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異世界転移先が殺人事件だらけの小さな村だった〜田舎パンとマリトッツォ殺人事件〜  作者: 地野千塩


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42話 ハッピーエンド!?

 こうして事件が解決して1週間が経った。


 ロブは捕まり、杏奈先生の遺体は埋葬された。


 私の火傷もすっかり良くなり、今日は最後のジェイクとの往診である。ジェイクは相変わらずイケメンだが、あの日助けてくれた牧師さんの淡い気持ちを持っていた。まあ、それは恋なのか自分ではわからないが、ジェイクについての気持ちは完全に冷えている。もしかしたらジェイクへの感情は、アイドルを見るかの様なものだったのかもしれない。つくづく自分の免疫のなさが嫌になる。


「マスミ、火傷はもう大丈夫ですね。跡も残らないと思う」

「本当? 色々と診てくれてありがとうね」

「それにしてもロブが犯人だったなんてな」


 ジェイクはまだロブが犯人だとは信じられないようだ。村人の多くはロブを良い人物だと思い込んでいて、信じられないという声が多い。自分が気づけたのは、村でが新参者なのでフラットな目線でロブを見る事ができたからなのかもしれない。まあ、ロブにパンやジュースを奢ってもらった事などを思い出すと本当に犯人だったのかと疑う気持ちはわかる。


「人は見かけによらないのかもしれないな。僕もこんな健康ヲタクだとは知らなかったって女性にガッカリされる事が多いんですよ」

「それはちょっと想像がつきますね」


 私はちょっと苦笑する。ジェイクはイケメンだが毎日のようにあの芋粥が出てきたら、ちょっと嫌である。


「ところで占い師のチェリーは大丈夫?」

「大丈夫ですよ。今日もミシェルと牧師さんが見舞いに来てました」


 魔老婆はあの後ジェイクの治療で命を取り留めた。しかし、犯人に襲われた事などの精神的ショックが大きいようで、ここ数年の記憶を失っていた。無理もない事だろう。


 当然、如何わしい魔術や儀式についても記憶を失い、今はすっかり子供のような無垢な性格に変わり、ミシェルや牧師さんの見舞いに感謝して泣くほどでもあった。聖書にも興味を持ち始めたようである。


 この魔老婆の改心は、同時に私は日本に二度と帰れない事も示していたが仕方ないだろう。


「マスミ、元いた世界には帰りたくない?」

「うーん、今はそうでもないかな。もちろん帰りた気持ちはあるけど、ここはご飯も健康的だし空気もいいし、すっかり元気になったしね」


 この村に来てから持病であった偏頭痛や生理痛、便秘、だるさなどの軽い不調がすっかり良くなっていた。ろくな化粧品もないのにニキビもできず、肌の調子もいい。


 それに牧師さんについて淡い気持ちあり、現状帰りたくないというのも本音である。あんな小さな動物を犠牲にしてまで帰りたいとも思えない。


「まあ、僕はマスミを歓迎するよ。ずっとこの村にいてもいい」


 キラキラの王子様のような笑顔でジェイクが言う。


「ありがとう」


 相変わらずイケメンだな〜と思いながらも、私はジェイクの親切心が嬉しく、穏やかに笑った。


 ジェイクの治療が終わると、真っ先にクラリッサの家に向かった。今日は昼からお茶会をする約束をしている。


 前に来た時と同じように庭にテーブルを出し、プラムとクラリッサと三人でお茶会を始める。


 色鮮やかな庭の薔薇を見るだけでも私の気持ちは華やかになる。こうしてゆっくりお茶をすする事など日本では決してできない事だし、やはり帰りたい気持ちが薄らいでいく。


「それで、火事の時はどうだった?」

「そうね。正直死ぬと思ったわね」


 クラリッサは自身の小説の創作のために、私に事件の事を取材していた。プラムは私の言う事をメモして、すっかり有能なメイドモードである。


 あの後、プラムはパンケーキの改良を重ね、なんと本当にパンケーキを作り上げてしまった。このお茶会のテーブルの上には、何段にも重ねられたパンケーキが載っている。


 小麦粉料理は基本的に主食であるこの土地で、甘い砂糖入りというのは抵抗があったそうだが、砂糖の分量を控えめにし小麦は全粒粉にしたそうだ。確かに少し硬くてフワフワ感のないパンケーキになったようだ。あんな不味いパンケーキを作ってしまい、クラリッサには悪い事をしたと思ったが、こうして有能なメイドのプラムに救われた感じである。


「それにしてもロブが犯人だったなんてね。私は信じられないわ」


 取材を終えるとクラリッサは、ため息をつく。ちょっと呆れたようなため息をつき、ジュースペーストをパンケーキに塗っていた。ちなみにジュースペーストもプラムが改良し、パンやパンケーキに塗るようちょうど良い味になっている。ミッキーの店にもジュースペーストが売られるようになったがそちらよりも若干甘みは少ない。持病があるクラリッサへのプラムの配慮だろう。


「でもパクリは良くないですよ、クラリッサ」


 プラムは冷静に指摘する。


「そうね。本一冊書き上げるのにどれだけの力がいるか。作家としてもロブの行動を認める事はできないわね」


 そうは言ってもクラリッサは本気で怒っているよでもない。きっと美味しいパンケーキやブラックティーで機嫌が良くなっているのだろう。私もおいしいパンケーキを食べるとあんな悲惨な事件があった事は忘れそうになる。


「ところで、ロブがパクっていた本はどうなったの?」


 私はそれが気になっていた。王都の情報はインターネットのない世界ではかなか入ってこない。不便だと思うが、今までが便利過ぎたのかもしれない。


「それは私の出版社に手紙を書いて聞いてみたんだけど、全部発売中止で回収しているそうよ。絶版って事ね」

「そうですか、よかったです」


 クラリッサからその話を聞いて思わずホッとする。あのままパクリであるロマンス小説が発売されていると思うと理不尽さしか感じないが、こうして適切な処理がされて良かったと思う。


「まぁ、これでハッピーエンドね! 美味しいパンケーキを食べましょう」

「ええ」

「そうね」


 こうして三人で長閑なお茶会を楽しんだ。話は事件のことで盛り上がり、結局帰るのは夕方になってしまった。やっぱりみんなで食事をするのは楽しい。それはどんなご馳走よりも美味しく感じられる事だと思う。

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