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異世界転移先が殺人事件だらけの小さな村だった〜田舎パンとマリトッツォ殺人事件〜  作者: 地野千塩


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39話 全ての謎が解けました

 翌日、朝からバタバタと忙しかった。


 今日は教会でバザーがあるので、牧師館の一室で屋台の準備をしたり、商品を運んだり朝から私も手伝いに駆り出された。アビーやジーンも自分で作った手芸品を販売するらしく素直に牧師さんやミシェルを手伝っていた。そんな姿を見ていると、自分だけ事件調査をするのも気が引けた。それに犯人の目星はついてしまったので、少し余裕もあるのも事実だった。


 教科の側にある広い庭に続々と屋台がつくられ、食器や服、タオル、手芸品や焼き菓子(と言っても黒っぽい全粒クッキー)やパンが並べられる。ちなみに焼き菓子やパンはミッキーが提供したもので無料で振舞われる。いわば客寄せ的な品物である。アナも途中からやってきてジュースを振る舞う予定である。これは有料ではあるが、他のバザーの品々と同様にチャリティーとなる。収益はこの国の孤児院などに寄付される予定らしい。


 バザーの屋台もアナのジュースの屋台の準備がすっかり終わり、あとはお客を待つだけだ。ミッキーも納品後も手伝ってくれるようで、パンや焼き菓子の販売も請け負ってくれるという。


「アンナは、アビーやジーンと一緒に手芸品を売ってくれますか?」


 牧師さんに頼まれて、その役目につく事になる。


「ええ、小銭がここに入れて、おつりはこの小さな金庫から出せばいいのね?」

「そうです。電卓要りますね。持ってきますね」


 さすがにバーコードないようだが、電卓はあるようでホッとする。ここのお金は日本と違って硬貨の種類も多いし、お金の扱いは気をつけなければならないだろう。


「これ、アビーが作ったの?」


 牧師さんから電卓を受け取ると、売り物の手芸品をよく見ると、可愛らしいフェルトでできたぬいぐるみだった。日本では見た事のないような狐のようなタヌキのような形の動物で目につく。


「うん、これはマリエっていう森に住んでる動物よ」

「マリエ?」


 音の響きだけは日本の女性名のようでもある。


「うん。マフラーみたいに首にくるっとくっついたりするんだよ」


 アビーはちょっとドヤ顔説明する。


「マリエは、霊力が強い動物とも言われておまじないでも使ったりもするんだよ」


 ジーンはさらのドヤ顔で言っていたが、おまじないなんて言葉を教会で言わないの!と牧師さんに怒られていた。その真意はともかく、マスコットのそれは可愛らしい。


 そうこうしているうちに午前10時すぎ、時間になりバザーが始まった。想像以上に客はやってきた。村で見たことのない顔も多く、隣の村などからも客が来ているらしい。今日は晴れているが昨日ほど暑くもないので、ちょっとしたお祭り感覚で客も来やすいのかもしれない。


 村の皆は西洋風なルックスなので、日本人らしいルックスの私はとても浮く。事情を知らない村人たちは、色々質問してきたが、転移者である事などわざわざ言ってられない。こうやった接客は学生以来久しぶりなので、てんてこまいだ。


 とはうえ、ミッキーや牧師さんが担当するパンや焼き菓子の方はもっと混み合っていた。やはりどこの土地でも無料のものは人は弱いのだろう。なんとあの魔老婆も無料のパンや焼き菓子目当てに列に並んでいる。あっという間に無料配布のパンや焼きお菓子は完売し、教会の庭ではパンやアナのジュースを片手に買い物を楽しむ客ばかりで溢れる。私のいる手芸品売り場は比較的客は減ってきた。


「よぉ、マスミ」


 ロブが手芸品の屋台の側のやってきて、私は無自覚に緊張した。まさか、「あなたを疑っています!」などとはとても言えない。


「おぉ、マリエのマスコットか」


 ロブはアビー達が作ったマスコットを見てニヤリと笑った。嫌な笑い方である。やっぱりこの人が犯人?


