表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/63

1「はじまり」

 うららかな春の午後。最近の日課となった母とのティータイムにて、それは告げられた。



「お茶会、ですか?」



 大きな蒼いたれ目をぱちりと(しばたた)いて、赤みがかった金色の髪の少女は問い返した。



「えぇ。でも、お茶会といっても、そんなに大仰なものではないのよ。わたくしのお友達と、その息子さんをお招きするだけだから」



 あまり人に慣れていない娘を安心させるように、亜麻色の髪の女性―母であるロザリンド―は、ほほえみを浮かべた。



「エルちゃんがヴィストーレから戻ってきたことを話したら、ぜひ会いたいとおっしゃったのよ」

「そうなんですの」



 エルフィーネは、母の言葉に安堵したようにまぶたを伏せた。

 エルフィーネは三才の時にとある事情により、父の治めるオルフェウス侯爵領にある、保養地として有名なヴィストーレという街で四年間過ごしていたのだ。それも、家族の付き添いはなく、数人の使用人たちと、三才のエルフィーネだけで。

 もちろん、ロザリンドや兄姉たち―特に次兄のエリファス―は反対したが、侯爵家当主である父の決定であること、姉のオリヴィエが王太子の婚約者であり、王城にて王妃教育を受けているため王都を離れられず、母もそのフォローのためにエルフィーネについて行くことが困難であることから、エルフィーネは独りでヴィストーレに向かうことになったのだ。



「お父さまのお友達でいらっしゃるヴァンブレイス公爵閣下の奥方さまなの。息子さんはエルちゃんと同い年で、公爵夫人は初めてのお産と育児で忙しかったの。落ち着いたら、彼女と息子さんを招いてお茶会を開こうと思っていたのだけれど……」


 言葉を区切り、悲しそうにほほえんだ。

 幼い娘を独りで遠く離れた土地に向かわせることに罪悪感や不安はあった。しかし、ロザリンドもエルフィーネが戻って来るまでに四年もかかるとは思ってもみなかったのだ。



「その子……アシュレーくんとおっしゃるのだけど、アシュレーくんは親しくしている子が居ないそうなの。だから、エルちゃんと仲良くなってくれればと思って」



 親友の初めての子であるアシュレーと、遅くにできた子であるエルフィーネが同じ年なのはなんて素敵なことなんだと喜んでいたロザリンドは、子供たちの顔合わせの日をそれは楽しみにしていた。親友の子育ても一段落し、そろそろ二人を家に招こうかと考えていた矢先、エルフィーネのヴィストーレ行きが決まってしまったのだった。

 保養地であるヴィストーレにはエルフィーネと年の近い貴族の子供はおらず、今現在エルフィーネ自身にも親しくしている相手は居ないため、エルフィーネのためにもアシュレーと会わせたいとロザリンドは考えているのだ。



「アシュレーさまにお会いするのが楽しみですわ」



 母親の気持ちを知ってか知らずか、エルフィーネは嬉しそうに言った。



×××××



 その日の夜。

 エルフィーネは自室にて、ヴィストーレに居た頃にできた友と明日のお茶会について話していた。



「お母さまのお友達でいらっしゃるから、悪い方ではないと思うのだけど」

『しかし、エルがここに来てまだ一ヶ月しか経っておらぬ。いささか時期尚早では?』

『エルはそのヒトたちに会うのはイヤなの?』

「イヤというわけではないけど……。少し、不安だわ」



 エルフィーネは困ったように蒼い瞳を伏せた。



『エリファス以外の家族にすら、まだ慣れておらぬというに。侯爵夫人はなにを考えておるのか』

「シルフィード……」



 エルフィーネは傍らにうずくまる、純白の翼をもつ白い虎―エルフィーネの友であり守護獣(ガーディアン)である天虎(ウィンドタイガー)のシルフィード―をなだめるように豊かな白い被毛を撫でた。



「お母さまは、わたくしのためを思ってお友達を招待なさったんだもの。わがままは言えないわ」



 そう言ってシルフィードの被毛を撫でるエルフィーネの白く小さな手に、つややかな黒い大きな翼がそっと触れた。



『でも、エルがイヤな思いをしているのにガマンさせるなんてヒドいよ!!』



 つやめく漆黒の翼をバタつかせ、エルフィーネのもうひとりの友であり守護獣である魔ガラス(メイジクロウ)のアズラエルは(いか)りを露にする。

 自分のために怒ってくれる友に、エルフィーネは先ほどシルフィードにしたのと同じように、アズラエルの漆黒の身体を撫でてやる。



「ありがとう、アズラエル。ふたりが傍に居てくれるだけでとっても心強いわ。だから、大丈夫」



 言うなり、エルフィーネはふたりに抱きついた。

 動物の虎よりもひと回り大きなシルフィードに、やはり普通のカラスよりも大きいアズラエルは、小さなエルフィーネに抱きつかれてもびくともしない。甘えてくるエルフィーネに、シルフィードは翠の瞳を細め、アズラエルはふじ色の瞳をぱちぱちと瞬かせる。



『ムリはするでないぞ』

『ボクたちはエルの味方だからねー』

「ありがとう、ふたりとも。大好きよ」



王都(ここ)で生きていくのだもの。今まで通りに過ごすわけにはいかないわ。でも、わたくしは独りじゃない。きっと、王都でも頑張れるわ)



 エルフィーネはまつ毛を伏せ、あたたかな身体を再び強く抱きしめた。


ストックが尽きるまでは毎日更新の予定です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