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異世界転移先が殺人事件だらけの小さな村だった〜田舎パンとマリトッツォ殺人事件〜  作者: 地野千塩


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26話 ある意味飯テロです

 翌日、私はあまりの空腹に早朝に目を覚ました。


 病室にいるわけだが、不思議と身体は軽くなっていた。断食の効果は不明だが、胃に入れるものが少ないという事はその分、身体が軽くなる効果はあるのかもしれない。火傷の傷口も心なしか、昨日より痛みを感じない気もする。まあ、これはプラシーボ効果というやつかも知れない。


 トイレに行った帰り、ジェイク様に会った。この人はぜいぶんと朝が早いようである。腕まくりをし、何かカゴを持っていた。


「なんですか? このカゴは?」

「ハーブです。うちの庭で育てているんですよ。火傷なんかは薬よりもハーブで治ってしまうのもあるんですよ。ご飯食べたら、少し塗ってみましょう」


 カゴの中にはアロエのようなものが見えた。そういえば火傷をした時祖母のアロエを塗って貰った事を思い出す。効果があったかどうかはわからないが、祖母に手当をして貰った事が嬉しく、すぐ治ってしまった事を思い出す。この国ではアロエは何と呼ぶのか不明だが、火傷のきくというし、元の世界にあったアロエで間違いないだろう。


「ありがとう、ジェイク」

「どういたしまして。これを塗ったらいよいよお楽しみのお食事ですよ」

「本当ですか?」

「うん。お腹減ったでしょう」

「もう、ぺこぺこですよ」


 その後、火傷の痕にアロエを塗ってもらった。やはり私はロマンス小説ばかり読んできたので免疫はないのだろう。単なる医療行為であるのに、いちいちドキドキし顔は真っ赤。


「おお、マスミ。体温が高い様ですね。体温が高いというのは、免疫力が高い証拠です」


 ジェイク様は私のこんな態度を免疫が高いと誤解していた。もしかして、この人とても鈍い?


「風邪をひいてもなるべく解熱剤は使いませんね。熱を出させて悪いものを解毒させてしまった方が治りが早いんだ」


 その後、ジェイクはペラペラと医療と健康情報を話していた。医者という職業の意識も高いだろうか、やっぱりもともとは健康マニアなのだろうと思う。話している時のジェイクは、目がキラキラとして本当に王子様みたいである。しかし、話している内容はその事ばかりで、いくらイケメンといえども欠伸が出てきそうになった。


 ウトウトしかけたところ、食事の鍋がそろそろ煮詰まったと病室から出て行った。


 しばらくしてジェイク様はお盆を抱えて戻ってきた。お盆の上には、温かいスープの様なものがあるようで、湯気がモワモワ出てジェイク様の美しい顔を少し隠した。甘っとろい匂いもするが、独自の匂いで食欲はそそられない。


「さあ、マスミ。アマイモとキキ麦のお粥ができましたよ。一緒に食べましょう」


 そう言ってジェイク様はて早くベッドの上に置く机をだし、そこに二人分の食事を置く。私はベッドの上でそのまま食事ができそうだが、ジェイク様は椅子をだしてベッドの側に座る。


「このお粥は何ですか?」


 断食中とはいえ、あまり美味しそうには見えなかった。むしろ逆方面の味がしそうである。


 黄色いイモ(おそらくサツマイモの様なイモ)とオートミールのような麦がドロドロに煮詰められている。


「アマイモとキキ麦のお粥ですよ。この村では断食明けによく食べる回復食ですね。食物繊維や鉄分などの栄養豊富ですぐ良くなりますよ」

「そ、そうですか…」

「さあ、食べましょう」


 一口スプーンで口に入れたが、想像通りの味である。甘いお粥だった。全く美味しくない。でもイケメンが作ってくれると思うと残すのは申し訳なくなり、なんとか噛み締めて食べる。正直これが不細工の料理だったら絶対残す。※ただしイケメンに限るという言葉が頭の中で延々と流れていた。我ながら性格悪い。杏奈先生がこの村に来てから性格悪い事に気づいたと言っていたが、その気持ちはよくわかる。


「美味しいですか?」

「え、ええ。健康に良さそうですね」


 美味しいとは言えないので、別の言葉で置き換えた。やっぱりこの世界の食文化は合わない様である。イケメンと一緒という最高オプションの為どうにか食べられるレベルである。


