55「ふたつの招待」
アートレイデ邸でお茶会をした翌日。アシュレーの許に一通の手紙が届いた。差出人は、
「オリバーからか」
内容はお茶会への招待だった。曰く、新しい友とゆっくり話がしたい、と。
「来週の風の日の午後か。地の日じゃなくてよかった」
もしも指定された日が地の日だったなら、きっとアシュレーは断りを入れていただろう。新しい友と友好を深める気はあれど、エルフィーネとの逢瀬以上に大切なことはないからだ。
「返事を書くか」
今日の手習いを終えたアシュレーには、返事を書くだけの時間は充分にあった。先ほどまで向かっていた机に再び向きなおり、手紙をしたためるためアシュレーは筆を執った。
×××××
同じ頃。エルフィーネの許にも一通の手紙が届いていた。
「テアさまからだわ……まぁ!! お茶会へのご招待よ。風の日の午後は手習いの予定は入っていないし、きっとお母さまも行っていいとおっしゃるわ。お母さまに、夕食の後に訊いてみましょう」
エルフィーネは嬉しそうにテアからの手紙を文机の抽斗にしまった。
(アッシュからのお手紙をしまう文箱とは別のものを用意しなきゃ)
なんとなく、アシュレーからの手紙とテアからの手紙を同じ文箱に収めることに抵抗があったのだ。その理由はもちろん、かわいらしいやきもちである。
アシュレーの手紙専用の文箱は、彼からの手紙やカードが十を超えた辺りで、専用のものを用意してはどうかとマーガレットに言われ、便せんを買った文具店で買い求めた。アシュレーからは、週に二通ほど手紙が届く。地の日は、それとは別にカードが届く。大体、お茶会が楽しかったこととお菓子のお礼が書かれている。
文箱は彼の髪色である藍色を基調とし、虹色に輝く貝がらをはめこみ月や星を模した見た目が、以前買ったインク壜とお揃いのように思えて、ひと目惚れしたのだ。
(お返事を書かなきゃ……でも、テアさまに出すのなら今持っているものではダメよね。このこともお母さまにご相談しましょう)
母が不在の今は、エルフィーネが勝手に外出することはできない。母に許可をもらい、明日にでも文具店へ行こうと決めた。
「明日、もしお母さまがいいとおっしゃったら、文具店に行きたいの」
「なにをお買い求めになるのですか?」
「新しい文箱と、便せんを何種類か持っておきたくて。これからテアさまと文を交わすことが増えるかもしれないから」
「お屋敷に常備してあるものは、お嬢さま方のお年頃には少し地味なものが多いですから、とてもよろしいお考えだと思います。きっと 、奥さまもお許しくださいますよ。手紙は社交の手段のひとつでもありますから」
エルフィーネの年齢ではお茶会などへの出席はそう多くないだろうが、先日の園遊会のような例もある。いつ、どこで、誰と知り合うかわからないため、必要なものは早めに揃えておいた方が、今日のような時などに慌てずにすむだろう。
「そうなのね。明日の午後はなんのお稽古もないから、許可をいただいたら午後に出かけることにするわ。アッシュに出す便せんも一緒に買いましょう」
こまめに文を交わしていると、どうしても減りが早い。使用人に都度補充を頼んではいるものの、予備はあればあるほどいい。
それにしても、とエルフィーネは困ったように眉を下げた。
「アッシュには内緒にしてほしい、と書かれているのがちょっと困ったわ。わたくし、内緒にできるかしら……?」
テアたちのことを話題に出さなければいいのだろうが、うっかり口を滑らせてしまいそうだとエルフィーネは少しだけ憂鬱になるのだった。




