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嫌な予感がするんですが

 スライムの穴のなかはヌルヌルとして滑りやすい。

 おまけにスライムたちが集まることによって湿った空気が充満していて、歩くたびに服が濡れてるんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。


「……そこ、気を付けて。滑ると最下層まで真っ逆さまだから」


 僕がそう忠告すると、ヤンくんはおっかなびっくりといった感じで足を安全な場所へと避難させた。


「あ、ありがとう……助かったぜ……」

「そこから落ちて大怪我する人とか、よくいるみたいだからね」


 それを聞いたヤンくんは、ひえぇぇと全身を震わせた。


「……無様ですね」


 ラーさんが、そんなヤンくんを見てぼそりとつぶやく。


「は、はあ!? なんだと!?」

「『俺は伝説の冒険者になる』とか意気込んでいたのはどこのだれですか。それがこんなわかりやすい罠に引っかかりかけるだなんて……」


 前途多難です、とラーさんは馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「まあまあ、伝説の冒険者でもこういったことはよくあったみたいだから……」


 気にしすぎちゃだめだよ? と僕はヤンくんの肩を叩いた。


「冒険者はどうしたって間違えるものだから、大切なのは間違えたあとにどうするかなんだ。例えばあそこに3回落ちたけど、今はSランクの冒険者をやってる、なんて人もいる」


 絶対に失敗しちゃいけないときもあるから、ラーさんの考えも大切なんだけどね、と付け加えた。

 話が終わったので、ふたりの様子を見ようと視線を動かすと、なぜかふたりとも視線をキラキラさせてこちらを見つめている。


「な、なにかな……?」

「……それだけの知識を、どこで蓄えてきたのですか……」

「ま、まあ、そこはギルドにある資料室とか、会誌をもらったりして……ああいうのって結構バカにできないことが書いてあるからね」


 だから自分の足で調べたわけじゃないんだ、と僕は気まずくなって頭をかいた。


「それでも、です。……確かに、この洞窟についての情報は多いでしょう。しかし、それを吸収しきる能力は、まぎれもないショウさんのものです」


 あなたはもっと誇りに思っていいですよ、とラーさんが僕を見つめる。


「ラーは口が悪いけど、人を見る目は確かなんだ!」


 安心してくれ! とヤンくんが親指を立てた。


「う、うん。ありがとう……」


 ふたりの嫌味のない褒め言葉に、僕は恥ずかしくなって頬をかきながら答えた。

 正直なことを言うと、彼らにここまで褒められるようなことをした覚えはない。

 むしろこんな最近入ったような子に諭されるなんて……と落ち込んでいるくらいだ。

 けれど、これだけ純粋な気持ちを否定してしまうのも嫌な気分になるので、なんとか表向きだけでも嬉しそうに振舞ったのだ。

 まあ、まったく嬉しくなかったかといえばウソになるけど。


 ――ふと、敵意の混じった気配がした。


「……ふたりとも」


 敵に感づかれないように、僕は声を潜めてふたりに話しかける。

 ふたりはなにがあったのかわかっていない様子で、ただ首をかしげるだけだ。


「すぐに逃げた方が良い。まずい状況になった」

「まずい状況って……?」


 緊迫した様子にただならぬ状況なのだと察したヤンくんが問いかける。

 僕は彼の言葉に軽くうなずいた後、こう答えた。


「近くに進化したスライムがいる」

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