな。
部屋の中では感じなかったから、俺が猛スピードで泳ぐお喋り金魚だという事は、バレていないと思う。
体色の変化くらいならタコでもできるし、その程度なら見せても問題ないだろうと判断したのだ。
試しに、もう諦めたフリでもしてみようか。
万策尽きたー、降参でーす、という仕草でもすれば、誰かが――というか、あのクセモノ召喚師長がニコニコとお迎えに来てくれそうな気がするのだ。
......だが、やっぱりなんかヤダな。
負けを認めたみたいじゃないか。
というか、普通に一番危険な選択肢だろう。
窓の外を観察する。
緑の自然の景色が広がり、小鳥の群れが飛んでいる。
とりあえず、超危なそうなヤツはうろついていないように見えるな。
自分の能力を確認する。
空気呼吸、ハイスピード、硬い身体、グレードアップした頭脳、多少の魔法。
―――よし、行こう。
俺はおもむろに手近な窓に寄ると、
バリーン!!
と派手な音とともに、地味な色のまま、鮮烈な外界デビューを果たした。