「ロブ、これは私が作ったんだよ〜」

「僕も作った!」


 子供たちはドヤ顔で鼻の穴をちょっと膨らませていた。


「おぉ、そうかい。うまいもんだ。えらい、えらい」

「そうでしょ!」

「ロブ好きー!」


 ロブは子供達には懐かれていたようである。こうして見ると気のいいお爺さんにしか見えないものである。


 本当に犯人?日本の小説をパクリ、殺人や放火をした犯人?


 ロブの見かけだけ見るとそんな事をした人物だとはとても思えない。やっぱり私の推理は間違っているのかもしれない。


「じゃあ、このマリエのマスコットを二つ買おうかな」


 しかもマスコットまで買っている。ロブは私にパンやジュースも奢ってくれた事もある。役所にも付き添ってくれた人物ではあるが、犯人だと疑っている自分がやっぱり間違っているのだろうか。


「マリエのマスコット本当に買うの?」

「うん。マリエはおまじないにも効くしなぁ」

「ジーンも言ってたけど、教会でおまじないって…。確かキリスト教ってそういうの禁止していなかったっけ?」

「ははは」


 なぜかここでロブは笑い始めた。


「うん、まあ俺は日曜礼拝だけ行ってるサンデークリスチャンだからな〜」


 そう苦笑してマリエのマスコットを買って帰っていった。


 一番疑わしい人物に会ったわけだが、当然何のボロも出さなかった。それどころかやっぱり人が良さそうで、自分の推理があっている事の自信も揺らいでしまう。


「ハイ、マスミ!」

「ジャスミンは王都に行ってたんじゃないの?」


 ジャスミンも客として手芸品の屋台にやってきた。客はどっと減ってきて子供達は飽き始め、アンのジュースの屋台の方へ行ってしまった。あっちは混み合っていて、子供達もそこを手伝わせた方が良いだろう。アナはてんてこまいで猫の手も借りたい筈だ。


「ねぇ、これがマスミからの頼まれもの」


 ジャスミンは、どっしりと重い紙袋を私に渡した。中身は本だった。6冊ぐらいハードカバーが入っている。


「わ、ありがとう! こんなにたくさん!」

「王都では軽い小説が流行ってるみたいね、店頭にいっぱい並べられてたわ。うちの図書館の選書の参考にしようかな」


 そんな話題なのでヒヤヒヤとする。王都で流行っている小説の正体がわかってしまうと犯人は困るかもしれない。私は人だかりを見て、ロブがいないか確認した。ロブはいなかったが、魔老婆は配布された焼き菓子を食べて歩きまわっていた。


「今度、日本語の事教えるね」

「うん、楽しみにしている。マスミの国の言葉を話してみたいわ」


 ジャスミンはそう笑ってミッキーや牧師さん、ミシェルが販売している日曜品のバザーの方へ行ってしまった。


 ちょうど客も途切れたので、ジャスミンから貰った紙袋の中身を眺めて見た。『トリップ!』も入っていた。これはいいとして、別の本を見て私は目が飛び出るほど驚いた。


『愛と薔薇と夢の果てに…それは永遠』という本だった。帯には『トリップ!』と同じ作者の新境地ラブロマンスとあるが、私は「ありえない!」と叫びそうになる。


『愛と薔薇と夢の果てに…それは永遠』は私が日本で楽しんでいたロマンス小説だった。アメリカの作家が書いたもので、もちろん本国では英語で書かれたものが出版されている。日本ではロマンス小説自体がニッチジャンルではあるが、本国では実写化も決まっている人気作だ。


 怒りで震えながら中身をペラペラと捲ると展開や台詞も全く一緒だった。相違点は、表紙デザインと作者名だけと言っていいだろう。


 なぜ異世界に元いた世界のロマンス小説があるの?


 パクっている奴がいるのに決まっている!


 犯行の硬い証拠とまではいえないが、動機になるものははっきりとわかる。きっと犯人は杏奈先生とパクリ小説作成を共謀していて、二人の間で揉めて殺されたに違いない。


 私が狙われた理由もよくわかる。こんな悪事をやっている事がわかるのは、転移者だけだ。犯人にとっては今すぐにでも消したい存在だろう。

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