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046  作者: Nora_
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04

「あんまりやる気の感じられなかった鹿島ちゃんと、やる気MAXの大倉ちゃんで花壇のお手入れをよろしくねー」


 もちろん、僕たちだけに仕事が押し付けられたわけじゃない。

 ただ、委員長の采配でたまたまそうなってしまったというだけだ。

 ちなみに、この前自分に文句を言ってくれたのがこの大倉えなさん……というわけで。


「ちゃんとやってくださいよ」

「うん……頑張る」


 プレッシャーが半端ないうえにいますぐにでも逃げたいところだが……なんとか踏ん張って校門前にある花壇のところへ向かう。

 近くに色々な道具が入れてある物置小屋があるため、大変というわけではない。


「鹿島先輩」

「な、なに?」


 まさか話しかけてくるとは思わなくて、でも、手を止めたら怒られるだろうからしつつ返事をした。

 もう怒られるようなことをしてしまったのだろうか。


「いえ……その、この前はすみませんでした」

「いや……僕も悪かったから」


 そりゃあんな反応をすれば誰だって怒る。

 聞く価値もないのかって悲しくなるかもしれない。

 彼女はそれから「それはそうですね、聞いてほしかったです」と口にしたが、自分をしっかり貫けているようで羨ましかった。


「心優先輩に聞きました、大きな声が苦手なんですよね」

「でも、どうか分からないよ。杉田さんや小牧といる時は気にならなくなったから」


 本当に都合のいい変な症状だ。


「それって……要は慣れているかどうかってことですか?」

「そうだと思う。人といるのはあんまりしてこなかったからビクビクしているのかもしれない」


 これぐらいの声量なら相手が誰でも普通に対応できるはず。

 許容域を越えてしまうと頭が痛くなってその場から逃げ出したいレベルになる。

 逃げ出したのはあの1度だけだからそこまで重症というわけでもないみたいだ。


「これ全部抜いていいんだっけ?」

「はい、そう言っていましたよ」

「ありがと」


 時期が過ぎたら捨てられる、枯れても捨てられる、人間の気分次第でいられる時間が変わる命。

 人間の世界にもそういうのがあったならまず間違いなく自分はすぐ切り捨てられ終わるだろうと抜きながら思った。

 長生きがしたいなら世渡り上手じゃなければ難しい。

 雑草もろとも全部引っこ抜いたら今度は土を綺麗にしていく。

 これがなかなかどうして楽しい、掃除と同じで目に見えて変わるからだろうか。


「鹿島先輩、裾が汚れていますよ」

「え? ああ、ありがと。でも、楽しいから大丈夫」


 ジャージ姿でやっているし、汚れてもお風呂場とかで洗えばいい。

 それよりいまはこれだ、あまり範囲が広いわけじゃないから時間もそうかからない。

 寧ろ大倉さんが汚れないように全部自分でやることにした。

「それで今度は私がやる気なかったって報告するつもりですか?」なんて聞かれてしまったが、そんなつもりは一切なかった……。


「ふぅ」

「お疲れ様です。飲み物を買ってきました」

「え? あ、いいよ、楽しくてやっただけだから」

「駄目ですっ、受け取ってください!」

「いや……」


 脅されないための対策なんだろうこれが。

 でも、これを受け取ってしまったら本当にそういうことになってしまう。

 正直に言って邪魔されたくなかっただけだ。

 ひとりで綺麗にしたかった、たったそれだけで。


「おーい、詩和ー!」


 そんな時に来てくれたのは小牧。

 どうやら知り合いっぽいため、小牧に受け取ってもらうことにする。


「小牧、大倉さんが飲み物くれるって」

「違いますっ、私は鹿島先輩に――」

「じゃあちょうだい?」

「どうぞ」

「ありがと。はい、これなら文句ないよね?」


 彼女に半ば押し付けるように渡して、こちらは手を洗うために水道まで移動。


「最低ですっ」

「無駄にならなくて良かったでしょ?」

「私はあなたに……もういいです、お疲れ様でした!」


 返さなければならなくなった時のためにあまり貰わないようにしている。

