南雲機動部隊
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1942年 4月
まさか、戦争期に登場できるとは、な。それも、南雲忠一さんとは…。ミッドウェーの敗北だけ避ければ、後は何とかしてくれるでしょ。たぶんなぁ。その前に、生き残れるかな、南雲さんって戦死しているし…。
第一航空艦隊旗艦赤城の艦橋でボソボソと一人ごとを呟いている人物は南雲忠一である。日本海軍機動部隊司令官であるが、空母運用知識が乏しい為、部下任せのお飾り司令でもあった。
はぁ、セイロン沖海戦も自己満足勝利の結果で終わって、英国海軍に戦略的ダメージだけで大型空母撃沈には至ってないし。お家に早く帰りたいなぁ。日本の敗戦なんて決まっているから田舎で終戦まで暮らしたい。十分すぎる戦果を叩き出しているから、無茶な要求でも上層部はのんでくるはず。
南雲忠一の中身は21世紀の大学生である。ゆとり世代and文系男子大学生のため、面倒くさいことから逃れてダラダラと過ごすことが体に染みついて、時間や態度にいちいち五月蠅い軍隊生活に幻滅しているのだ。と言っても、彼は南雲忠一に転移して10日も経っていない。狭い艦内でずっと過ごしているのだ。揺れるし狭いし、スマホないし、色々と精神的に限界が来ていた。
狭いと言っても艦隊指揮官であるから、赤城の中でも一番良い部屋をあてがわれているのだが、窮屈さは慣れていなければなくならない。それに、一般兵士が窮屈な二段ベットで生活していることからとても申し訳なく思い、ゆっくりと部屋でリラックスできない。
「長官、連合艦隊司令部からです。南太平洋方面に空母を向かわせて、敵海上戦力を相当して陸軍の支援をせよ、とのことです。」
ボソボソと呟いている南雲(仮)に草加参謀長が命令通告書を渡した。
「は、え?えーと、アメリカ軍空母機動部隊がいるってことでしょ。空母の数とか敵の艦隊規模とか、日本海軍が派遣する合計戦力の資料とかないの?何その命令、現場の判断に丸投げしますよって聞こえるんだけど、。」
「……。うーむ、そのなりますな。」
艦橋の参謀たちも草加参謀長のなんとも歯切れの悪い返答に反対しなかった。南雲が周りを見ると視線を逸らせる者が大半であった。セイロン沖海戦までギャアギャアと横から口を挟んできた源田参謀も視線はそらさなかったが、何も言わなかった。
連合艦隊司令部からは作戦指示でなく、作戦目的が通達されたのだ。作戦は南太平洋方面の第四艦隊司令部に委託するつもりであろう。つまり、第四艦隊指揮下に入ることになる。それを参謀たちは気付いて連合艦隊からの命令に不満を持っているのだ。第一航空艦隊は連合艦隊、山本五十六大将の指揮下である意味の独立遊撃部隊として活躍してきた。山本は航空関係に明るい人物であるから、無茶な作戦命令や納得できない運用をしないと参謀から一般の兵士まで思っている。
そこに、航空関係に疎いと思われる第四艦隊の傘下に組み込まれるとどこかで亀裂が生じる。考え方が根本的に違うからだ。もう一つの懸念事項は前線部隊との連帯である。新たな航空戦術を利用するこの艦隊に赴任していないことから、まだまだ古参戦術を重視している可能性もある。
結局のところ、何らかの政治的な取引があったと予想される。一時的に第四艦隊に組み込まれる事態は変わらないから、その中でもある程度の発言力と独自行動が出来る艦艇数を派遣する必要がある。
南雲機動部隊は現在、日本に帰還中である。赤城、飛龍、蒼龍、翔鶴、瑞鶴の5隻の空母、金剛型4隻の戦艦を中核とし重巡2隻、軽巡1隻、駆逐艦10隻で編成されている。
「ふーん、駆逐2隻と赤城を呉に帰還させる。旗艦翔鶴に移動させよう。あと、第五航空戦隊の参謀たちは赤城に移って内地に戻ってもらおう。」
「赤城も帰還させずに組み込むべきでは?一航戦の精鋭の方が戦力にもなりますし、赤城は第一航空艦隊の旗艦であります。旗艦を移動ということは士気に影響を与えるかもしれません。海軍の伝統ですので、旗艦移動は止めたほうがよろしかと。」
「参謀長、我々の艦隊は伝統なのかね?そうだね、いい例があるぞ。かの有名な織田信長を知っているだろう。彼の桶狭間合戦時の居城は那古野城であった。そして、彼の最終的な居城は近江の安土城である。彼は天下統一の為に居城を何回も移動しているのだよ。まあ、戦国時代は居城を変えないことが当然であったのだよ。それでだよ、結果はどうかね?居城を変えて伝統を打ち破ってきた織田信長が戦国最大勢力となったであろう。それと、同じことよ。我々が伝統でないと否定した側になっては食われるだけだ。」
