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10「夜空への想い」

 一階へ降り、まずはインクを探すことにする。インクの色は数種類しかないが、インク(びん)は様々な色や形のものがある。



(インクの種類というよりも、壜の種類が多いのね)



 陳列台に並ぶインク壜の数は三十近くはありそうだ。美しいカットが施されたもの、貝がらや小さな石で飾ってあるものなど、眺めているだけで楽しくなってくるものばかりだ。

 端から順に眺めていると、キラキラした壜が目に入った。



(きれい……これは木漏れ日の波(天の川)かしら?)



 薄青色のガラス壜はミッドナイトブルーのインクで満たされている。壜の正面は白い貝がらでできた三日月が埋め込まれており、壜の周囲を木漏れ日の波を模した小さな石で飾られている。夜空そのもののそれに、エルフィーネはひと目で惹きつけられた。


 アシュレーの色の便せんに、同じくアシュレーを彷彿とさせる夜空のようなインクで文字をつづるのはとても素敵なことのように思えた。



「これも買うことにするわ」

「お預り致します」



 できる侍女であるマーガレットが速やかに壜を受け取る。



「ペンも見てみたいわ」



 ペンはお気に入りのもの(自筆で手紙を書くようになってから、エリファスが定期的にプレゼントしてくるのだ)があるので、新しく買う必要はないのだが、インク壜と同じく美しいものがあるかもしれないので、見てみたくなったのだ。



「こちらでございます」



 いつの間にか近くに居た販売員が(マーガレットが呼んだようだ)エルフィーネを案内してくれた。



「ごゆっくりご覧くださいませ」

「ありがとう」



 ペン売り場も、様々な色や形に溢れていた。主流の羽根ペン、色味と形状が美しいガラスペン、高価な魔石ペン(万年筆)も少々。エルフィーネが使っているのはよくあるガチョウの羽根ペンで、ガラスペンや万年筆を目にするのは初めてだった。



「きれいなペン。ガラスでできているのね。書いていてペン先が割れたりしないのかしら?」

「素敵な細工!! どうやったらガラスをこんな形にできるのかしら?」

「このペンは? 万年筆というの? ペン先に魔石を使っているのね」



 初めて見る美しいペンを見て一通り楽しんだエルフィーネは、マーガレットに帰宅の意を告げる。



「かしこまりました。品物を受け取ってまいりますので、しばらくお待ちください」



 マーガレットの言葉に頷き、トーマスと共に彼女を待っていると、すぐにマーガレットは二人の許へ戻ってきた。その手にある紙袋を、トーマスがさりげなく引き受ける。



「お待たせ致しました。では、馬車の所まで戻りましょう」

「えぇ」


 こうして、エルフィーネの初めてのお出かけは終了した。



×××××



 夕食後。エルフィーネは自室にて筆を執っていた。もちろん、アシュレーに手紙の返事を書くためだ。

 手紙の礼に始まり、お茶会の感想や、今日はダンスのレッスンがあったこと、他にもレッスンや座学があり、時間が丸一日空く日はお茶会のあった“地の日”だけで、他の日は午後からならば調整が効くため、アシュレーの都合の良い日に合わせることなど、簡潔にまとめたつもりだったが、便せん三枚分の長文となってしまった。

 初めての友人への手紙ということで、知らずの内に気持ちが高ぶっていたようだ。



「さすがに初めてのお手紙で便せん三枚分は、ちょっと長過ぎるかしら……?」



 けれど、手紙に(したた)めた言葉は全てエルフィーネの心からの想いで、それを削るのはとても難しいことのように思える。



『そなたの気持ちをつづったものなのだ。不快に思われることはなかろう』

『そうだよー。エルの気持ちはきっと伝わるよー』



 ふたりの言葉に、エルフィーネは力強く頷いた。



「そうよね。アッシュは迷惑だなんて思ったりしないわよね」



(アッシュは優しい人だもの)



 アシュレーの笑顔を思い出したエルフィーネは、便せんをていねいに折りたたんで封筒に入れ、慣れた手付きで、しかし、やはりていねいに封蝋で閉じた。



「お返事が来るのが楽しみだわ」



 ラベンダー色の封筒を見つめて、エルフィーネは満足そうにほほえんだ。



×××××



 城下町へと出かけた翌朝。エルフィーネは昨夜認めた手紙をゼルウィガー家に届けるよう、マーガレットに頼んだ。



「早ければ、明日ぐらいにはお返事が届くかしら?」



 楽しそうに笑うエルフィーネに、マーガレットの頬もゆるむ。



「お茶会の翌日にお手紙が届いたくらいですから、きっと次のお返事もすぐに届くと思いますわ」



 マーガレットの返事に、エルフィーネは花が開くような笑みを浮かべた。



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