12話 私もカフェを経営したいです…
帰り道は杏奈先生やロブの心配とは裏腹に迷わなかった。
のどかな田舎の畦道をゆっくりと歩く。草の匂いや土の匂いもして空も高い。パソコンもなく色々と不便そうな面もあるが、こうしてコンビニやスーパーもない畦道をのんびりと歩いていると心が浄化されるようである。
しかし、途中で魔老婆に会った。机を出し、「ホロスコープで運命をみる」と看板が出てる。占いの商売をしているようだった。
魔老婆は私の顔などは忘れていたようで、小銭を恵んでくれと物乞いしてきた。この姿を見ると同情心しか持てない。牧師さん達がこんな魔老婆にも優しかった理由が察せられる。
私は、魔老婆の前に座り話を聞いてやる事にした。占いを受けるわけではないが、こんな何もない道端に一人で残していくのは、ちょっと気分が悪い。
魔老婆は私の顔をじろじろと見つめ、誰だか思い出したようである。
「なんだ、転移者の女かよ」
やっぱり私に好意的ではないらしい。
「どうして転移者を嫌っているの?」
単純に疑問ではある。私は今のところ魔老婆に失礼な態度は取っていないし、嫌われる理由がわからない。もし自分の態度で変えられるところが有れば変えたいが、一方的に嫌われているだけのようなのでそれも出来ない。
「それは…」
魔老婆は、戸惑い始めた。私があまりにも真っ直ぐに質問したので、居心地が悪くなったのかもしれない。
「私の先祖は魔術師の家系だったんだ」
「そうなの」
「でも、転移者がキリスト教を広めてしまったから、うちはずっと肩身が狭かった! 先祖は王宮で働いていたんだぞ」
そんな自慢に私はどう対応したら良いのかわからない。先祖の事といっても魔老婆には全く関係ない事ではなかろうか。
「杏奈先生の事も嫌い?」
「ああ、転移者は全員嫌いだよ!」
プイッと頬を膨らませた魔老婆の姿は、子供っぽく私を少し切なくさせた。
「この布は何?」
机に上には、少し大きめな巾着袋が入っていた。
「ああ、これは私のオヤツだよ。昨日の余り物のパンだがな」
魔老婆は、巾着から真っ黒なパンを出した。表面の割れ目はパサパサ、中身のパン生地は土のような茶色だ。とても美味しそうに見えない。
「おまえも食うか?」
「え、まあ」
私は曖昧に頷く。ここで断るのも角が立つだろうと思った。我ながらこういうハッキリしない所は日本人らしい。
「あ、ありがとう…」
パンのカケラを貰う。間近で見ても不味そうである。ただ少し小麦か雑穀の匂いはする。それは悪くは無い。
思い切って口に入れて噛む。
硬いパンだった。パンというより岩である。何回も咀嚼しなければならない感じである。確かに雑穀の食感は楽しいが、酸味が強く硬くて美味しくない。日本のジャムやクリーム、チョコまみれの菓子パンに慣れた私の舌は全力でこの味を拒否している。何とか我慢して咀嚼したものを飲み込んだ自分に拍手を送りたいぐらいである。
「もっと食うか?」
「いえ、急いでいるので帰ります!」
私は慌ててそう言い、魔老婆の側から走って逃げた。
杏奈先生の気持ちが痛いほどわかる。これではカフェを運営したくなるはずである。私もカフェを経営したくなった。




