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46「薔薇を愛でる会 ~波瀾~」

 会話に夢中だった四人は、突然現れた(ように見える)ヴィンスフェルトの姿を認めるとすぐさま立ち上がり礼を取った。

 空席だった周囲のテーブルは席が埋まっており、招待客からの挨拶を受け終えたヴィンスフェルトは会の目的である貴族の子息子女との交流を図るためにこのテーブルを訪れたようだ。



「挨拶は先ほど受けたから、そうかしこまらなくていい」



 ヴィンスフェルトが椅子に腰を下ろした後に、四人も着席した。



「ずい分楽しそうだったな。なんの話をしていたんだ?」

「ただの挨拶ですよ。ですが、この二人は年の近い友人がお互いしか居なかったみたいで、友人になれたことを四人で喜んでいたんです」



 ヴィンスフェルトの左隣に座るオリバーが答えた。ヴィンスフェルトを起点に、時計回りにオリバー、テア、エルフィーネ、アシュレーという並びで座っている。



「そうか。僕も友人は乳兄弟のジェスしか居ないんだ。だから、僕とも仲良くしてほしい」



 ヴィンスフェルトは、オリバーの方へ向けていた顔を動かし、右斜め前で視線を止めて言った。ヴィンスフェルトの動きをエルフィーネは少し不思議には思ったものの、偶々(たまたま)だろうと思い、とりあえずほほえみを浮かべてみた。ヴィンスフェルトがなぜか彼女のことを見つめているからだ。



「エルフィーネ嬢」

「え? は、はい、殿下」



 いきなり名前で呼ばれエルフィーネは内心で周章(しゅうしょう)したが、どうにか返事をすることができた。少しどもりはしたが。



「あなたとは、兄上とオリヴィエさまが婚姻を結べば親戚になるのだし、特に仲良くしたいと思っているんだ」



 先ほど挨拶をした時とは打って変わって、ずい分と友好的な態度を見せるヴィンスフェルトに、エルフィーネは困惑していた。形式的な挨拶を交わしただけの相手とすぐに親しくなれるほど、エルフィーネは人付き合いに慣れていないからだ。なので、自分よりも目上の相手に返答に困ることを言われたらこう答えなさい、と次兄から教わった言葉を用いることにする。



「おそれ多いですわ」



 そっと目を伏せるエルフィーネに、ヴィンスフェルトも自分が焦りすぎていたことに気付いたのか、申し訳なさそうに眉尻が下がっている。



「少しずつでいい。どうか、僕と……」

「殿下。俺たちも殿下と仲良くしたいと思っていますよ。なぁ、テア?」



 何かを言いかけていたヴィンスフェルトの言葉を遮って、オリバーが話しかけ、兄の言葉を受けたテアも頷く。



「えぇ。殿下の賜る旧王都(セレスチャル)とレジーナ領は離れてはいますが、臣下として結びつきを深めることは大切なことですもの。それに、アシュレーさまの継ぐヴァンブレイス領はセレスチャルの隣ですから、特に親交を深めないといけませんでしょう?」



 テアがアシュレーを話題に(のぼ)らせる。アシュレーに視線を向けようとしないヴィンスフェルトに、彼のほぼ正面に座る彼女も気付いていたのだ。そして、その理由にも。それはテアだけでなく、オリバーもだ。

 アシュレーも何となく察してはいたが、特に気にしてはいなかった。しかし、双子が自分のことを気遣ってくれたことは、純粋に嬉しかった。



「……そう、だな」



 渋々、というのが丸わかりの返事だが、(いら)えが返ってきたことに双子はそっと安堵する。折角できた友人に、これ以上不愉快な思いをしてほしくなかったからだ。実際に二人が親しくはならなくても、双子がアシュレーについて言及した手前、この場では当たり障りのない対応を取るだろうという目論見である。

 果たしてその目論見は成功し、表面上は和やかに時間は過ぎていった。しかし、ヴィンスフェルトはテーブルを離れる際に、とんでもない爆弾を投げ捨てていったのだ。



「エルフィーネ嬢、今度はもっとゆっくり話をしよう。またあなたに会えるのを楽しみにしている」



 そう言ってやわらかな彼女の手を取り、その甲にそっとくちびるを落として、少し離れた隣のテーブルへと向かって行った。

 ヴィンスフェルトの行動に、このテーブルはもちろん(主にアシュレーが)大変なことになっていたが、もっと大変だったのは王妃たちの座るテーブルである。

 第二王子が、オルフェウス侯爵令嬢に好意を寄せるような態度を見せた。政略的な観点から、彼女は候補に入っていなかったのに、だ。更に、王妃は同席するマリアベルから、彼女を息子の婚約者として迎えるつもりだと婉曲(えんきょく)に伝えられていたのだ。

 このままではヴァンブレイス公爵家との関係が悪くなってしまう、と内心で周章狼狽(しゅうしょうろうばい)する王妃は、けれどそんな素振りは全く見せず、



「近い内に家族になる相手と仲良くなれたのねぇ」



 にこにこと笑みを浮かべている。



(これが終わったらヴィンスを呼び出さなくては)



 王妃の心の中は、末っ子に対する怒りに満ち満ちていた。


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