プロローグ
耐え忍んでいれば幸せになれるものだと思っていた。
私は不幸な女性が結婚して幸せになるシンデレラストーリーが好きだった。日本のロマンス小説がもちろん、海外の洋書も読み漁っていた。お陰で英語力がついてしまい、英語教師になってしまったのは良い副産物だったかもしれないが。
今、私の目の前には女の死体がある。胸を刺されて血の海だ。
驚いているには私だけで、村の人は全く動じていなかった。それどころか「いつもの事か…」という顔をしている。
この物語は、どこにも王子様が出てこないし、ガラスの靴も魔法使いも出てこない。どこか別の世界に生まれ変わりもしない。乙女ゲームの悪役も出てこない。イケメンは確かに何人か出てくる。まるで王子様のようなイケメン医師も出てくるが、中身はかなり残念だった。
出てくるのは、死体とそれに纏わる謎だけ。あとは美味しい食べ物と一見平和に見える小さな村の風景。殺人事件だらけの小さな村で起こる、スローライフな事件調査の記録である。
こんなコージーミステリ風の村に異世界転移なんて望んでいない。私のシンデレラストーリーは現実には存在しないようだった。