53「花にこめる夜空の心」
園遊会の翌日。地の日に行われるふたりのお茶会はアートレイデ邸で開く番のため、アシュレーは馬車に揺られて愛する人の許へと向かっている。彼の手には、自ら選んだ想い人のためのブーケが握られている。
(改めてエルに求婚しよう。ガーデンから護るためだけじゃない。俺が、エルを誰にも渡したくないから。エルが、 好きだから……)
決意を固めていると、ゆるやかに馬車が減速をはじめ、やがて停まった。
馬車を降り、重厚な扉の前でアシュレーは足を止め、小さく息を吐く。出迎えの使用人に頷いてみせると、扉は音もなく開かれた。
「アッシュ、いらっしゃい。昨日ぶりね」
はじけるような笑顔で出迎えてくれた想い人に、緊張のために引き結ばれていたアシュレーの口許がやわらかくほころぶ。
「そうだな。二日続けてエルに会えて、とても嬉しいよ」
「……わ、わたくしも、アッシュに会えて嬉しいわ。それに、アッシュのお顔を見たら、ほっとしちゃった」
力なく下がる眉に、アシュレーは彼女が昨日のことで不安を抱えていたことに気付いた。そして、その不安が自分の顔を見たことで解消されたことも。
「そうか……」
アシュレーが利き手でエルフィーネの桃色の頬をそっと撫でると、一瞬身をすくませたが、すぐに笑みを浮かべて剣ダコのある掌にそのまろい頬を寄せた。
「アッシュが傍にいると、なんにも怖くないと思えるの……どうしてかしら?」
「俺がエルの心を助けているのなら、これほど嬉しいことはない。エルの騎士としての勤めを少しは果たせているってことだろう?」
誇らしげに言うアシュレーに、エルフィーネは泣きそうな顔で笑んだ。
「アッシュは優しすぎるわ……」
「好きな子に優しくしない男なんて居ないだろう?」
親指でそっとエルフィーネの目尻を拭い、指先が濡れなかったことにアシュレーは安堵する。彼女の涙の理由を彼は知らないが、想い人に悲しみの涙を流させるのは彼の望むところではなかった。
アシュレーのさらりとした告白に、桃色の頬を更に濃く色付かせた想い人を見て、アシュレーは夜空色の瞳を楽しそうに細めた。そして、控えていた従者のヨハンに目配せをし、ブーケを受け取った。
「俺の気持ちだ」
今日のブーケは、中央に赤い薔薇が三輪。そして、その赤を引き立たせるように、周囲をピンクのガーベラが彩っている。
三輪の薔薇が意味する言葉は、「愛しています」だ。
幼いエルフィーネには知る由もなかったが、後ろに控える彼女の侍女はそうではなかったらしい。首を傾げるエルフィーネに、後で侍女に意味を訊くように言い、ふたりはいつものサロンへと歩き出した。その手はいつものようにしっかりとつながれていた。




