やさしい読み物
「やさしい読み物が読みたい」
やさしい読み物、ということは読んでほっこりするようなもの、か?
「あ、違う。そうじゃ無くて、kindの優しいじゃ無くて、easyの易しいの方。日本語、ややこしい」
という話を聞いたので紹介したい。
■やさしい日本語
『やさしい日本語』とは、普段使われている言葉を外国人にもわかるように配慮した、簡単な日本語のこと。
1995年1月
阪神・淡路大震災で日本に来ていた多くの外国人も被害に遭った。
「地震のあと情報は盛んに流されたが、日本語ばかりでどうすればよいのかがわからなかった」
というのが被災した外国人の声。
以下は弘前大学人文学部が制作した『やさしい日本語』より。
「阪神淡路大震災において、100人当たりの死者の数が日本人の場合0.15人なのに対し外国人の場合0.27人と約2倍。100人当たりの負傷者の数が日本人の場合0.89人なのに対し外国人の場合2.12人と約2.4倍」
避難や震度という聞きなれない日本語の表現が理解できず、必要な情報を手に入れられなかったなど。
震災の後、弘前大学・人文学部社会言語学研究室が災害発生時の情報伝達に使うことばを、外国人にもわかりやすくしようと研究。また情報を提供する日本人にも使いやすいようにと、簡潔な日本語にしようとしてできたのが『やさしい日本語』になる。
東日本大震災の外国人支援にあたっては過去の災害による教訓が生かされ、やさしい日本語での情報提供が行われた。
■音の表現
日本語の難解な部分に音の表現がある。
しとしと、と雨が降る。
ざあざあ、と雨が降る。
これらは日本に暮らして聞き慣れていれば、あまり疑問には感じない。また、これらの音の表現から新しい言葉が生まれたりもする。朝チュン、や、どちゃシコ、モフモフ、など。
これは日本と外国を逆にして見ると分かりやすいだろうか? コケコッコー、と、クックドゥドゥルドゥー、ではどちらがニワトリの鳴き声だと感じるだろうか。
これが医療の現場では深刻になる。シクシクと痛むのか、チクチクと痛むのか、ズキズキと痛いのか、問診で症状を表現するのに苦労することになる。
英語でも腹痛を表すのにいくつか表現がある。crampy pain は締め付けられるような痛み。colicky pain は腸の蠕動運動によって変化する痛み、という表現になる。
医療の現場では母語ではない言葉で、病状などを正しく伝えるのが難しい。また、医師や看護師の使う用語がわからない、という状況がある。
外国人が病院に来ることに備えて『やさしい日本語』を使える医療者が増えるようにと、医療者向けの『やさしい日本語』ワークショップなどがある。
■漢字
日本語で難しいのが漢字になる。漢字は中国にも同じものがあるが意味が違うものが多い。
日本では『勉強』とは学習と似たような意味で使われるが、中国語で『勉強』とは、無理矢理や、無理強いさせる、といった意味になる。
自ら行うのが学習で、無理矢理やらされるのが勉強、であったのだが、今の日本では自ら学習を行うことを勉強と言うようになった。
他にも、中国で手紙が欲しい、と言えばトイレットペーパーを渡されることだろう。中国語で手紙と言えばトイレットペーパーであり、日本語で手紙というのは中国語では信となる。
また、日本では漢字は意味のある文字として、漢字の組み合わせから聞いたことは無くともなんとなく意味が分かる、というものになる。
そこから今までに無い単語が作られたりもする。
天翔龍閃、烈壊怒号撃滅破、魔貫光殺砲、天覇封神斬、邪王炎殺黒龍波、などなど。
■やさしい日本語の読み物
「スマホで気軽に読めるやさしい日本語の読み物が欲しい。だけど、子供じゃ無いから子供向けの読み物が欲しいワケじゃない。空いた時間に日本語の学習に役立つものがいい」
ということなので、小説投稿サイトにこの話をエッセイとして投稿してみる。
もしも物好きな人が目にしたら、やさしい日本語で書いた読み物を投稿してくれるかもしれない、と期待して。
「できたら、オーバーロードとか幼女戦記を、やさしい日本語に翻訳してほしい」
流石に無理ではないか? それに捻った言い回しなどが表現になる場合の翻訳は難しいのではないだろうか。
頑張って原文を読めるようになってくれ。
■日本語を学ぶ外国人
