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3「お茶会」

「エルフィーネちゃん、お身体の具合はもういいの?」

「はい。ヴィストーレの自然と空気のおかげで、すっかりよくなりましたわ」



 エルフィーネがヴィストーレに滞在していたのは、病気によって身体が弱ってしまったため、その療養のためとされている。対外的には。



「それはよかったわ。わたくし、エルフィーネちゃんに会えるのを、ずっと楽しみにしていたの。こうしてあなたとお話ができて、本当に嬉しいわ」



 そう言って笑うマリアベルの表情は本当に嬉しそうなもので、その言葉が嘘ではないことがわかる。



「ありがとうございます。わたくしも、公爵夫人とアシュレーさまとお会いできて、とても嬉しく思っておりますわ」

「まぁ、エルフィーネちゃん!! 公爵夫人だなんて他人行儀な呼び方はよしてちょうだい。あなたにはぜひ、マリアおばさまと呼んでもらいたいわ」



 マリアベルのあたたかい言葉に、エルフィーネの顔によそ行きではない笑みが浮かぶ。



(優しい方だわ)



「はい、マリアおばさま。わたくしのことも、どうかエルとお呼びくださいまし」



 エルフィーネの笑みを見たマリアベルは、満足そうに頷いた。



「やっぱり女の子は可愛いわね。エルちゃんが元気になって、あなたも安心したでしょう?」



 マリアベルの言葉に、ロザリンドはおっとりと笑みを浮かべた。



「えぇ。エルちゃんが帰って来てくれて、本当に嬉しいわ」



 それから、母親同士は様々な話題で盛り上がっていたが、その子供たちはひと言も発することなく長椅子に腰かけている。

 エルフィーネは白磁のティーカップを傾けつつ、向かいに座るアシュレーに視線を向けた。少年は、先ほどから全く微動だにしていない。お茶を飲むことも、お茶菓子を食べることもしていないのだ。

 エルフィーネは思いきって目の前の少年に話しかけてみることにした。



「アシュレーさまは、甘いものはお好きではありませんの?」



 突然話しかけられたアシュレーは、わずかに眉を上げ、おもむろに口を開いた。



「……嫌いじゃない」



 いささかぶっきらぼうではあるが、返事をもらえたことで少し自信のついたエルフィーネは会話を続けることにした。



「よかった。このお屋敷のシェフの作るお菓子はとてもおいしいんです。甘いものがお嫌いでないのであれば、ぜひ召し上がってください」



 ほがらかに笑うエルフィーネに、アシュレーは戸惑ったように夜色の瞳を揺らめかせ、やがて小さく頷いた。



「頂こう」



 目の前に並べられていたマドレーヌを取り、一口かじる。もぐもぐと咀嚼するその表情は一見何の感情も浮かんでいないように見えるが、紫暗の瞳がほんの少しだけ細められていることにエルフィーネは気がついた。



(よかった。甘いものはお好きな(ほう)みたいね)



 エルフィーネは自分の前に並んであるスコーンをトングでつかみ、アシュレーに向かって差し出した。



「このスコーンもとてもおいしいんですの。お好みでこちらのジャムやクリームをおつけになって」

「……あぁ」



 スコーンをアシュレーの皿に載せ、イチゴジャムの瓶とクロテッドクリームの器も渡すと、アシュレーは素直にジャムとクリームをスコーンにつけて食べ始めた。

 そんな二人の様子を見た母親たちは、子供たちは仲良くなれそうだと安堵の笑みを浮かべるのだった。


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