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15「武威公爵」

 夕食を終え、エルフィーネは母に誘われて、パーラーで母と姉の三人で食後の紅茶を飲んでいた。



「アシュレーくんとはどんなお話をしたの?」



 にこにこと問いかけてくる母親に、エルフィーネもほほえみを返した。



「お稽古の話などを。アッシュは座学や魔法実技だけでなく、剣術や乗馬もなさっているそうですわ。剣術と乗馬がとてもお好きなようで、楽しそうにお話ししてくださいましたの。来週も会うお約束を致しましたわ」

「まぁ!! ふたりはすっかり仲良しになったのね。わたくし本当に嬉しいわ」



 ぱん、と軽く手を合わせて無邪気に喜ぶロザリンドの隣で、美しい亜麻色の巻き毛の女性が感心したようにほう、と息を吐いた。



「さすがゼルウィガー将軍閣下のご子息だ。“武のヴァンブレイス公爵家”の嫡子として相応しい」

「武のヴァンブレイス?」

「あぁ、エルは知らないか。ヴァンブレイス公爵家は初代国王陛下の弟君が興した家で、王弟殿下が武勇に優れていたことから()を支える籠手の名を与えられた。以来、歴代の当主たちは武人として国のために尽くしたことから“武のヴァンブレイス公爵家”、当主は敬意を込めて“武威公爵”と呼ばれているんだ」



 この国の王と王太子には、(スパーダ)の名が与えられている。

 王太子以外の男子には(スクード)の名が与えられていて、初代国王の王弟の興したヴァンブレイス公爵家は盾の名こそ継いでいないが、盾と籠手の二つの役割を与えられたことになる。



「そうでしたの。わたくし、なにも知らなくて……恥ずかしいですわ」



(わたくし、アッシュのことをなにも知らないのだわ。もっとアッシュのことを知りたい)



 好きな食べ物や趣味など、アシュレー個人のことはもちろん、彼の周囲のことも。



「エルの年なら知らなくとも恥ではないさ。エルはまだ様々なことを学び始めたばかり。知らないことは少しずつでも知っていけばいいんだよ」

「お姉さま……ありがとうございます」



(お姉さまのおっしゃる通りだわ。知らないのならばこれから知っていけばいいのよ。きっとアッシュなら教えてくれるわ)



「私はエルぐらいの年の時にはジェラールとの婚約が決まっていたから、それは大変だったんだ。何度教師たちから逃げ出したことか!!」

「まぁ」

「そういえば、アシュレーどのはジェラールとは()()()になるんだったか」

「はとこ?」



 聞きなれない言葉に、エルフィーネは首を傾げる。



「閣下のご母堂がさきの国王陛下の妹君で、閣下は今上(きんじょう)陛下の従弟君でいらっしゃる。親が従兄弟同士の子供のことを、はとこと言うんだ」



(つまり、アッシュのおばあさまが国王陛下の叔母さま、ということね。と、いうことは)



「アッシュは王家の方なのですか?」

「いや、王家の血は流れているが、あくまでヴァンブレイス公爵家の人間だ。ヴァンブレイス公爵家、というか三公爵には時折王女の降嫁や臣籍降下による婿入りがあるから、王家の血が流れていない公爵家の人間は居ない。公爵家に限って言えば、王家の血なんてそれほどありがたいものでもないだろう。王位継承権があるわけでもないしな」



 からからと笑うオリヴィエはお世辞にも淑女らしいとは言えない。しかし王妃教育の賜物か、淑女らしくないその姿でもどこか気品というものを漂わせているのだから不思議である。



「そうなんですの」



 オリヴィエの言葉に、エルフィーネはほっと安堵の息を吐いた。



「ジェラールたちになにかあれば王家の血を引く者が王として立つこともあるだろうが、現状そういったことは起こらないだろう。だからアシュレーどのに王位が回ってくるようなことはないから、安心しなさい」



 ふと笑うオリヴィエに、エルフィーネは大きな瞳をぱちぱちと(しばたた)かせた。



(安心?)



 エルフィーネの内心の声が表情に表れていたらしく、オリヴィエはからりと笑う。



「アシュレーどのが王家の一員であれば、気軽に会うことなどできないと不安だったのだろう?」

「そう、なのでしょうか?」

「エルがアシュレーどのに好意を抱いているのは話を聞いていればわかるさ。大事な友に会える機会が少ないというのは、とても寂しいことだからね」



 オリヴィエのブラウンの瞳が一瞬だけ揺らいだが、母と妹が気付くことはなかった。



「わたくし、そんなにわかりやすかったでしょうか。淑女として恥ずかしいですわ」



 六才になってからホーランド夫人から簡単な淑女教育を受けるようになった。その教えの中に“異性への好意をみだりに表してはいけない”というものがあったのだ。



(アッシュはお友達だけど、異性だもの。あまり褒められたことではないわよね。それに、アッシュはわたくしのことを……好き、なのだし)



「恥じることなどないさ。淑女らしくないというなら、私の方こそそう言われるべきだ。家族の前なのだから、あまり気を遣わなくていいんだよ、エル」



 ぱちりと片目を閉じるその仕草は、エリファスがよくエルフィーネにしてみせるものと同じだった。



「お姉さま……」

「そうそう。わたしはエルの姉なのだから。人前では淑女でいなければならないが、ずっと淑女たれと己を律するのも疲れるものだ。だから“自分らしくいられる場所”というものが必要だ。家族や愛する男性(ひと)の傍など、ね?」



 何やら含みを持たせる姉に、妹はことりと首を傾げる。



「家族や愛する人……親友ということですわね!! わたくし、アッシュともっと仲良くなれるよう、努力致しますわ」



 ぱぁ、と表情を輝かせる妹に姉は苦笑する。



(そういうことじゃないんだが……。楽しそうだから、まぁいいか)



 友だけでなく家族とももっと距離を縮めてほしかった姉は内心で肩を落とすが、楽しそうな妹の様子にひとつ吐息を零すだけにとどめた。


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