番外編短編・未亡人とメイドの秘密
事件が解決して1週間以上がたった。私は毎日やる事がない。
教会の子供であるアビーとジーンに英語を教えていたりもしたが、この国では基本的に独立心を促す教育が一般的らしい。子供が興味のある事をやらせ、座学でつっききりに学習する習慣はあまりないそうである。アビーは手芸、ジーンはミシェルに影響されて小説を書きはじめていて、正直なところ子供の世話もする事がない。
暇になった私は、クラリッサからの提案を飲む事にした。
クラリッサの屋敷は広い。有能なプラムのおかげで維持されているが、正直なところ人手が足らないという話だった。給料は低いが、食事と寝るところは与えるという好条件。
牧師館で牧師さんのそばで生活するのも悪くないが、いつまでのニート状態であるのも恥ずかしい。暇な事も相まって、私はクラリッサのメイドになる事を決めた。
屋敷の一階の北向きの部屋が私の部屋となった。ちなみに隣の部屋はプラムの部屋であるが、私の部屋より大きい。それは仕方ないが。一つ気になる事があった。
部屋にまるでお姫様のような女性の絵が飾ってある。レースをたっぷりとつけたドレスに、頭にはティアラを乗っけている。誰がどう見てもお姫様の絵だ。私はうっとりとそれを眺めてしまう。
「この絵、綺麗ですね」
「ええ。これはクラリッサの若い頃の絵よ」
さらりとプラムが言い、私は目を丸くする。
「本当?」
という事は、クラリッサはかなり高貴な女性なのだろうか。
「実はクラリッサは王族の女性なのよ。まあ、彼女自身は平民出身の美容師だったんけど、王族の血筋の男性に見初められてね」
「本当ですか?」
クラリッサの生い立ちはまるでロマンス小説の様である。金持ちで品のいい女性だとは思っていたが、本当だったようである。
「一時は王都のお城に住んでた事もあるのよ」
「す、すごい…」
そんなクラリッサと自分は気安く接して良いのだろうか。
「まあ、昔の話ね」
「そうですけど。プラムは何か知ってるの?」
どうもこのプラムの口調が、当時のクラリッサを知っている事を匂わせていた。
いつも無表情プラムだったが、この昔話には、ちょっと表情を和らげている。こうしてみると女性らしい柔らかさを感じさせる。
「ええ。懐かしいわ。私は、元々隣国のスパイでクラリッサのお城に潜り込んでいたのよね…」
「えぇ? 本当ですか!?」
その話の方が、私を数倍驚かせた。
「そう。でも何故かクラリッサに気に入られてね。こうして彼女のメイドとして永久就職したわけ」
その事実もびっくりだが、彼女はかなり有能なようでクラリッサから美容師の技術も教えてもらってマスターしてしまったらしい。他にも料理や掃除、庭仕事ももちろん、護身術にも長けていて一年ぐらい前にこの村に出た殺人犯をボコボコして杏奈先生を守った事なども告白した。
「だから、マスミ。これからも安心して殺人事件の調査して大丈夫よ。いざとなったら私が全力で守ってあげる」
「すごい! プラム!」
私は目をキラキラとさせてプラムを見つめる。その対象が男性で無い事が残念ではあるが、やけにプラムがかっこよく見えてしまった。
そんな私をお姫様のようなクラリッサの絵が微笑みながら見ているような気がした。




