16話 22回目の殺人事件です
「うちにあのカフェ店長なんて来てないぞ」
ミシェルは腕組みをし、口を尖らせる。
「うーん、だったらジェイク先生っていう人のところですかね?」
私がいう。
「ジェイク先生は今日は王都行ってるよ。医者の会合かなんかだってよ」
「うーん。だったらあの辺りですかね?」
牧師さんは、薄暗い住宅を指さす。住宅といっても灯りが付いておらず、人気がない。そんな家がいくつかあった。
「あぁ、あの空き家?」
ミシェルは、まだ不機嫌そうに言う。
「空き家っていっても結構ありますね。みんな引っ越してしまったんですかね?」
単純に疑問ではあった。少なくとも空き家の元の持ち主はこの村にはいないのだろい。まだ新しい家も多いようだし、なぜ引っ越したのか気になる。こんな田舎でも日本のように過疎化しているんだろうか。
しかし牧師さんやミシェルも私の質問には答えず、お互いに顔を見合わせて苦笑。
「まあ、前もあったし、空き家見てみたら?」
ミシェルがちょっとニヤニヤしている。不機嫌さが治ったのは良いが、その態度の印象は良くない。
「まえ? どう言う事?」
前にもあったとはどういう事だろうか。意味がわからない。
「まあまあ、おいおい後で説明しますよ」
牧師さんも私の質問に答えず、空き家の方に三人でゾロゾロと歩く。
夜の空き家は見ていて気持ちのいいものではない。人気がなく、静まり返り、お化けでも出てもおかしくない。暗がりでよく見えないが、屋根がイエローでイギリスの田舎風のような民家に見える。昼間みたら、オシャレな家に見えるかもしれない。
ギャー、ギャーと鳥か何かが騒いでいる。その鳴き声のする方にミシェルは足を進めた。
「ちょっと、空き家の裏手にいくの?」
「まあ、私達もここでボケッとしていても仕方ないので、いきましょう」
牧師さんと二人でミシェルの後を追う。まだ鳥か何かが騒いでいるようで、耳に触る。
「ちょっと何?」
思わず日本語で呟く。当然ミシェルや牧師さんには伝わらず、反応は返ってこない。
ミシェルは立ち尽くし、牧師さんを大声で呼んでいた。
「牧師さん、まただよ、また。こっち来て」
またってどういう事?
ランプをもった牧師さんがミシェルに近づく。
空き家の裏庭のような場所は、ほのかな灯りがで満たされた。
「ひっ! いやぁ」
日本語で叫んでしまった。
杏奈先生だった。
地面に倒れて、胸からは大量の血が溢れている。あたりが一面血の海だった。包丁で胸を刺されていた。
杏奈先生の瞼は硬く閉じ、一ミリも動かない。
「あああ、杏奈先生が!」
私は日本語で大きな声をあげてしまう。それぐらいパニックになっていた。まさか杏奈先生が死んでしなうなんて。信じられ無いが、どう見ても杏奈先生は自殺じゃない。トラブルがあった犯人に会うと言って出かけたのだ。自殺とは思えない。でも事故でもない。
どう見ても殺されたとしか思えなかった。その事実を思うと、怖い。杏奈先生の死もショックだ。一体なぜこんな事になってしまったの?
冷や汗が流れ、私の目には涙が浮いている。いても立ってもいられず、かと言ってこれからどうしたら良いかもわからない。
「ああ、またか」
「またですね」
ミシェルと牧師さんは、ため息をついた。しかも、とても冷静だった。
「は? またってどういう事ですか?」
これだとまるで以前にも似たような事があったみたいである。そう思うと二人がやたらと落ち着き払っているのも辻褄が合ってしまう。ミシェルは薄く笑っていて、牧師さんは興味深そうに杏奈先生の遺体を眺めている。
「この村は、なぜか殺人事件がよく起こるところでしてね…」
牧師さんはため息をつきながら言った。
「ミシェル、今回で何回目だっけ?」
「知らない。20回目ぐらいじゃない?」
「いや違う。お前が来る前を含めると今回で22回目の殺人事件かな」
私はその言葉に顎が外れるほど驚く。これだとまるで、小さな村で起きる殺人事件を扱うコージーミステリーみたいではないか。
「まあ、俺は保安官のアラン呼んでくるか」
「頼むよ、ミシェル」
そんな事を冷静に話している2人の方が、杏奈先生の死体よりも怖くて仕方がない。
「いやあああ、ありえない!」
私は再び日本語で叫び、意識を失った。




