38「菓子と意志」
ヨハンの案内によって、二人は前回と同じサロンに通された。丸テーブルにはピンクのガーベラや花弁の縁が赤く染まった白いアザレア、赤やピンクのカーネーションなどの可憐な花が飾られ、白磁の皿には数種類のお菓子が載っている。これらは、エルフィーネのために女主人と家令が用意したものだ。アシュレーも飾る花を選ぶ際に多少は意見したのだが、はりきる二人には敵わなかった。しかし、ガーベラを入れてほしいという意見だけは通ったので、おおむね満足している。エルフィーネがガーベラを好きだということが判明したからだ。
「今日はチョコチップ入りのブラウニーを作ってきたのだけど、本当にこれでいいの? この間頂いたお菓子はどれもとてもおいしくて、わたくしが作ったものだと、物足りないのではないかしら」
「家のお菓子は頼めばいつでも作ってもらえるけど、エルのお菓子は週に一回しか食べられないとても貴重なものなんだよ? 物足りないだなんて、思うわけがない。それに、母上もエルの作ったクッキーをおいしいと褒めていたよ。また食べたいとも言っていた」
「わたくしの作ったものをそんなに気に入ってもらえて、とても嬉しいわ。それに、マリアおばさまのお口にも合ったみたいでよかった。今度ここへ来る時はマリアおばさまの分も用意するから、アッシュから渡してもらえる?」
エルフィーネの作ったお菓子をたとえ母であっても渡したくはないと独占欲が顔を覗かせるが、かわいらしく小首を傾げてお願いをするエルフィーネに悲しい表情をさせたくないと、内心渋々ではあるものの、笑顔を作って首を縦に振った。
「きっと母上も喜ぶよ。ありがとう」
「わたくしの作ったお菓子を食べて、アッシュやマリアおばさまが喜んでくださることが嬉しいの。それに、アッシュは本当においしそうに食べてくれるから、アッシュの食べる姿を見ていると、とっても幸せな気持ちになるの。わたくし、お菓子作りを習っていてよかったわ」
嬉しそうに語るエルフィーネに、アシュレーはやはり肯いてよかったと心の中でこぶしを握った。
エルフィーネがお菓子を食べてもらうことを喜んでいるのだから、その喜びに陰を落とすような真似をアシュレーはしない。自分が最も多く彼女の作るお菓子を食べられる存在になればいいだけのことだ。
ブラウニーを口に運びながら、アシュレーは再びエルフィーネの婚約者となる決意を固くするのだった。
その後、厩舎に行き、嬉しそうにステラに話しかけるエルフィーネを見て、再びアシュレーが悋気を見せたものの、満面の笑みを浮かべた彼女から発せられた「ありがとう」のひと言に、悋気はあっさり陥落した。
エルフィーネが公爵邸を辞する前には、今朝アシュレーが自ら選んだ花で作られたブーケを渡した。彼女の好むやわらかな色合いの可憐な花々で作られたそれは、エルフィーネに花が咲いたような笑みを浮かべさせ、贈り主を大いに満足させた。
そして、彼女を邸まで送り届けたアシュレーは、自室にて次なるアプローチの方法に頭を悩ませるのであった。




