表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

イト

作者: 烏月ハネ

顔に糸が付いていた。


手で払うが、手に糸は付いていなかった。


電車が揺れる。


じとっとした秋になりかけの季節。


すし詰めで蒸し暑い車内。


やはり顔に糸が付いている気がする。


再び払うも、やはり糸は付いていない。


電車が止まった。


どうやら間隔調整らしい。


アナウンスを聞きながら身じろぎする。


押される形になった前のサラリーマンに押し返された。


ふと、視界に真っ白な糸が見えた気がした。


サラリーマンの頭にまっすぐ伸びている糸。


どうなってるんだ?


先端は上に向かって伸び、車内の天井にくっついている。


それに気付いた時、周りの他の人間からも糸が出ている事に気付く。



三度顔を払う。


やはり糸は付いていない。


その時。


「発車致します。揺れにご注意下さい」


アナウンスとともに電車が揺れた。


天井から伸びていた糸が、切れた。


プツリ、プツリ。


一斉に切れた糸の音は、どこか金属がへしゃげる音に似ていた。


ふと、頭に触れる。


糸があった。


先端は千切れ、繋がって居なかった。


アナウンスが流れる。


駅に到着する。


「地上、地上ー。終点です」


地上?


扉が開くが、誰も降りない。


降りなければ。


無性にそう思って、人をかき分ける。


迷惑そうにこちらを見る人。人。人。


ようやく降りると、何もない暗闇だった。


振り返れば、電気が消えて鉄屑になった地下鉄。


乗客は糸が切れたように動かない。


血だらけだ。


死んでいる。


それを思い出した時、頭上から光が落ちる。


「大丈夫ですか?!」


助かった。


そして意識が途絶えた。



***



首都圏直下型地震は、多くの命を奪った。


地下鉄が潰れ、通勤時間帯の多くの人が死んだ。


奇跡的に助けられ、気が付いた時には病院のベッドにいた。


顔に触れる。


糸は付いていなかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