店長、シフト変更してください。
定期更新、10作目です(数え間違いで、6作目が二つに!)
よく10作まで言ったと思います、自分でも。
宜しければ、読んでいってください。
※本作はフィクションです。作り話です。
「恭子はお見合い結婚したそうです。」「さて、一番年上は何歳でしょう。」「ブーケトスもそんな感じ。」「いっしょに食事をするだけの簡単なお仕事です。」「マグロ係」「七つまでは神のうち」の続きです。
「優しくされたいから、他人に優しくする」という考えは正道と言い難いが、
他人に優しくできない人が、他人が優しくないと言って怒るのは筋違い。
ヒトは鏡だ、他人を殴ればいつかは自分も殴られることを、覚悟しなければならない。
重症の喫煙者は赤ん坊と同じだ、と言うヒトがある。常時口が淋しい状態であるのを、オシャブリが無いと愚図る赤ん坊ととらえているわけだ。だから、煙草でモタつくコンビニバイトに異常に怒る。イライラするから、また吸う。
なんという悪循環。
吸わない奴を病気にしないなら吸えばいいよ。そんで勝手に死ねばいい。
そんなことを言えば、「非道い(ひどい)」と怒られる。
「自分にとって都合の良い社会が好きで、その社会を壊そうとするものに怒りを覚える」、というのは人間の性の常だ。
人間とはそういうものだ、と諦めた方が抗うよりはるかに楽。
東銀台商店街、二丁目三番地裏通りにある喫茶店「ささにしき」の四時間バイト、夏目新はヘビースモーカーだ。
「さすがにバイト中、ふかしたりはしないが。」
今日の天気は土砂降り、そのせいなのかお客はまばらだ。見知った常連が二、三人コーヒー一杯でもう数時間入り浸っている。店長が良いと言うならばバイトに口をはさむ権はないし、俺はバイト代さえ貰えればどうでも良い。
ふとドアの音が聞こえたと思うと、また見知った顔が入店してきた。
「・・・いらっしゃいませ、お好きな席へドウゾ。」
「とりあえず、ホットケーキ三十枚。」
喜瀬川 公房が現れた!
新の頭の中で、ゲームのBGMが一瞬だけ流れた。敵が登場する時の音楽だった。
町のハズレのお屋敷に住んでいる、職業不詳の男というのが彼だ。この町に長く住んでいて、喜瀬川 公房を知らないのはオカシイと言われるくらい彼は有名である。町で一番の老人が、「ワシの爺さんが子供の頃から、あの人はあそこに居を構えている」と言ったとかなんとか。同居の息子曰く、その老人も最近ボケ始めている。深夜徘徊が止まないらしい。
喜瀬川 公房は週に二回ほどココ、喫茶店「ささにしき」で店長考案のホットケーキを食べて帰るのが習慣となっている。
ただ、量が尋常ではない。いわゆる「大食い」「健啖」の人種だろうか。
こげ茶の大地から、とろりと山吹色の蜂蜜が落ちていった。
なんと美味しそうな光景と思いきや、積み重なっているホットケーキ三十枚が目に入ると途端に胸やけを起こしそうになる。
常連客は皆、喜瀬川 公房の席を見ないよう目を逸らした。
今日彼は一人ではない、器量のよい娘を伴っていた。案の定娘も、ホットケーキを視界に入れぬようにしている。
「初乃さん、貴女も何かお食べになりますか。ホットサンドもなかなかの美味で、おススメなのですが。」
「いえ、せっかくのお申し出ですが。」
初乃、と呼ばれた娘は公房の申し出を固辞し、慣れた手つきで店員を呼ぶ。
「すみません、アイスコーヒーを頂けますか。ミルクひとつ、砂糖なしで。」
「アイスコーヒー、ミルクひとつ砂糖なしですね。
承りました。少々お待ちください。」
現在十五時四十二分、あと二十分たらずでバイト上がりだというのに不運なことだ。
新は、こっそりと溜息を吐いた。
定期更新、10作目。
お読みいただけたならば、幸いと存じます。