海外日本語教育機関調査による世界で日本語を学ぶ人の数は、2018年度の調査では約385万人。
給与や昇進面で日系企業に魅力を感じられなくなったことで、海外で日本語を学ぶ人は減少傾向にある。
だが日本のアニメから海外のマニアがアニメの原作に興味を持つなど、日本語を学ぼうという外国人は多い。
■「やさしい日本語」にするための12の規則
①難しいことばを避け、簡単な語を使う
②1文を短くして文の構造を簡単にする。文は分けて書き、ことばのまとまりを認識しやすくする
③災害時によく使われる単語や、知っておいた方がよいと思われることばはそのまま使う
④カタカナ・外来語はなるべく使わない
⑤ローマ字はなるべく使わない
⑥擬態語や擬音語はなるべく使わない
⑦使用する漢字や、漢字の使用量に注意し、全ての漢字にルビ、ふりがな、を振る
⑧時間や年月日を外国人にも伝わる表記にする
⑨動詞を名詞化したものはわかりにくいので、できるだけ動詞文にする
⑩あいまいな表現は避ける
⑪二重否定の表現は避ける
⑫文末表現はなるべく統一する
以上がやさしい日本語で書くときに気をつける点。これは外国人に分かりやすい文章であるだけでなく、同じ日本人にも分かりやすい文章の参考になるのではないだろうか。
■JLPT 日本語能力試験
日本語能力試験(JLPT)は外国人が受ける日本語の試験。
N1からN5までの5段階がある。
○N5
基本的な日本語をある程度理解することができる。平仮名・カタカナ・基本的な漢字で書かれた定型文や表現を理解し、ゆっくり、はっきりと話されれば、平易な日本語を理解できる。
○N4
基本的な日本語を理解することができる。基本語彙や漢字を使った身近な話題の文章を理解し、ゆっくりと話されれば日常的な会話を理解することができる。
○N3
日常的な場面で使われる自然に近いスピードの会話を、ある程度理解することができる。日常的な話題について、具体的に書かれた文章の読み書きができる。
小学校低学年で習う漢字はこの辺り。
○N2
日常的な場面で使われる自然に近いスピードのまとまりのある会話やニュースを理解することができる。新聞、平易な評論など論理的にやや複雑な文章を理解し、一般的な事柄について意見を述べることができる。
小学校高学年で習う漢字はこの辺り
○N1
幅広い場面で使用される日本語が理解できる。政治、経済、法律、国際問題など抽象度が高く複雑な文章を理解し、様々な分野のニュースや講義が理解できる。専門用語を使い発表・討議ができる。
中学生で習う漢字がこの辺り。
やさしい日本語で書いた読み物を小説サイトに投稿するときに、例えばタグにJLPT N3と入れたならば、それは小学校低学年レベルの国語力で読めるもの、となるだろうか。
詞や童話といったジャンルならば全ての漢字にルビを振れば、JLPT N3、JLPT N4、対応となるのではないだろうか?
JLPT N3で読める小説の例としては。
『注文の多い料理店』宮沢賢治
『走れメロス』太宰治
などになる。
■やんしす
やんしす、とはやさしい日本語作成支援ツールのアプリ。やさしい日本語を記述するための補助を行うソフトウェア。YAsasii Nihongo SIen Systemのこと。
書いた文章が分かりやすいかどうかを判断してくれる。
また、このやんしすで分かりやすいとされる文章は、機械翻訳で訳されたときに意味の通る訳文になりやすいものになる。
「機械翻訳がもっと発達すればいいのにね」
機械翻訳がどれだけ進化しようとも完全な翻訳とは不可能ではないだろうか。ニュアンスの違い、文化の違い、地方の方言にしか無いことば、全てを網羅した意訳は難しいだろう。
かつて、拙作をグーグル翻訳で読んでくれた海外の方の熱意に感謝する。
■終わりに
「これでスマホで簡単に読める、やさしい日本語の読み物が増えたらいいな」
少数派の要望で流行になることは無いだろうが、こうして欲しがる人がいる。
なので日本語を学習中の方にも読めるようにと、漢字にルビをふるなどした作品には『やさしい日本語』『JLPT N3』などのタグをつけてみてはどうだろうか?
このサイトの利用者に日本語が母語でない方がどれだけいるかわからないが、ここから、翻訳家になろう、など広がっていくとおもしろそうだ。