24話 ※ただしイケメンに限る
目が覚めた時、おかしいと思った。
自分は火事で死んでしまったと思っていたからだ。
意識があるという事は生きているのだ。頬をつねると痛い。これは夢ではないようだった。
おそらくどこかの病院に居るようだった。一面白い壁でベッドが二つだけある。病院といってもそう規模は大きくないのかもしれない。
窓の外は綺麗に晴れた青い空が見える。おそらく昼間だろう。半日ぐらい眠ってしまったようである。
身体はあちこち痛い。手首を見ると包帯が巻かれていた。髪の毛も毛先が火で燃えたようでチリチリになっていた。背中の中ほどまで伸ばしていたが、早く切りたいと思った。
そんな事を考えている時、白衣の男が部屋にはいってきた。
現実的に全く見えないイケメンだった。色は白く、金髪碧眼。繊細そうに見えるが、小顔で背も高く180センチ以上はありそうで、白衣もよく似合っていた。思わず顔を赤らめてポーッと見惚れてしまう。この男がジェイクだろう。いや、ジェイク様と呼んでもいい感じである。
「目が覚めましたか?」
ジェイク様は私の顔をじっと見つめた。医者として顔色を観察しているのだろうが、私の心臓はドキドキしぱなっしである。
「気分が悪いところはないですか?」
ジェイク様は心配そうに言う。その労りがこもったものの言い方にもキュンキュンしてしまう。私の頭の中にはいくつものお花がポンポン音を立てながら咲いていた。
「あなたはジェイク?もしかして助けてくれたんですか?」
「ええ」
ジェイクはちょっと恥ずかしそうに頷いた。私も恥ずかしくて顔が真っ赤になる。
「ありがとうございます。助けてくれて」
「いえ。いつものようの村を見回りしてたら、カフェが火の海でね。リリーも中にあなたが居ると大騒ぎでさ。医者として誰かが死ぬのは許しがたい事だ。思わず飛び込んだ!」
そう言ってジェイクは胸を張る。単なるイケメンというわけでもないようだ。中身も職業意識の高いイケメンである。チリチリの髪の毛が憎い。すっぴんでいたくない。私はこの事も恥ずかしくて顔が赤くなった。
「顔が赤いな。熱でもあるか?」
ジェイク様は、私のおでこを大きな手の平で包む。こんなシーンはロマンス小説でもあった。風邪で倒れたヒロインをヒーローが介抱するシーンがあり、キュンキュンしながら読んだものである。
「いや、熱はないようだな」
ジェイク様は、私のおでこから手を離す。それでも私の顔はゆでダコのようになっている事だろう。心臓もバクバクうるさい。免疫のない自分がちょっと恨めしいぐらいだ。
「では、やけどの消毒と包帯を変えましょうか。火傷をしていたのは、ここだけですよ。全く運のいい事だ」
そう言ってキラキラとした笑顔をジェイク様が見せる。この笑顔で惚れない女性はいるだろうか。しかも火事から救い出してくれた恩人でもある。リアルの男のときめいた事は久しぶりだったが、恋に落ちてしまったようだった。今の状況はそれどころでは無いが、私の頭の中にはまた大量にお花が咲いている。
ジェイクの治療はあっという間に終わる。
そういえば今は病院の寝間着姿であるが、火事の時に着ていた服はどこに行ったのだろうか。
「すみません、治療を優先するため私が着替えさせました。この医院は看護師を雇っていないのです。昔雇っていた看護師は、かなり前に殺人事件の犯人で捕まってしまったんだ。ごめんなさい、許してくれますか?」
「許します!」
「その服はここに置いておきますね。だいぶ焦げてしまってますけど」
ジェイクはベッドのそばにある小さな引き出しの上に焦げた服をおく。
勝手に着替えさせられたなんて不細工男やキモいオジさんなら嫌だっただろう。しかしジェイクはイケメンである。※ただしイケメンに限り、許される行為だ。とはいえ、こんな風に助けて貰い感謝である。イケメンに舞い上がっているわけだが、人として再度ジェイク様にお礼を言う。
「ところで、怪我はそんな重く無いと思うんですが、どれくらいで完治できるでしょうか?」
「うん、今すぐにでも帰っていいけど、一応明日も火傷の様子見せにきてね」
「カフェはどうなってしまったんですか?」
その事も気になるそれに火事の原因が何かも気になってしまう。火の始末はきちんとしたはずだし、どっから火事になったのだろうか。もしかして放火?そう思うと頭の中のお花が枯れはじめた。
「カフェはですね…。ほぼ燃えてしまいました。あれから村の消防隊も来たのですが…。消防隊の話によると、カフェの入り口や勝手口がよく燃えていたそうで、放火じゃないかという話でした」
頭の中のお花は完全に枯れた。
放火だとしたら、自分の命を狙っている人がいると言う事?だとすれば杏奈先生の抱えていたトラブルだけが問題では無いのだろうか?犯人の意図もわからないし、放火犯と杏奈先生の事件がどう関係しているのか?
この事件では底知れぬ闇がありそうでゾッとする。それにカフェが燃えてしまったという事はどうすれば良いのか?帰る場所が無くなってしまった。
そんな事を考えていたら腹がなる。確かに何も食べていないのでお腹の中は空っぽだった。
「お腹すきました…」
イケメンでキラキラ王子様であるジェイク様の前で腹が鳴ってしまった事が恥ずかしくて、再び私が顔を赤らめる。
「いや、空腹はいい事だよ」
「え?」
「食べ過ぎは健康に良くない。こっちの諺では『断食をすると医者が潰れる』というぐらい食べる事は健康を損ねると言われている」
その後、ジェイクはいかに食べ過ぎが健康に悪いか力説。途中で医学用語のような言葉も混ぜるので、話は難しいが、健康に対して人一倍意識が高い事が伝わってくる。
「僕はみんなが健康になってくれれば、廃業してしまってホームレスになってもかまわない!」
力説しているが、それで良いのだろうか?職業意識が高い事は十分に伝わってくるが、廃業してもいいというのは行き過ぎでは無いだろうか。しかし、あまりにもキラキラした目で語るので突っ込んで良いものかどうかわからない。
「という事で、あなたにも今日は断食してもらう」
「え!?」
私は目が飛び出るほど驚く。なんでもこの世界の医療では断食はポピュラーな治療方法で珍しい事では無いらしい。軽度の糖尿病や鬱病なども断食で完治するケースが多いのだと言う。
「そんな、でもただの火傷ですよ?」
「傷の治りも早くなることがあるんだよ。うん、今日は断食だ」
こうして今日一日断食が決定してしまった。
「だいたいあのカフェが出来てから、村の女達の病気が増えてしまった。やっぱりあそこで売っているのは悪魔の食べものだよ」
「いえ、でもお腹すいて死にそうなんですけど」
「いいや、断食しましょう。うん、今日1日はここで入院して断食した方が治りが早いでしょう!」
そういってジェイクはケラケラと笑っていた。
この人ちょっと変人?
イケメンなので許したい。許したいが、やっぱりちょっと変である。牧師さんのように天然という感じではなく、健康ヲタというか、こだわりが強そうというか。
「でもお腹空きました…」
「いいえ、断食です!」
私の弱々しい訴えは聞いてもらえず、本当に食事は出てこなかった。水だけだった。こんな医療がまかり通る世界である。食文化が発達しない理由がよくわかった。そして盛り上がっていたジェイク様への恋心は萎んでいき、本当に恋愛感情を持ったのか良くわからなくなってしまった。




