22「緩まぬ攻め手」
「来週の水の日の午後、我が家でお茶会を開くの」
藪から棒に告げられた言葉に、アシュレーはカトラリーを動かしていた手を止め、はぁ、と気のない返事をする。
「ローザも招待しているから、エルちゃんを連れて来てもらうように頼んだの。もちろん、快く了承してくれたわ」
嬉しそうな母に、アシュレーの片眉がぴくりと上がる。
「エルをお茶会に参加させるおつもりですか?」
「いいえ。お茶会の始まる時間より前に来て頂いて、エルちゃんとお話をするつもりよ。この間、色々買っておいてよかったわ」
以前、母ならば自分で機会を作ってエルフィーネに渡すだろうとアシュレーが思っていた品々は、やはり彼女に直接手渡されるらしい。今回の招待の目的はそれで、エルフィーネをお茶会に出席させる訳ではないとわかり、アシュレーは表情をゆるめた。
「もちろん、俺も同席させて頂けるんですよね?」
問いかけると、母は少し不満げな表情で息子を見つめた。
「アシュレーは毎週エルちゃんに会っているでしょう? たまにはわたくしにエルちゃんを譲ってちょうだい」
「それとこれとは話が別です。エルに会える機会を逃がしたくありませんから」
「アシュレーは本当にエルちゃんのことが大好きねえ。安心してちょうだい。あなたには最初からエルちゃんのお相手を頼むつもりだったから」
「エルの相手……?」
ぽかんとする息子に、母はにんまりと笑みを浮かべた。
「えぇ。ローザが帰るまで、エルちゃんをひとりで待たせておくわけないでしょう?」
してやったり、と言わんばかりの表情だ。
「母上……」
「ふふ。ごめんなさい? でも、いつも冷静なアシュレーがエルちゃんのことになると一気に子供らしくなるものだから、面白……感激してしまって」
母の言葉に息子は肩を落とした。反論は諦めたらしい。
「もういいです。エルと会えるのなら、我慢します」
「そうしてちょうだい。エルちゃんが来たら、すぐに呼んであげるわね」
どうやら最初からアシュレーを同席させてくれるようだ。
「お願いします」
(来週は二日続けてエルに会えるのか……楽しみだな)
嬉しそうに口許をゆるめる息子を見て、マリアベルの顔にも笑みが浮かぶ。
(早くエルちゃんが本当の娘にならないかしら)
と。
×××××
翌々日の地の日。
玄関ホールでアシュレーを出迎えたエルフィーネの髪には、先日彼から贈られた蒼いリボンが飾られている。それに合わせて今日の彼女の装いは、サックスブルーの膝丈のサーキュラースカートに白いブラウス。胸元にはピコフリルをあしらった共布のボウが結ばれ、足元は以前履いていた白いアンクルストラップシューズ。
想い人が自分の贈りものを身に着けてくれていることに本人が気づいたのは、エスコートのために腕を差し出した時だった。
「リボン、着けてくれたんだ……すごく嬉しいよ。思った通り、よく似合っている」
エルフィーネの輝く金糸を一房掬い、そっとくちびるを落とした。
「アッシュ!? な、なにを……」
頬だけでなく首までも赤く染まったエルフィーネは、それ以上言葉を紡ぐことができず、サンゴ色のくちびるを震わせている。
照れてはいるが嫌悪は見えない想い人の様子に、アシュレーは内心でほくそ笑んだ。
(イヤがられてはいないな。少しずつ俺に触れられることに慣れてもらうとしよう)
「俺が贈ったものを身に着けてくれたのが嬉しくて、つい……すまない」
「あ、謝らないで。少し、びっくりしただけだから」
少しだけ申し訳なさそうにまつ毛を伏せて謝れば、慌てたように手を振りながらエルフィーネはあっさりとアシュレーを許した。
「よかった。イヤがられたわけじゃなくて。どうやら俺は、好きな相手には触れてしまいたくなるようだ」
言葉と共に再びエスコートのための腕を差し出すと、エルフィーネはためらいながらも己の手をそっと添えた。けれどその頬はアシュレーの直截な言葉により、再び薔薇色に染まっているが。
頬を染める想い人にエスコートを拒まれなかったことに内心で安堵しながら、アシュレーはガゼボへと歩き出した。
ストックが尽きましたので、不定期更新となります。




