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2「魔力と属性」

ブックマークありがとうございます!!

面白いと思ってもらえるお話になるようにがんばります。

 エルフィーネの住むセストラル大陸には、魔法が存在する。魔力を持つ者は“魔導適性者”と呼ばれ、魔力を持つかどうかは、この世に生まれおちてその瞳を開いた瞬間に、魔力を持って生まれたこと、身体に宿る魔力量、そして、その魔力の属性までもが判る。

 魔力の属性は、水・火・風・地・光・闇の六つがあり、一人につき一つの属性しか持たず、複数の属性を扱える人間が存在することはない。


 どの属性を持っているかは瞳の色で判断し、魔力の量は瞳の色の濃さや輝きの違いで(はか)ることができる。水は青系、火は赤系、風は緑系、地は橙系、光は銀系、そして、闇は紫系の色が瞳に顕れる。

 属性の中でも、水・火・風・地の四属性は“四大元素(エレメンタル)”と呼ばれ、殆どの魔導適性者は四大元素の内のいずれかを持っている。反対に、光と闇の属性を持つ者は希少で、セストラル大陸全土においても、その存在は片手で足りるほどである。


 そもそも、魔導適性者自体、人数がそれほど多く居るわけではないのだ。魔力の発現の条件は(いま)だ解明されておらず、魔導適性者同士の子であっても魔力が発現しない子供が生まれることもあるため、その血脈を確実につなぐことは難しい。

 そのため、魔導適性者はどの国においても国を挙げて保護され、国民たちからもその力で生活を良くする存在であると好意的に見られている。闇の魔導適性者を除いて。


 その理由は、今から二百年ほど前にさかのぼる。最も魔力が多く強い力を持つ闇の魔導適性者が、国土は小さいが実り豊かなミニョンヌ公国という国をたった一人で、それも一晩で滅ぼしたからだ。ミニョンヌ公国があった土地は、二百年経った今でも草の一本も生えない死んだ大地に変わった。この出来事は“ミニョンヌの幻夢(げんむ)”と言われ、死の大地と化したミニョンヌ公国跡地は“虚無の爪痕”と呼ばれるようになった。

 ミニョンヌの幻夢が起きて以来、闇の魔導適性者はその魔力量にかかわらず、闇の魔力を持つというだけで人々から忌避されるようになってしまった。


 現在、エルフィーネの住むルナクリスタロ王国では、四大元素以外の魔導適性者は一人しか居ないと言われている。

 そして、今エルフィーネの目の前に立っている少年の瞳は、まるで夜空を切り取ったように濃い紫をしていた。



×××××



 お茶会の当日。今日のエルフィーネは、母の友人とはいえ格上にあたる相手を招いているため、いつもより少しだけ着飾っていた。

 赤みがかった金の髪は背に流し、幅が太めの青い絹のリボンを結んでいる。

 繊細な白のレースを襟と袖にあしらった、サックスブルーのハイウエストワンピースに、右の足首に飾られた白いバラのコサージュがアクセントになっている白いアンクルストラップシューズを合わせ、少女らしい、けれど、侯爵令嬢に相応しい装いだ。

 エルフィーネは母と共に、公爵夫人と令息の待つ応接室へ向かっていた。



(お二人とも、話しやすい方だといいけど)



 シルフィードとアズラエルには大丈夫だと言ったが、ものごころついてからエリファスとヴィストーレの館に居た使用人たち以外の人間と殆ど接したことのないエルフィーネの心には少しの不安が陰を落としていた。

 ロザリンド付きの侍女が、応接室の扉を開く。開かれた扉の正面にある長椅子に座っていた客人たちはすぐさま立ち上がり、ロザリンドたちを出迎えた。

 金茶の髪に淡い緑の瞳を持つ公爵夫人マリアベル。そして、夜を彷彿(ほうふつ)とさせる藍色の髪に、こちらもやはり夜空を切り取ったような濃い紫色の瞳のアシュレー。

 マリアベルは親友に会えたことが嬉しいのか、淑女らしからぬ満面の笑みを浮かべている。反対にその息子のアシュレーは、見知らぬ二人に対する緊張からか、くちびるを固く引き結んでいる。



(きれいな瞳……。まるで夜空を閉じこめているみたい。アズラエルと同じ闇属性でも、魔力量の差でこんなにも印象が違うのね)



 アシュレーの瞳を見つめていると、不意にその夜色の瞳がエルフィーネに向いた。しかし夜空色の瞳は、なぜか落ち着きなく揺れている。



(どうなさったのかしら?)



 エルフィーネが首を傾けると、アシュレーは切れ長の瞳を見開いて、そっとまぶたを伏せた。



「お久しぶりね、ローザ。はじめまして、エルフィーネちゃん。わたくしは、マリアベル・ゼルウィガーよ。お会いできて嬉しいわ。この子はアシュレー。エルフィーネちゃんと同じ七才なの」



 マリアベルはそう言って、息子の背を軽く叩いた。



「アシュレー・ゼルウィガーです。……よろしく」



 シンプルすぎる挨拶に、隣に立つマリアベルは柳眉を寄せるが、またたきよりも速く淑女らしいほほえみを浮かべなおした。



「先日のお茶会以来ね、マリア。アシュレーくん、はじめまして。わたくしはお母さまの友達のロザリンド・アートレイデと申します。あなたに会えるのを、ずっと楽しみにしていたのよ。この子はエルフィーネ。仲良くしてあげてね」

「……はい」



 やわらかくほほえみかけてくるロザリンドに、アシュレーは戸惑ったような表情で答えた。

 エルフィーネはアシュレーの瞳を見つめ、美しい礼を取り挨拶をする。



「お初にお目にかかります。エルフィーネ・アートレイデと申します。どうぞよろしくお願い致しますわ」



 ロザリンドと同じく、エルフィーネもアシュレーにほほえみかけるが、先ほどとは違い無言で顔を背けられてしまった。



(嫌われてしまったのかしら? でも、仕方のないことだわ。だってわたくしは――――だもの)



 エルフィーネは諦めながらも、その表情を崩すことはしなかった。


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