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異世界転移先が殺人事件だらけの小さな村だった〜田舎パンとマリトッツォ殺人事件〜  作者: 地野千塩


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20話 ザマァは英語でIt serves you right

 カフェの帰ると、入り口の前で魔老婆がいた。しかも興奮した様子でもある。


「どうしたんですか?」

「ザマァ!」


 突然そんな事を言われた。生徒によると最近のライトノベルには「ザマァ」展開というのがあるらしいが、実際言われるといい気分はしない。ちなみに英語でザマァは「It serves you right」である。かなり強い表現で、この魔老婆も使っていた。よっぽどである。直訳すると正しく報いるという意味になるが、「ザマァ」という意味と同等となる。洋書の翻訳では「ザマァ」と訳すよりは「当然の報い」と訳されている事が多い印象だ。


「ちょっと占い師さん、何が言いたいのよ」


 私はちょとムッとしながら言い返した。日本語だと言いにくいような事も英語ではけっこう言いやすい。自己主張するのには英語は向いている言語だと思う。敬語も謙譲語もないし(ただ、動詞を過去形にして丁寧さや自信の無さを表現する場合はある。日本語のようなガチガチな敬語はない)。


「牧師さんから聞いたよ。アンナは死んだんだね」


 明らかに喜びを隠していない。嫌なクソババアである。


「人の死を喜ばないでくださいよ」

「いいや、これは呪いだよ」

「呪い?」

「アンナが来てから殺人事件が相次いでいたんだよ。あの女が不運を招いていたんだ。呪いだ」


 魔老婆はヒヒヒと笑っていた。こんな笑い方をする人など今まで見たことはない。本当に魔女のようだ。


「ところで何の用?」

「小銭くれ」


 また物乞いか。私は深いため息をつく。


「あなたは占い師なんでしょ。占いで金運あげればいいじゃない」

「それは無理だ」

「あなたはインチキね」

「何とでも言え。でも、アンナを殺した犯人はわかる」


 私はこの話題に食いついた。占いなど信じていないが、こう自信満々に言われると話だけでも聞きたくはなる。


「誰が犯人なのよ」

「女だ。アンアは女から恨みを買っていた」

「それは誰よ?」

「わからない」

「くだらない」


 話を聞いて損した。私は、再び小銭をたかろうとしている魔老婆を無視して、カフェに戻り、二階に上がる。


 とりあえずパンを食べる事にした。せっかくロブに買って貰った。あまり美味しそうではないが、このまま食べないでいると空腹で死にそうだ。


 とりあえずお湯を沸かし、ブラックティーも淹れる。茶葉が入った缶がテーブルの上にあったし、見た目はほとんど紅茶と変わらず、淹れ方も一緒でいいだろう。味は烏龍茶のようにさっぱりしているので、ミルクや砂糖は入れなくても飲める。


 紅茶やコーヒーがないのは、残念ではあるが、似たようなお茶があり、飲んでいると少し落ち着いて来た。ブラックティーの他に何か茶類はあるのだろうか?


 日本でいた時はスマートフォンで調べれば十分も掛からず食べ物の情報は得られるだろう。しかこの世界にはスマートフォンもない。パソコンも無い。情報を得るためには人に聞いたり、図書館に行って調べないといけないようである。手間ではあるが、今までが簡単に何でも出来過ぎただけなのかもそれない。


 思えばネットの派手で目立つ情報にだけパッと食いつき、ほとんど思考せず文章もろくに読んでいなかった気もする。ネットで叩かれている人物を何も知らないのに一方的に嫌ってしまったりした事は一度や二度ではない。言葉の裏や行間、発信者が伝えたい事なども深く考えた事もない。そんな生活を思うと、便利だが人間として薄っぺらかった気もする。


 時計をみるとまだお昼にもなっていない。この世界は本格的にスローライフのようだ。しばらくこの世界の時間の流れに合わせて、ゆっくりとブラックティーを啜ったあと、パンを皿に盛る。確か野菜やチーズ、濃いスープと合わせるといいとミッキーが言っていたはずだが、冷蔵庫の中にはレタスによく似た青菜とスライスしたチーズがある。


 トースターはないので、フライパンで表面を焼き、熱々のそこにチーズと青菜を置く。


「不味くはないけど…」


 一口頬張る。


 確かに不味くはないが、かみごたえがありすぎる。チーズや青菜の相性は意外と良いが、感激するほど美味しくはない。本当に主食という感じだ。毎日食べるもの。たまに食べるようなデザートのような美味しさや喉越しの良さは全くない。


 田舎パンは、確かにサンドイッチのようにしてチーズや青菜と食べると美味しくない事はないが、雑穀パンの方が酸味が強く、歯応えもあり、何回も咀嚼しなければならない様だ。不味くはないが、正直なところ顎が疲れたという感想ばかり思いつく。それにずっとご飯を主食にして生きてきたせいで、パンが主食というのも何となく居心地が悪い。杏奈先生がこの土地のパンが不味いと言ったのは、味のせいばかりでなく、こうした食習慣の違いのせいなのかもしれない。


 それにどんな料理であっても自分の産まれ育った場所の料理が一番と思うのは当然の事。見た目の美しさ、歯応え、味の美味しさという理屈を越えたものである。どっちの土地の料理が上とか下とか単純に比較できるものでは無いだろう。食べ物をおもちゃにしたり、アレルギーなど健康を害するものは問題ではあるが、他人の料理に「不味い」などと一方的に言うのはやっぱり性格悪過ぎだ。私も人のことをとやかく言う資格は無い。


 濃いスープとこの土地のパンが合うという話もミッキーから聞いたが、料理下手な私は作る気もなれない。


 それでもお腹は満足感は無く、冷蔵庫や食糧棚を見てみる。カップラーメンやレトルトカレーが有ればいいのに。


 冷凍食品のグラタンやピザでも良い。ポテトチップスやポップコーンやチョコチップクッキーなどのジャンクフードばかりが頭の中を駆け巡る。ファストフードのハンバーガーやコンビニのチキンや肉まんも食べたいし、ケーキ屋のモンブランやチョコレートケーキも食べたくて仕方がない。


「あれ?」


 そんな事ばかり考えていたせいだろうか。食糧棚の中に板チョコとポテトチップスがあった。しかも日本でよく売られているものだ。日本語で表品名が書いてある。


 賞味期限までまだ半年近くあり、製造年月も最近だった。


「どういう事?」


 杏奈先生のものだが、どう見てもこに土地で買ったものとは思えない。しかもコンビニのシールも貼ってある。


 杏奈先生は、2年ぐらい前に行方不明になった筈だ。それなのに日本で売っているチョコポテトチップスがここにあるのは一体どういう事だろうか?


 それに緑茶があった事。最近流行しはじめたマリトッォを知っていた事。


 杏奈先生は、この世界と元いた世界を行き来していた?


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