 たかがジュースと言ったってお金を使っていることには変わりないからだ。

 というか、僕が自分勝手だったというだけなのにどうして彼女は飲み物を買ってきたりなんてしまったんだろう。


「詩和、これ貰っちゃっていいの?」

「うん、貰ってくれると嬉しい。お礼は大倉さんに言っておいて」

「えなは怒っていたようだけど……」

「それでなにか用でもあった?」


 無理やり強制的に話題を変える。

 こういう価値観というのは個々で違うから話したところで恐らく分かり合えない。

 だったらそういうものだって諦め、無理のない範囲で妥協するのが1番のはずだ。


「あ、そうそう。委員会の仕事が終わったなら一緒に帰ろうって誘いに来たんだ。教室でミユは寝ているからさ、一旦戻ってからだけど」

「分かった。道具とか片付けてから行くから先に行ってて」

「手伝うよ」

「大丈夫、すぐ終わるから」


 それで教室に行くと確かに杉田さんは寝ていた。

 こちらに顔を見えるようにして寝ているため、可愛い寝顔が見えて少しドキリとする。

 あっという間に苦手ではなくなってしまったが、悪いのはどんどんいい気持ちに変えられた方がいいだろうと正当化してみた。


「ミユ、詩和を連れてきたよ?」

「うっ……あ、おはよ~」

「おはよ。というか、私たちが校門へ行けば良かったね」

「それだと寝られないじゃんか~――ん? 鹿島ちゃん汚れてるよ?」

「ぐーぐー寝ていたミユと違って詩和は頑張ってお仕事していたの」

「……いちいち比べなくてもいいでしょ~」


 でも、このふたりみたいな仲にはなれないと思う。

 自分の気持ちに気づいて本気を出した頃にはもう既に付き合っているとかだってありそうで。


「えなはどうだった~?」

「また詩和に怒ってた。まあ……あれは詩和が悪くもあるけど」

「なにかしたの?」

「えながジュースを買ってくれていたんだけどね、それを詩和が受け取らず私に押し付けるようにしたから気になったんだろうね」


 自分がなにかを答えるまでに全部彼女が説明してくれた、が、彼女の中でも僕が取った行動は悪い部類に入るものだったらしい。

 それでも先程考えたようにここら辺のことは合わないものだと判断し、片付けた。


「鹿島ちゃんはそういうところがあるからね」

「私は直した方がいいと思うけどね。なんでもかんでも受け入れればいいわけじゃないけど、だからってなんでもかんでも拒むのは違うと思うから」

「しょうがないんじゃない、それが鹿島ちゃんの生き方だって言われたらそれまでだよ」

「そうだけど……ミユだったら受け取るでしょ?」

「なんなら2本目まで求めるけど」

「ミユはもうちょい遠慮した方がいいかもねー」


 ……帰らないのだろうか。

 既にふたりの世界に浸っていて、こちらのことは忘れられている?


「このままだと友達がいなくなっちゃうよ」

「そもそも鹿島ちゃんが私たち以外といるところ見たことがないけど」

「それって不味くない?」

「不味いね~。私たちからすれば、だけど」


 最近は結構努力をして他の子ともいようとしているのに。

 今日だって大倉さんと最後以外は普通に話せたような気がする。


「でも、鹿島ちゃんは小牧のことを信用しているようだね。名前呼びを許可しているし」

「確かに、これまでの詩和なら有りえないことだ」

「ずっとひとりでいたからな~、なんで私ももうちょい早く話しかけなかったんだか」

「帰らないなら先に帰るけど」

「あ、うん、また明日ね~」


 小牧の方は考え事に夢中なのか返事をすることもなかった。

 なんのために待っていたのかと疑問に思ったが、気にしてもしょうがないと片付けて外へ。


「遅いですよ」

「え、大倉さんまだいたの?」


 しかし、校門のところで彼女と遭遇、更に話しかけてくるという展開になった。


「僕はもう帰るけど、帰る時は気をつけてね」

「あなたに用があるんですけど」

「えっと……うん、言って?」


 どうせ先程のことだろう。

 でも、鹿島詩和という人間を分かってもらうしかない。

 相手が大倉さんだからとかそういうことではなく、基本的に施しを受けたくないだけ。


「先程はすみませんでした。私、思ったことをなんでも口にしちゃうんです。でも、あれはあなたに買った物だったので受け取ってほしかった……それが言いたくてここで待っていました」

