13話 日本料理サイコー!!
私はあの後、杏奈先生のカフェに直行した。
カフェは、混雑しているようでお客さんでいっぱいだった。クラリッサやリリー、役所の職員の顔もある。
メニューは、おにぎりがあり、それが人気みたいでみんな注文している。
「おいしいわ」
特にクラリッサは、目を細めておにぎりを頬張っていた。
魔老婆に会ってしまい、色々と疲れた私はカフェの席に座り、何か注文する事にした。
「ハイ! マスミじゃないの。何か食べる?」
「うぅ、アナ。お腹減った」
「はは。今日はアンナがおにぎりセットがおすすめって言ってたよ。あと、マリトッツォ」
「マリトッツオ?」
私は思わず変な声を上げる。日本で流行っていたクリームたっぷり挟んであるパンだ。形も丸く可愛らしいスイーツでパン屋だけでなく、コンビニでもたくさん売られていた。
「アンナが作ったの新メニュー。食べる?」
「いいの?」
こうしておにぎりセットとマリトッツオを注文した。杏奈先生は厨房で忙しく働いていた。ここで客として食べるのはちょっぴり罪悪感を持つが、あの硬いパンや魔老婆の事を思いだして、どっと疲れた気分になりお腹もすく。早く食べたい気分でいっぱいだった。
「あら、真澄先生じゃない。これがおにぎりセットよ」
しばらくして杏奈先生がプレートを持ってきて、私の目の前に置く。
おにぎりが二つ、唐揚げと卵焼き。そして何と味噌汁まで付いている!
私は出汁の匂いに懐かしくて涙が出そうになる。
「ふふ、たんと召し上がれ!」
そう言って杏奈先生は厨房に戻っていく。味噌汁の匂いのせいで杏奈先生は、天使かと思うほどありがたく思う。温かな味噌汁で、心も身体もじんわりと温まる。
おにぎりの味は塩だけだが、お米を食べられるだけで有り難い。もちもちのお米は日本にいた時より数倍おいしく感じた。唐揚げも卵焼きもサラダも涙が出そうなぐらい美味しく、あっという間に完食。おいしかった。
魔老婆や硬いパンの事などもすっかり忘れてしまった。
他の客も日本食に否定的では無くニコニコしながら食べていた。さすがに箸は使っていないが、味噌汁も好評のようである。
「マスミ! こっちきて一緒に食べない?」
「ええ」
クラリッサに誘われて同じテーブルで食事をする事にした。前あった時と同じような上品なスーツをきこみ、味噌汁を啜っている姿も様になっていた。
「日本食のおにぎりや味噌汁は美味しいですか?」
「ええ。私は新しいものが大好きなの」
クラリッサは紙ナフキンで口元を押さえ、笑顔を見せた。
「ここの食事はね、健康にはいいんだけどね…」
「甘いものが少ないとかって聞きました」
「そうなのよ! それがつまらないわよね」
クラリッサは、ブーブー口を尖らせる。ちょっぴり下品であるが、もともと上品なマダムという雰囲気なので気にならない。
「アンナが来る前は1日1食だったけど、今はこのカフェに通って1日3食。ふー、お腹いっぱいで幸せだわ」
クラリッサは目尻をさらに下げる。
「アンナに金銭的支援をしてよかったわ。でもね、この店について気に食わない人もいる」
「え、嘘」
私がクラリッサが言う事が信じられなかった。
「この商店街のパン屋のミッキーが一番嫌ってるね。私もあのパンは硬くて美味しくないと思うんだけどね。まあ、主食だから我慢して食べるけど」
「私、そのミッキーって人と会った事が無いわ」
「いいのよ、変わり者だし、パンヲタクって感じだからね。会わない方がいい」
確かに杏奈のカフェのアンチなどわざわざ会う必要は無いだろう。
「他に教会の所にいる神学生のミシェル、医者のジェイクも嫌ってる。男ばっかりね。男は頭が硬いのかしらね?」
知らない名前ばかり出る。しかし杏奈のアンチという人物にわざわざ関わっても仕方ない。私はその名前をすっかり忘れる事にした。
「マリトッツォお待たせいたしました。あとブラックティーです」
アナが私とクラリッサの分のマリトッツォをとブラックティーを持ってきた。丸いパンにこれでもかというぐらいホイップクリームが詰め込まれている。まさにクリーム爆弾である。
「わぁ、本当に美味しそう!」
クラリッサは私以上に目をキラキラさせてマリトッツォを眺めていた。隣のテーブルにいるリリーも似たような目をしている。甘いものの無い世界でこんなスイーツは宝石のようにものかもしれない。私もこれでもかと詰め込まれたマリトッツォのクリームを眺め、思わずツバを飲み込む。
味も美味しかった。
パンはふわふわと柔らかく、クリームも微かにオレンジかレモンのような風味がして、あっと言う間に腹に落ちていく。もこもこな雲を食べているようだ。
クラリッサはちょっと感動したように目頭を熱くしていた。
「美味しいわ、美味しい!」
「本当、これは美味しいです!」
私とクラリッサはマリトッツオのおいしさに喜びあった。
おにぎりセットもマリトッツオも美味しく、私の気分はすっかり夢心地。今後の事や今置かれている状況もすっかり忘れていた。




