45「薔薇を愛でる会 ~ふたりの友~」
「エル」
「アッシュ」
「案内するよ。俺と同じ席なんだ」
「ありがとう、アッシュ。アッシュが傍に居てくれるだけで安心するわ」
足を止めていた使用人を下がらせて彼女の手を取り、席までエスコートする。テーブルの前で手を離し、双子にエルフィーネを紹介した。
「エルフィーネ嬢だ」
「オルフェウス侯爵家が次女、エルフィーネ・アートレイデと申します。よろしくお願い致します」
ほほえんで礼を取るエルフィーネに、双子も立ち上がって挨拶をする。
「レジーナ公爵家のオリバー・ラッセルバーグだ。よろしく」
「妹のテアよ。会えて嬉しいわ」
ハニーブロンドの兄とダークブロンドの妹は、よく似た笑みを浮かべて挨拶を返す。
アシュレーの引いてくれた椅子に腰かけるエルフィーネに続き、双子も腰を下ろした。
「仲がいいんだな」
“知り合い”以上に親密に見えるふたりの様子に疑問を覚えたオリバーが、遠回しに探りを入れる。
「お友達ですもの。ね?」
「あぁ」
アシュレーにほほえみかけるエルフィーネの表情は、嘘を吐いているようには見えない。
“闇持ち”ではあるが、建国から続く公爵家の跡取りであるアシュレーは、結婚相手としては王族に次ぐ優良物件である。更に、顔の造作も整っているので、瞳のことに目を瞑りさえすれば最高の結婚相手とも言える。
オリバーは過去に何度か出席したお茶会で、公爵家の嫡子で容姿も優れている彼の婚約者の座を射止めようと、少し年上のまだ婚約者の居ない令嬢たちに囲まれたことがある。オリバーはその時に令嬢たちをつぶさに観察し、彼女たちの瞳に宿る欲に気付いた。彼の容姿に惹かれた者、未来の公爵夫人の座を夢見る者……。表面上は淑やかに振る舞っていても、瞳の奥には欲や野望が見え隠れしていた。
なので、アシュレーと知り合いだというエルフィーネのこともそんな令嬢たちと同じなのだろうかと思い、ふたりの様子を観察していたのだが、ふたりの関係は自分の思っていたものと少し違うようにオリバーには感じられた。先ほど牽制されたことと言い、アシュレーはエルフィーネに対し、特別な感情を抱いているのではないか、と。
「わたしともお友達になってくれる、アートレイデさま?」
そして、兄と同じ教えが身に着いた妹の目には、エルフィーネは友人として望ましい相手と映ったようだ。
「光栄ですわ。実はわたくし、女の子のお友達ができるかもと、少しだけ楽しみにしていましたの。どうか、エルフィーネとお呼びくださいまし」
はにかむエルフィーネに、テアは破顔した。
「ありがとう、エルフィーネ!! わたしのことはテアと呼んでね」
「はい、テアさま」
「いきなり呼び捨てか」
呆れたように言うオリバーに、エルフィーネが慌てて口を開く。
「さま付けで呼ばれるのは慣れていませんから、呼び捨てて頂いた方がいいのです。それに、お二人の方がわたくしたちよりもお年が上でしょうし」
年齢までは言わなかったが、双子はアシュレーよりも背が高いため、そう思ったのだろう。
「本人がいいって言ってるんだから、いいじゃない。わたしたちは九歳だけど、エルフィーネたちはいくつなの?」
「わたくしもアッシュ……アシュレーさまも、七歳ですわ」
「そうなの。だったら、こういった場は今日が初めてかしら?」
「はい。少し不安でしたけど、アシュレーさまがお傍に居てくださるから、心強いですわ。それに、テアさまたちともお会いできましたし、今日は来てよかったです」
嬉しそうにほほえむエルフィーネに、テアが小さくうめいた。
「こんなに素直でかわいい子が居るなんて……つまらないお茶会になると思っていたけど、楽しくなりそうだわ」
「それは俺も同感だ。というわけで、ゼルウィガーどの。俺とも友人になってくれないか?」
どういう訳かは知らないが、妹に便乗して兄もアシュレーと友達になるつもりらしい。オリバーの言葉に、アシュレーは切れ長の瞳を大きく見開いた。
「俺と?」
「あぁ。お前も同じだろう、テア?」
「そうね。わたしもあなたのお友達になりたいわ。もちろん……」
ちら、とエルフィーネに視線を向け、
「普通のお友達よ」
にやりと笑んだ。
(俺と友達になりたい……? 本気、だな)
一瞬だけ彼らの申し出を疑ったが、すぐに否定する。双子は柔和な笑みを浮かべてはいるが、その瞳は真剣そのものだったからだ。アシュレーは、知り合ってまだ数十分の双子のことを信じられそうだ、否、信じたいと思った。
「アシュレーと呼んでくれ、オリバー、テア嬢」
「これからよろしく、アシュレー。アートレイデ嬢も、俺のことはオリバーと呼んでくれ。君とも友人として長い付き合いになりそうだからな」
「エルフィーネだけじゃなく、あなたとも友達になれて嬉しいわ。これからよろしくね、アシュレーさま」
「こちらこそ」
「わたくしのことはエルフィーネとお呼びください、オリバーさま。新しいお友達が二人もできて、嬉しいですわ」
上位貴族の集まる席とは思えないほど和やかな空気の流れるテーブルに、人影が近付いてきた。
「楽しそうだな」
そう声をかけてきたのは、本日の主役である第二王子ヴィンスフェルトだった。




