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亡国の夜告は銀貨と共に  作者: 長良道々
プロローグ
1/10

プロローグ①



ーーーーーーお前の命は銀貨三枚


ーーーーたかが銀貨三枚


ーー所詮、銀貨三枚



万民を救うに足らず、


憎きを討つに届かず、


命を賭けるに能わず、



明日の朝告げの哭を待つ事なく野垂れ死ぬだろう



「それでも私は賭けた。たかが銀貨三枚、されど銀貨三枚(私の命)だ」



高々その程度の命でもって、値千金の英雄に挑むか



天秤にかけるまでもなく無駄な事だ




此れは原理、




万に一つもお前に秤が傾く事は無い




「黙れ。今日はやけに口が達者だな。臆したか?それとも情でも湧いたか?この野良犬風情の小娘に」




死に急ぐか




よかろう。お前は銀貨三枚()を賭けた




我に何を望む




「当然、死合う(コールする)なら果てる(ショーダウン)まで」




なれば最早言葉は不要




相対するは互いの宿業()のみ




いざ、尋常に




「尋常に」







*******************

  






「姫様!お待ちください!!」



 腰の曲がった片眼鏡の執事の爺が追いかけてくる。だけど、待てと言われて待てるほど私は暇じゃない。

 両手でドレスの裾を捲り上げながら、翡翠を散りばめた陶器の壺や、真紅の飾り紐が括られた宝剣といった調度品が飾られた回廊を全力疾走する。



 この光景はメイド達にとっては日常茶飯事なので、すれ違う度に大体決まった反応をした。1人は呆れたように額を抑え、1人は優しく微笑み失礼のないようお辞儀を、もう1人はあたふたとわたしと執事を交互に見た。先の2人と後の1人の違いは、ここに仕えた年数の違いだろう。



 要するに爺の味方をするものはいない。(というよりは積極的に関わらない事を是としていた)

 だからこそ、わたしは爺に向かって断言する。



「今日は!淑女教育を!やらない日!!」



「そんな日はありませぬ!!」



「ある。わたしの決めた姫の休日の日は今日!今この時より今日は万民の休日になったの!だから、爺も休んでいいわ!」



呆れ果てたように爺は溜息をついた。

しつこくも喘喘と息を切らしながら追ってくるけれど、歳も歳だからか幾ら走ってきても追いつかれる気がしない。わたしは追い打ちを言わんばかりに後ろを振り返り、目の端に映る爺に余裕の笑みを向けた。




「まったく……フィオラ様が落ちいてきたと思ったら今度は……」



ふふん。捕まえられるものなら捕まえてみなさい。



「あっ!姫様、クッキーを落とされましたぞ!」



「えっ嘘!?」



慌てて後ろを振り返る、がそこには何も無い。

次いでメイドに頼んでドレスの内側に仕込んでもらった(メイドは泣いていたが)ポケットを探る。



ーーー大丈夫、ちゃんとある。



ホッと胸を撫で下ろした。

これが無ければ始まらないというのに、こんなところで落としてしまっては元も子もない。

さて、と思ったところで私に影が差した。




ーーーあっ……しまった。




恐る恐る顔をあげれば、曲がった腰を杖で持ち上げた爺がじっとわたしを見ていた。元の身長差もあって上から覗かれると、わたしの体はすっぽりと影の中に入ってしまう。



「も〜ち〜ろ〜ん〜嘘ですぞ〜」



ガシッとでも音がしそうな強い力で肩をガッチリホールドされ、抵抗する間も無くわたしは抱え上げられた。一体この身体のどこにそんな力があるのか……。そして、わたしからすれば嫌味ったらしく片眼鏡の顔でニンマリと笑った。



「捕まえましたぞ姫!さぁ戻って先生の元で続きをしましょう」



「ぬがーっ!離せぇ〜〜やめろ〜〜大声出すぞ〜〜」



「我儘を……って!ちょっと姫!暴れないで下さいませ!」



抱え上げられて宙ぶらりんになった脚をジタバタさせて必死の抵抗を試みる。ついでに両腕もブンブンさせているもんだから、淑女教育の先生がこの場に居合わせたら激昂するか、貧血で倒れるかのどちらかだろう。




「あらあら、どうしたの?」




 喧々轟々の騒々しさを遮る涼やかで凛とした、それでいて優しく温かみのある声がした。思わずハッとして声のした方を見れば、彼方の双眸と目があった。



 動き易い部屋着のままだというのに、隠しきれない気品と器量の良さ。漆黒の髪を腰のあたりで束ね、金色よりもその異名に擬えて輝月色と呼ばれる瞳を見れば、誰も彼もが『月の女神』と讃えるのも頷ける。