「ごめん、僕はそういう人間だって諦めて。簡単なことだよ、期待しなければいい。必要な時以外はいなければいい。そうすれば気にならないでしょ?」


 濁して逃げることは簡単だ。

 でも、ハッキリ言っておかないとその度に彼女を困らせることになる。

 これからも関わるかどうかは彼女次第だが、その度に怒られても嫌だから。

 合わないなら切り捨てればいい、先程の花のように。

 それをできる立場に彼女はいるわけだからまだマシだろう。


「……それって悲しくないですか?」

「僕が? それとも相手が?」

「あなたがです。分かり合おうとせず諦めてしまうのはもったいないと思います」

「でも、合う合わないは必ずあるわけだし」


 それに言い合いになると必ず負けるし。

 いまのところ杉田さんや小牧がいないところでは依然としてあの厄介な症状が出る。

 普通レベルより声量が大きいのかな? 1対1ぐらいならまだマシななのに。

 そのため、これはほとんど自分のためであり、少しは相手のためでもあるわけだ。


「大倉さんにとって僕は合わない人間だった、それでいいでしょ?」

「……なんで後輩にさん付けなんですか」

「ほとんど初対面みたいなものだから」

「なのに小牧先輩のことは名前で呼んでいるじゃないですか」


 色々細かいところまで知っているみたい。

 あのふたりのどちらかが僕の情報を流しているということ?

 なんのために、意味ないのに。

 

「名前で呼んでくれればいいですよ。委員会でまだまだ関わりがあるんですから」


 これは拒まなくていい気がした。

 別に名前を呼ぶぐらいはおかしくない。


「えな」

「はい」

「あれは自分のためにしたことだから、えなはいちいち引っかからなくていいよ」


 勝手に仕事を奪い取ってしまったのは自分。

 勝手にやって馬鹿みたいとかって考えておけばいい。

 いくら努力したってこちらのことなんて理解できないんだから。

 それはこちらも同じこと、だからこれ以上踏み込んだりはしない。

 僕とえなは同じ委員会の先輩後輩というだけ。


「嫌です」

「ならどうするの? その度に怒るの?」

「……私はあなたを理解できるよう努力します。なので、あなたには私を理解できるように――」

「ちょっと待って、なんで急にそんな話になったの?」


 貰ったりはできないという話だったはずでは?


「だって鹿島先輩は私のことを諦めようとしましたよね? 言っても無駄、どうせ分かり合えないからって切り捨てようとした、違いますか?」

「いや、それを選べるのはえなだよ」


 さすがにそこまで非情な女というわけではなかった。

 と言うより、選べる立場では常にないということなんだ。

 全部受け身でいるしかない、相手が○○ならって行動するしか。


「それなら私は切り捨てることを選びません」

「そっか」


 真面目にやらない人間にとにかく冷たそうに見えたけど、そうではないみたい。

 

「詩和先輩って呼ばせていただいてもいいですか?」

「いいよ」

「それでですね、今度協力してほしいことがあるんですけど……」

「協力? 自分にできる範囲でなら大丈夫だよ」


 ねむみたいでちょっと可愛く見える。

 そのせいで、ハッと気づいた時にはえなの頭を撫でてしまっていた。

 こちらを涙目で見つめてくるのも同じ感じ、ねむが高校生になったらこんな感じだろうか。

 って、なんで涙目? そんなに嫌だった? 屈辱?


「……なんで撫でたんですか、子ども扱いですか?」

「ち、違うよ……ごめん、妹に似て可愛いなって」

「妹さんがいるんですか? あ……もしかして小学生とかってオチではないですよね?」

「大丈夫、ねむは中学生だから」


 ここでずっと話をしていてもしょうがないから歩きながら話すことに。

 が、身長差が結構あるというわけではないのにどうやらこちらの方が速いようだった。

 ただ、ここで変に遅くしたりすると「子ども扱いですか?」と怒られてしまう。

 さて、どうしたらいいんだろう。


「それで協力してほしいことって?」

「男装をして彼氏のフリをしてください!」


 ほえ? ……ああ、杉田さんや小牧は胸があるから頼めないのか。

 その点、僕の方はとことんないから適当に男の子の格好をしておけば相手の人を騙せると。


「いいよ」

「ありがとうございます!」

「ちなみに、誰に見せるつもりなの?」

「心優先輩です! あの人、会う度に『彼氏はできたの~?』ってうるさいですから!」


 杉田さんに男装姿を見せる……それであっさり男子扱いされたら複雑だ。

 それでも不安そうな表情を浮かべているえなは放っておけない、なにより約束がある。


「そういう道具は用意してくれるの?」

「それは大丈夫です! 今週の土曜日によろしくお願いします!」


 ……明後日なんだけど……大丈夫だろうか。

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