7話 村の嫌われ者の登場です
礼拝堂には一人の老婆がカツカツと歩いて入ってきた。全身黒づくめで、ちょっと魔女のような雰囲気だ。私は魔老婆と言いたくなる。
「こんな教会無くなってしまえばいい!」
魔老婆は、ギャーギャー騒いでいた。
「あのおばあさんは、占い師。チェリーおばあさんっていうの。なぜかこの教会を嫌っているの。気をつけて」
アナが私の耳にそっと囁く。
平和そうな村でも全員が全員良い人では無さそうだ。
「チェリーおばさま、どうしました?」
あんな酷い事を言われているのに、牧師さんはちっとも動じなかった。それどころか、ちょっと笑顔まで浮かべている。
「うるさい! 私は教会が嫌いなんだ!」
確かクリスチャンは占いに否定的だったと聞いた事がある。魔老婆はどういう理由で教会を嫌っているかは不明であるが、そんな所が原因なのだろうと予想する。
「あ? なんだ、この女は」
魔老婆は、私に気づくと不躾に指刺してきた。確かに西洋風の顔立ちばかりのこの土地で、私の黒髪と平たい顔は目立つだろう。
「この方はアンナと同じ転移者よ」
アナが説明すると、魔老婆はさらに激昂しはじめた。
「転移者だって! 私はこんな奴ら大嫌いだ!」
なぜかわからないが、私は魔老婆から強い悪意を感じて戸惑う。
「今すぐこの村から出て行け!」
「それはないんじゃない? チェリーさん。この方は行く場所がないのよ。この村で保護するのが当然のつとめよ」
クラリッサは、魔老婆を見据えてキッパリといった。上品というより、とても芯の強そうな女性という感じた。
「そうよ。チェリーさん、あなた失礼ね」
「そもそも教会に何で来たの?」
ジャスミンやアナにまで言われて、魔老婆がタジタジになってきた。
「あれ? もしかして、聖書に興味あるんですか? 嬉しいな! これ僕のですけれど、一冊あげます! さあ、神様に罪を謝って一緒に救われましょう!」
牧師さんは天然なんだろうか?全く空気を読まず、キラキラの笑顔でかなり読み込まれた古い聖書を魔老婆に無理矢理渡した。
魔老婆に攻撃されていたはずなのに、牧師さんは何のダメージも食らっていないようだ。強い人だなぁと私は思った。
「こんなもんいるか!」
魔老婆は、牧師さんのこの行動にすっかり負けてしまったようで、尻尾をまいて逃げていった。
この事にクラリッサやジャスミン、アナも牧師さんも謝ってきた。
「いえいえ。気にしてませんって。というか、あの人なんなんですか?」
私は慌てて気にしていない事をみんなに伝えた。ここの人たちの人の良さに私は逆に面食らってしまう。
「あの人は、村の古くからの住人なんですが、身寄りもいないし可哀想な人なんです」
牧師さんは目に涙も浮かべていた。本気で同情しているようだ。
確か聖書では敵を愛せとあったし、牧師らしく敬虔な人なのだろうと思った。私が右の頬を殴ったら左の頬を差し出しそうである。しかし、こんな人を傷つけたら神様に何十倍も報復されそうだ。そんな事は恐ろしくて出来ない。
「まあ、可哀想な人よね」
「そうね」
「うん、可哀想ね」
ジャスミン、クラリッサ、アナも牧師さんに同意する。さすがに泣いてはいなかったが、彼らのこの態度を見ていると、魔老婆を無闇やたらと嫌いにはなれなかった。逆にちょっぴり切ない気分にもなってしまう。
そんな気分で雑談もあまり盛り上がらず、結局アナと二人で教会を後にした。