 同じ髪色と瞳の色をしているにも関わらず、わたしとは似ても似つかない。

 わたしの親愛なる姉様がいた。




「姉様!!」「フィオラ様!」




一瞬注意が逸れた隙をついて、爺の拘束から抜け出した。そして脱兎の如く逃げ出すと同時に、満面の笑みで姉様に抱きついた。




「姉様!姉様!姉様!!お、お身体はもう良いのですか?わたし今から姉様のところに行こうと…」

「えぇ……今日随分と具合が良いわ。ふふっ心配してくれたのね」




 ありがとう、と付け加えて姉様がわたしの頭を優しく撫でてくれた。これだけで今日の目的の三分の一が達成されたと言っていいだろう。

 ついでに怖い顔で睨む爺から隠れるように、姉様服の裾を掴んだまま裏にまわる。

 それからちょっとオマケで舌をべーっと出して威嚇してみた。




「フィオラ様……まずはご快復なされたようで何よりで御座います」

 爺はそう言うと執事然とした仰々しい仕草で姉様に礼をした。



「しかしフィオラ様……その……あまり姫様を甘やかされますと、私共としましては困ります」

「あら、そうなの?」

「困りませぬ。今日はわたしの決めた姫休日の日ですので、爺も休みなのです」

「あらあら、そうなのね」

「フィオラ様。その様な得体の知れない休日があるわけないでしょう」

「あらら、それは残念ね」

「姫休日なので、今日は姉様もお休みの日です」

「あら!それは良いわね」

「何も良くありませぬ……」



 厄介な相手が1人から2人に増えた事で、打開策を打ち出すのに必死な爺を尻目にわたしは先手を打つ。

 ポケットの中の袋を取り出して姉様に差し出す



「姉様!姉様の具合が良くなるようメイドに頼んで姉様の好きなお菓子を持ったきたのです!」

「でかしっ……あらあら、それは素敵ね。それじゃあ私の部屋でお茶でも淹れましょうか」



 グッと握り拳を作って姉様から見えない位置から爺に向かって勝利宣言をする。姉様は眉目秀麗に加え何でも出来るお方だけれども、茶と菓子に関して言えば茶菓子狂いといっても良いくらい見境が無い。



「いや、しかし今日は姫様にとって大切な淑女教育の日でして……」

「王家の命よ、爺。今日は特別にお休みにしましょ?」



力なく言った爺の言葉を姉様が両断した。

わたしと違い既に公務もされている姉の発言はそれなりに力がある。公務もしているのに、それで良いのかという気もするが、これで良いのだ。



「ぐぬぅ、今日!今日だけですぞ!まったく……先生の方には私の方から言い含めておきます」

「ありがと爺!」

「姫様は少しは反省なさいませ!!」




 爺は怒り肩で振り返ると、元来た道を戻って行った。苦労してるなぁと他人事のように思っていると、姉様が「それじゃあ、行きましょうか」と言ってわたしの手を引いた。



 王家だというのに姉様とこれだけ仲が良いのは、この『ウルクレシア』というが小国ではあるが、比較的豊かである事が大きい。北部を海に面した海洋国家という側面を持ちつつ、内陸部は肥沃な大地でもって広大な農地を持つ農業国家。国内の食料はほぼ国内で自給自足が可能であり、他国との国境は険しい山々に囲まれている為、ここ数百年は戦争でさえ経験していない。



 逆に言えば自国内で完結しているが故、それ以上に反映しようという欲も無い。だからこそ王家に特有の継承権の争いといったものにも縁が無かった。




 そんな事を考えていると、姉様が不思議そうな顔でわたしを見た。姉様といえど美形すぎる顔にじっと見つめられば、わたしだってほんのちょっとはドキドキしてしまう。



「それにしても、よく爺から逃げて来られたわね?結構しつこいでしょ?爺って」

「爺……ですか?確かにしつこいです!爺は爺だと云うのに体力が有りすぎです!見かけに依らず力も強いですし」

 思い返すのは捕まった時のことだ。どれだけわたしが足掻いても結局姉様が現れるまで拘束を解くことは出来なかった。



「あぁ……じゃあ爺は二枚使ったのね」

「二枚?」

 首をコテンと傾ければ、それを見た姉様が口元をおさえてクスクスと笑った。



「精霊魔法のことよ」

「精霊魔法!!」



 城中に響き渡るので無いかと云う大声に思わず口を塞ぐ。そうだ。そうだったのだ。忘れていたわけでは無いが、わたしが姉様のところに向かった理由の一つ。



「今日はお茶もあるけど、その話も聞きに来たのでしょう?私が元気になったら教えてあげる約束だったものね」

「姉様っ!」




 再びガシッと姉様に抱きついた。ふんわりと鼻腔をくすぐる花の香り。一生嗅いでいられる。




「もう……ほら、部屋に入って。お茶をしながらゆっくりお話しましょう」

「はい!姉様っ!」






ーーー精霊魔法



精霊に祈る事でこの世ならざる現象を引き起こす力



誰にでも使うことは出来るが、当然力の強さは当人の資質に因るところが大きい



だがしかし、とある理由から使用には制限が設けられ、この国で精霊魔法を行使できるのは王族と一部貴族のみとなっている



違反すれば最高刑で死罪



それ故、王族といえども教育が始まるのは十五を過ぎたからと決められていた



当時のわたしはそれに三つ届かない



たった三つ、されど三つ



この精霊魔法との出会いが、後の運命を変える事を



わたしはまだ知らない。



日曜更新

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