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あてもなく歩いたんですが

 僕は真夜中の王都をとぼとぼと歩いていた。

 何人か、僕に声をかけようとする人もいたけれど、『黎明の聖女』に所属する『ショウ』であることを知って去っていった。


(……黎明の聖女、か)



 あのパーティーに入ったのは、ほんのささいなことがきっかけだった。

 あの時の僕はとにかく冒険者になりたくて、孤児院から家出同然で飛び出していた。

 お金もなく、家もない。でも熱意だけは誰にも負けない自信があった。

 その熱意を心に秘めて、割のいいバイトを紹介してくる人を無視してスキルを見てもらったのだ。

 結果はスキル無し。なんてこともない、よくある結果だった。

 スキルのない人間が冒険者になるのは難しい。

 おそろしいほどの努力を積み重ねて「英雄」と呼ばれるようになった人もいるけど、ほとんどが冒険を続ける中で命を落としてしまう。

 ――冒険者にはなれない。

 そんな残酷な現実を突きつけられて、この先どうしようかと途方に暮れていたとき――


「……あの、そこの方」


 ――そんなとき、手を差し伸べてくれたのがアーネットだった。

 彼女たちは当時駆け出しだったけど、それぞれが将来有望な若者たちだったのでとても有名だった。

 そんな人たちの、それもリーダーが僕の姿を見て、こう言ったのだ。


「私たちとパーティを組みませんか?」と。



「あのときは嬉しかったなぁ……」


 でも思えば、あの時から悪い予感はしていたのだ。

 たとえば、ブレンとガフのふたりは僕の加入に反対していた。

 自分たちみたいなパーティに平民はふさわしくないという、そんな理由で。

 アーネットが「身分の差でパーティをわけるなど、あってはなりません」なんて言ったから、入れることになったのだけど。

 あの時の僕は、すっかり浮かれ切ってこんなことにも気づかなかったのだ。


「……アハハ、バカだなぁ」


 周りの視線に耐え切れなくなって、裏路地へと逃げるように走っていく。

 裏路地は暗く、ほんの少し先の光景すらまともに見えない。

 あちらこちらにゴミや泥が残されていて、歩くたびにベチャベチャと湿った音がする。

 今の僕にはお似合いの場所だ。

 バシャバシャ、バシャバシャと、辛い現実から逃げるように、僕は走り続けた。


「――あっ」


 バシャリ。

 暗い中を全力で走ってしまったせいで、思いっきりこけてしまった。

 なんとか頭は守ることができたけど、服が泥でビショビショだ。


(それに嫌な臭いもするし……)


 このままで歩くのはさすがに良くないと、僕は着替えを探してトランクのふたを開けた。

 ……そこにあったのは、女性もののワンピースが一着だけ。


(もしかして、これを着ないといけないの……?)


 目の前には女性ものの服が一着だけ。

 もしこれを僕が着れば、きっと変な人を見るような目で見られるだろう。

 今までも街中で女装した人なんて、見たことがなかったから。

 けれども、この恰好のままで街中にでたら、きっともっと嫌な目で見られるだろう。

 ――何が混ざったのかわからない臭いをまき散らしながら歩く僕の姿。

 そしてそれを遠巻きに見つめる人々。

 そんな光景を幻視した。


「……背に腹は代えられない、か」


 よし、決めた。

 覚悟を決めた僕はさっと服を脱ぐと、その淡い色をしたワンピースへと手を伸ばした。

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