エピローグ
クラリッサの家から帰る途中にパン屋のミッキーに会った。
「マスミ!」
「ミッキー、こんにちわ」
もう夕方であるが、ついこんにちはと言ってしまう。夕方のこんばんはというのもちょっと大袈裟な気もしてしまう。ミッキーも教会に行くようで、一緒に歩き始める。
ミッキーはパンの入ったカゴを抱えていた。いつものように余り物のパンを教会に寄付するのかと思ったが、パンの形状がいつもと違う。丸いパンの中心部にシチューが入ったパンがある。トッピングのチーズが美味しそうに焦げ、日本でも売ってる惣菜パンとも似ていた。
「このパン、美味しそうね」
「ああ、マスミから聞いた話を元にソーザイパンっていうのを作ってみた。まだまだ試作段階であるので、マスミやミシェル達にも試してもらいたい思ってな」
「そうなの?」
シチューの入ったパンは美味しそうで、見かけだけでも合格点だが。
「でもソーザイパンがこの土地の人に受け入れられるかは未知数だろ。色々と改良を重ねないと」
その横顔は、いかにも真面目そうで真剣だ。そういえば日本のあんぱんだって5年の歳月をかけて開発したとミシェルが言っていた。やはり一つのパンを生み出す事は、そう簡単に出来る事では無いのかもしれない。
今回の事件でミッキーの事を疑ってしまった事は恥ずかしい。それは自分の勝手な決めつけであった。私はその事を素直に詫びた。
「いや、良いんだよ。俺もアンナに敬意はなかったと思う。すまん」
「そんな謝らないでよ」
やっぱりミッキーは、誠実な人柄のようだ。こんなミッキーの姿を見て、この村でも私は生きていけそうに感じた。
「ミッキー、カゴかして。お詫びに私がこのパンを教会に持っていくわ」
「ちょっと重いぞ。俺のパンは風船玉ではないから」
「あはは」
最後にミッキーはブラックな冗談を言っていたが、私は苦笑するしかなかった。
ミッキーからパンのカゴを受け取り、教会に帰る。
キッチンの行くと牧師さんがシチューを煮ていた。今日は事件が解決したお祝いでお肉たっぷりのホワイトシチューである。
「エリマキは、牧師さんの首が好きね…。暑くない?」
「仕方ないですよ、マスミ」
牧師さんの首には一匹のマリエが襟巻きのように巻きついている。黄色のモフモフの毛並みは癒されるが、この時期はちょっと暑いかもしれない。
このマリエは、「エリマキ」と日本語でなづけられ、牧師館のペットになった。あの森でマリエは絶滅状態だったが、一匹だけ奇跡的に助かったのがいた。衰弱していたので、牧師館で世話をしている。本当は英語でマフラーという名前にしたかったが、どうも語呂が悪い。
結局私が日本語の「エリマキ」が良いんじゃないかと提案し、その名で定着している。ただ、一番懐いているのは牧師さんでいつも首に巻きついていた。その姿は私を大変キュンとさせ、ますますエリマキを殺して変な儀式などできなくなった。それに今は日本に帰りたくはない。
「ミシェルは?」
「上で小説執筆ですよ」
牧師さんは鍋をかき混ぜながらため息をつく。
ミシェルはハマっていた『トリップ!』がパクリだと言う事が判明しショックを受けていた。ただ、牧師さんが「好きな小説が無くなったら自分で書けば良いじゃない」とアドバイスし、実際部屋にこもって小説執筆をするようになってしまった。
「聖書の勉強もするべきなんですがね…」
「まあ、良いじゃない。すぐ飽きると思うよ」
シチューが出来上がり、皿に盛り付けるのを手伝い、食堂に持っていく。アビーやジーンも外の遊びから帰ってきて、ミシェルも部屋から出てきた。
みんなで夕飯の準備も着々と進む。美味しいそうなシチューの香りとみんなの笑い声。
こんな殺人事件だらけの村に異世界転移してしまった。こんなコージーミステリ風の村に異世界転移してしまった事に一時は不満を抱いたものだが、目の前にある平和な日常を噛み締めながら、それも悪くないだろうと思った。別に私はロマンス小説のヒロインでもないし、シンデレラストーリーにならなくたって良いのだ。
この村に私がいる事は、何か意味もあるのかもしれない。
願わくはこの村にも神様の御加護があらんことを。
God bless you!
ご覧いただきありがとうございました。
こちらで本編完結になります。