「そうですか。アンナはこのお粥は不評だったんだよ」

「へぇ」


 まあ、そうだろうなと思う。断食明けに食べても美味しいとは思えない。食にこだわりのある杏奈先生が食べた反応は手に取る様にわかった。日本から食材を仕入れたカフェを作るはずである。


「ちょっと前にアンアと一緒にピクニックに行ったんだ。このお粥や田舎パンのサンドイッチを作ったのに、何故かすごく険悪なムードになってしまってね」

「うん」


 そうなったら理由はよくわかるが、ジェイク様は気づいていないようだった。


「アンナの店で売っているものなど全部悪魔みたい。健康に超悪いよ。だから早く目覚めてほしくて作ったのになぁ…」


 こんな事されて杏奈先生はジェイク様に冷めたりしなかったのだろうか。私はすでに気持ちが冷め始めている。まあ、顔は本当にイケメンであり、眺めていると惚れ惚れするが。私は彼の顔を見つめながらどうにか甘ったるいお粥を完食した。


「それにしてもアンナは殺されてしまうなんてな」

「ジェイクは何か知ってない?」


 ジェイクはちょっと悲しそうに首を振る。この様子では杏奈先生を恨んでいる様には見えなかった。杏奈先生の作る料理は嫌いである事はよくわかるが。


「僕は人の命を守るために働いている。命を奪う様な輩は絶対に許す事はできないね」


 あまりにも真剣な様子に私は面食らった。医者という職業の意識の高さを考えても、杏奈先生を殺す様には思えなかった。


「ごめんなさい。私はジェイクを疑っていたわ」

「いや、良いんだよ。確かにアンナの作る料理は嫌いだったからね」

「何かこころあたりはない?」

「うーん。あ、そういえばアンナは1ヶ月ぐらい前、王都に遊びに行ってたな。ジャスミンやクラリッサと一緒に。それからしばらく様子が変だったよ。何か関係ある?」


 それについては全く分からないが、何か関係あるかもしれない。


 私はジェイクが皿を下げ、仕事の準備をすると診療室の行ってしまった後、ノートにわかった事をメモした。


 あの日着ていた服のポケットの中に燃えずに残っていた。少し水分を含んではいるが問題ない。アンア先生の手帳や扉が描かれたイラストも無事だった。


 ・ジェイク様の職業意識からして犯人の可能性は低い。


 ・杏奈先生は1ヶ月前王都に行ってからしばらく様子が変だった(ジェイク様証言)


 私はそう書き終えると、杏奈先生の手帳をめくる。1ヶ月前は、確かに王都にクラリッサやジャスミンと行っている。王都で行われた人気俳優の劇の観賞を目的とした小旅行。


 その後、再び殺人事件が起こっている。村に来たメイクアップアーティストが殺された事件らしい。この事件では杏奈先生も難しかったようで、教会、リリー、ロブの家まで不法侵入していた。結局被害者のメイクアップアーティストが教会に隠していた手紙が証拠となり、杏奈先生が不法侵入してそれを見つけている。


 そこまでやるか?という捜査方法だったが、これでしばらく元いた世界と行き来出来るのなら、頑張る気持ちもわからなくは無い。それにしても勝手に疑われて不法侵入されたロブやリリーは可哀想であるが。結局二人は犯人ではなく、事件と無関係。この事件の犯人は被害者のメイクアップアーティストのアシスタントだった様である。


 私も不法侵入して証拠を見るつけないとならないだろうか。証拠と言っても凶器は杏奈先生の死体に残されていたし、何が決め手になるのかさっぱりわからない。


 そんな事を考えつつ今日は退院する日であるので、着替えて病室を軽く掃除をした。


「マスミ、はじめまして」


 ちょうど、掃除を終えた頃知らない女性がやってきた。35、6歳ぐらいの茶髪で碧眼の女性である。はじめてみる顔だった。


「どなたですか?」

「私はクラリッサのところのメイドですわ。プラムという名前です。今日はお茶会でしょう。お迎えにあがりました」


 丁寧に対応され、こんな扱いを受けたことのない私はドギマギとしてしまう。プラムは体格がよい女性だが、不思議とひらひらとしたエプロンが似合っている。ベテランメイドという雰囲気だった。


 その後、私はジェイクに礼を言い、次の診察日の予約を取った。治療費は次回で良いという事だった。転移者が保険がかなりきくようなので、さほど財布が痛まないという話だった。


「では、マスミ行きましょう」

「ええ」


 プラムが私の荷物を代わりに持ってくれた。遠慮したものだが、プラムの厚意に甘える事にした。

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