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6「次兄 エリファス1」

 夕食を終え、エルフィーネが自室でくつろいでいると、ほとほとと叩扉(こうひ)の音が室内に響いた。



「どなた?」

「僕だよ」

「お入りになって」

「お邪魔するよ」



 との言葉と共に入室してきたのは、十才上の兄、エリファスだった。



「お座りになって」



 自分の向かいの長椅子を示すと、兄はそこに腰を下ろした。



「お茶会はどうだった?」



 どうやらこの兄は、昼間のお茶会のことを尋ねに来たらしい。



「とても楽しかったわ。マリ……公爵夫人も気さくで優しい方だったし、アッシュも……」

「アッシュ? もう愛称で呼んでいるの?」



 つり気味の若葉色の瞳が鋭くエルフィーネを見つめる。



「えぇ。お友達になったから、アッシュと呼んでほしいと言われたの。わたくし初めて人間のお友達ができたわ」



 嬉しそうな妹の様子に、兄の鋭かった眼差しが少しだけゆるむ。



「でも、男だろう? 僕のかわいいエルに、同い年とは言え男が近付くなんて……」



 母譲りの美しい亜麻色の髪を持ち、左目にある泣きぼくろが特徴のお色気系美青年は、度を越した妹溺愛兄(シスコン)だった。



「エリィ兄さまは、わたくしにお友達が増えたことを喜んでくださらないの?」



 シスコンの言葉を聞き、エルフィーネは悲しげに兄の瞳を見つめた。もともとたれ気味の瞳が、更に悲しげにたれ下がっている。



「そ、んなことないよ。でも、エルも初めての友達は女の子の方がよかったんじゃない?」

「いいえ。お友達になるのに、男の子も女の子もないわ。わたくしはアッシュのことが好きだし、アッシュもわたくしに好意を持ってくれたからお友達になれたのだもの」

「好き!? ま、まさか、今日のお茶会は婚約者を決めるためのものだったの?」

「まぁ……。違うわ。お母さまが、わたくしにお友達ができれば、と開いてくださったのよ。婚約だなんて、わたくしには無理だわ」



 肩を落としてしまった妹に、シスコンは慌てた。



「こんなにかわいいエルが婚約できないなんてことないよ!!」

『エリファス、エルいじめてる?』

『あれはエリファスがうかつなだけぞ。まったく……。これだから若造は』

「アズラエル、シルフィード……。本当、君たちは僕に厳しいね」

『そんなことないよー』

『我らはエルの守護獣(ガーディアン)ゆえ、エル以外の人間に優しくする義理はない』



 守護獣たちも、重度のシスコンであるエリファスと同じか、もしくはそれ以上にエルフィーネに対して過保護であった。

 因みに、なぜ契約者であるエルフィーネだけでなくエリファスも守護獣たちと会話ができるのかと言うと、守護獣たちは“念話(ねんわ)”という魔獣(ビースト)の持つ能力を使って会話を可能にしているのだ(アズラエルは念話の使い方をシルフィードに教わって使うことができるようになった)

 シルフィード曰く、人間とは声帯の作りが違い言葉を発せないため、異種族との意思の疎通のために念話という特殊な能力が備わっている、らしい。



「ふたりともエリィ兄さまを責めないで。エリィ兄さまも、ごめんなさい」

「謝らないで、エル。君はなにも悪くないんだから」

『エリファスの言う通りだよ』

『さよう。そなたにはなんの責もないことだ』

「ありがとう」



 礼を言うその表情は、先ほどまでとは違ってやわらかな笑みを浮かべている。妹の表情に悲しみの陰がないことを見たエリファスは、エルフィーネの小さな身体をそっと抱きしめた。



「エルはとても素敵な女の子だよ。結婚なんてしないで、ずっと僕の傍に居ればいい」

『エリファス……』

『無茶を言うな……』

「でも、エリィ兄さまもいつか結婚なさるんでしょう? わたくしがずっと一緒に居たら、お嫁さんがかわいそうだわ」



 かわいらしく首を傾げる妹に、兄はふと笑う。



「僕は結婚できるとは思えないからね。幸い次男だし、兄さんは殺しても死ななそうだから、跡を継ぐこともなさそうだし」



 パチリと左目を閉じて笑うエリファスは、妹相手だというのに、無駄な色気に溢れていた。



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