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40「色に潜む想い」

 アシュレーは花弁の(ふち)が己の瞳の色のような紫色に染まった白いリシアンサスと、甘い香りの白いスイートピー、青紫の矢車菊のブーケと、うさぎのぬいぐるみの入った袋を手に、二週間ぶりにアートレイデ邸の門をくぐった。

 玄関ホールに入ると、いつものようにエルフィーネとマーガレットが彼を出迎えた。



「いらっしゃい、アッシュ。こうしてお迎えするのは、少し久しぶりな気がするわね」

「会えて嬉しいよ、エル。自分の(うち)でエルを待つのもいいが、こうしてエルに迎えられるのもいいな」



 挨拶をしながら、まずはブーケを差し出す。



「いつもありがとう。アッシュの瞳の色のブーケね。とっても素敵。それに、いい香り」



 形のいい鼻をブーケに近付け、花の香りを胸いっぱいに吸い込んでいる。

 エルフィーネが自分の瞳の色の花が入ったブーケを受け取ってくれたことに、アシュレーはそっと安堵の息を吐く。このブーケを母に見られた時、愛情表現はほどほどにしなさいね、と言われたからだ。アシュレーは以前エルフィーネへの贈りものを選ぶ際、己の瞳の色のリボンを母に却下されたことを思い出し、想い人とはいえ、まだ婚約者でもない相手に自分の瞳の色のものを贈るのはあまりよくないことなのだとなんとなく理解した。理解はしたが、納得はしなかった。



(好きな子に自分の色のものを身に着けてもらいたいと思うことの、なにがいけないんだ)



 しかし、母がそう言うということは、エルフィーネもそのように考えているかもしれないとは思ったが、自分の色を彼女の傍に置いてほしい欲が勝り、花を選びなおすことはしなかった。

 エルフィーネが不快感を示したらどうしようかと不安ではあったが、その心配は杞憂であったようだ。



「気に入ってもらえてよかった」

「アッシュに頂いたお花で、気に入らなかったものなんて一度もないわ。いつもありがとう、アッシュ」



 アシュレーが差し出した手を取りながら、エルフィーネはほほえむ。



「少し暑くなってきたから、今日はお(うち)の中にお茶の用意をしているの」

「そうか。たしかに、最近は外で稽古をしていると汗をよくかくようになってきたからな。エルが暑さで体調を崩すといけないし、これからは室内の方がいいだろう」



 二カ月ほど前まで療養していたエルフィーネの身体を(おもんぱか)っての言葉に、エルフィーネのまつ毛がそっと伏せられる。



(本当は、身体が弱いわけじゃないのに……)



 アシュレーに嘘を吐いているという罪悪感からエルフィーネの心は落ちこみ、知らずその歩みが遅くなる。そして、そのことは手をつないで隣を歩いているアシュレーも当然気付いた。



「エル? どうかした?」

「なんでもないの。少し、考えごとをしていて……ごめんなさい」



 謝るエルフィーネの瞳に、かすかに傷ついたような色を見てとったアシュレーは、それ以上何か尋ねるようなことはしなかった。



「そうか。でも、歩きながら考えごとをするのは危ないからやめた方がいい。俺が傍に居る時は、エルを助けることができるからいいけど……あぁ、でも、俺と居る時にエルが俺以外のことを考えているのはイヤだから、やっぱり俺の前でも考えごとをするのは禁止。わかった?」



 エルフィーネの気分を盛り上げようとおどけるアシュレーに、エルフィーネの胸がきしむ。



(本当に……優しい人)



 つないだ手をきゅっと握りしめ、エルフィーネは小さく息を吸いこんだ。



「ありがとう、アッシュ。今度からは気をつけるわね」



 アシュレーの気遣いを無駄にしないよう、エルフィーネはほほえんでみせる。

 少し離れた所から二人のやり取りを緊張の面持ちで見つめていた侍女と従者は、ほっと胸をなで下ろした。



「お部屋に行きましょう」



 エルフィーネの言葉に、先導のため二人の前に居たマーガレットが再び歩きはじめる。そして、その後に続いて二人も応接室へ向かって歩きはじめた。


リシアンサス=トルコギキョウ

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