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7「次兄 エリファス2」

「エリィ兄さま、それはお兄さまに失礼だと思うの」



 エルフィーネの言う“お兄さま”とは、十二才上の長兄マティアスのことだ。彼は士官学校を卒業した後、青薔薇騎士団で騎士として働いている。騎士としての実力はもちろん、オルフェウス侯爵家の跡取りとして幼い頃から勉学に励み、次期侯爵としても申し分のない人物である。


 しかし、少々困った所もある。頭は悪くない、どころか、かなり優秀なのだが、若干、いや、かなり大雑把なのである(彼の片割れであるオリヴィエ曰く「アイツの頭の中の半分は筋肉と化している」のだそうだ)

 エリファスの「殺しても死ななそう」という感想はあながち間違ってはいなかった。しかし、マティアスのことをあまりよく知らないエルフィーネには、そうは思えなかったようだ。



「エルは兄さんの戦う姿を見たことがないものね。兄さんは強いよ。それに、びっくりするぐらい頑丈だ。だから、僕の言ったことは嘘じゃない。姉さんに言っても、きっと頷いてくれるよ」

「そうなの?」

「そうなの」



 エルフィーネは兄の言葉を聞き、そういうものかとあっさり納得した。



「では、お兄さまはとてもお強くてお身体も丈夫でいらっしゃるのね。青薔薇の騎士として、とても素晴らしいことだわ」



 己の言葉をあっさり信じた妹が、エリファスは少しだけ心配になってしまう。



(僕の言うことだから信じたんだろうけど、あまり人を疑わないのも問題かな? いや、純粋なエルに人を疑うことも覚えろなんて酷いこと、僕には言えない。僕がエルを一生護っていけばいいだけだ)



「あぁ。僕たちの自慢の兄で、次期当主だ」



 兄を貶すような発言をしていたエリファスではあるが、マティアスのことを心から尊敬し、誇りに思っているのだ。



「お兄さまだけでなく、エリィ兄さまもわたくしの自慢のお兄さまよ。魔法だけでなく剣にも優れた魔導士でとっても優しい、わたくしの大好きなお兄さまだわ」



 エルフィーネからすれば、ヴィストーレに居た間全く交流のなかった長兄よりも、こまめに手紙をくれて、魔導学校の一年に二度ある長期休暇の際には必ずエルフィーネに会いに来てくれた次兄の方に懐くのは当然である。

 因みに、交流のなかったのは長兄だけではなく、エリファス以外の家族全員である。別に、家族がエルフィーネを(うと)ましく思っていたなどという訳ではない。ただ、皆自分のやるべきことがあり、それを優先せざるを得なかったのだ。


 父セラティードは王城で財務局長官として勤め、侯爵領の領主としての仕事も行っている。母は侯爵夫人として社交を行い、王太子の婚約者である姉のサポートもこなしている。姉は王妃教育のために王城に通い、長兄は魔導学校に、卒業後は士官学校に進み、現在は青薔薇騎士団に騎士として所属している。

 エリファスも、エルフィーネのヴィストーレ行きが決まった時は魔導学校の休暇が終わる少し前で忙しくはあったのだが、ヴィストーレ行きのきっかけとなった事件が起きた場に居合わせたため、責任感一割、妹可愛さ九割でエルフィーネのことをずっと気にかけていたのだ。


 幼いエリファスは、妹か弟が欲しかった。だが、なかなか弟妹はできず半ば諦めかけていた時に母がエルフィーネを身ごもった。エリファスは、それはもう喜んだ。おそらく、家族の中で一番喜んだだろう。エルフィーネが生まれてから、エリファスは妹をそれはかわいがった。溺愛と言ってもいいほどに。

 そんな愛情過多な次兄にかわいがられた妹は、次兄に懐いてはいるものの、エリファスほどのブラコンではない。



「エル!! エルの自慢の兄さまでいられるように、僕頑張るからね」

「まぁ。兄さまは今のままで充分わたくしの自慢の兄さまよ?」

「ありがとう、エル。君も僕の自慢の妹だよ」



 ほほえみ合う兄妹に、シルフィードは呆れたような視線を向ける。



『まったく……。王都(こちら)へ来ても、相変わらずだな』

『でも、エル楽しそう。エルが笑っていれば、ボクはそれだけでいい』

『……そうだな。あの闇の王の愛し子がエルにどのような影響を与えるかはわからぬが、なにかあれば守護獣(われら)が護ればよいだけのこと。そのための守護獣(われら)なのだから』

『そうそう!! そのための守護獣(ボクたち)だからね』



 愛情過多であるのは、彼女の守護獣(ガーディアン)たちも同じであった。


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