「織田信長ですか、彼は本能寺で死にますが。」
「参謀長、何も織田信長に依存する気は全くない。時が来れば、豊臣秀吉、徳川家康へと変わっていくのだよ。だが、今必要なのは戦国を終わり導く大きな戦略的勝利だ。わかるかね諸君。桶狭間は終わったのだよ。彼らは油断なんてしていない。もう二度と桶狭間やってこない。だからこれからは目的によって柔軟な変化をしていく必要がある。そして、確実に仕留める。」
建造されてから約20年のおんぼろお船なんかにいつまでも乗艦したくないよ。新しい船に乗りたいよ。はぁ、この艦隊お古の船多くない?金剛型戦艦、赤城、加賀、軽巡阿武隈とか…。新しい船は駆逐艦、重巡利根型、翔鶴型空母。この組み合わせならば、翔鶴型しかないよ。トホホ。
翔鶴型航空母艦は1941年に竣工した最新鋭の正規空母であり、赤城、加賀、蒼龍、飛龍などのノウハウが十分に生かされた完成形である。
「わかりました。旗艦を移動さえましょう。しかし、長官。五航戦を内地に戻しますと彼らから不満が出るやもしれません。」
「大丈夫さ。彼には任務を与えるから。長崎の造船所で空母に改装している元商船があるだろう、現場に行ってそいつのとても詳細な我々独自の報告書を纏めてほしいのさ。煙突部分が今までの空母異なっているからそこを重点的に調べてもらうつもりだ。長崎の現場連中も南雲機動部隊の一翼を担っている五航戦の司令と参謀を無下には出来ないだろう。」
南雲がいっているのは商船改造空母隼鷹のことだ。隼鷹の報告書をくれと連合艦隊司令部に言っても雑なものしかくれないだろう。ならば、自分たちで調査したほうがよいと考えたのだ。ついでに、長崎で極秘建造中(笑)の戦艦武蔵も見てもらいと思っていた。兎も角、一航戦パイロットの休息も必要で精鋭の彼らを失ってしまうことを出来るだけ避けようとしていることも事実であった。また、一航戦パイロット達には海軍航空隊の視察にでも行って国内基地の状況も見てきてもらうつもりだ。
新しい船に移動できる!きれいなはずだ。赤城は古臭いから、やっぱり新品がいいねー。あと、口うるさい源田参謀をこの艦隊から追い出せば完璧だ。何かと戦闘中だとうるさいんだよね。全く自分の航空理論で方針決定を促すやり方やめてほしいわー。
「五航戦訪問には艦隊の司令部からも誰か付けるとよりスムーズになると思います。」
「なるほど、その案はいいかもしれないな。誰がいいか…。」
ナイスだ!源田参謀を本国に送り返してやる、さてどのようにやるか。なるべく穏便に済ませたいな。
草加参謀長の言葉に反論しようとした士官たちは艦隊司令の南雲が賛同したことで口を紡ぐことになってしまった。南雲はわざとすぐさま賛成して、厄介者を追い出そうとしていたのだ。
「ふむ、源田参謀。君が赤城共に帰還してくれ。」
「な、ですが、私がいなければ、艦隊は指揮ができませんぞ。」
まさか、自分が選ばれると思っていなかったみたいで虚を突かれたようであった。それ故全くもって艦隊司令官に向かって無礼な発言をしている。周りの仕官達は源田のその言葉に顔をしかめた程度であったが、源田よりも階級が上の海軍少将で先ほどから参謀長と南雲に呼ばれている草加龍之介は源田を睨みつけていた。
今までの戦果を考えれば源田の功績は大きい。真珠湾攻撃からセイロン沖までだ。そこからはもう無用なのだ。ミッドウェーでの大敗北から大した戦果を導くこともできない参謀なんていらない。その状況を打破してこそ、本当の参謀である。21世紀からきた男にとって今の源田はいちいち口答えしてくるプライドが高いだけのやつなのだ。
それよりも真っ白なキャンバスをもつ士官や参謀たちに本物の空母機動部隊の戦いを見せて学んでもらうほうが今までの仮定から導き出された仮定の航空運用戦術よりも役に立つし、有能な指揮官となってくれるだろう。でも、その仮定戦術に染められてしまった者が積極的に学ぶとは思えない。源田のような連中はこれからの南雲機動部隊に不要なのだ。
「源田参謀に学んだことを俺も実行したいと思っているのだよ。そういうことだよ。別の機動部隊が編成されるからそこでビシバシ鍛えて航空関係に明るい指揮官を育ててくれ。今までありがとう。これからは自分でやってみるさ。」
完璧だ。左遷通告完璧!山本五十六さんに一筆書いておけば、小規模かもしれないけど機動部隊の航空参謀としていれてもらえるだろう。これで拒絶しても、内地に送ることは変えんし。最悪、小沢さんの南方艦隊に送ってやろう。一航艦の航空参謀を貸し出すと言えば、南方艦隊も受け入れるだろう。小型空母持っているみたいだからね!
何と言っても現在世界最強の南雲機動部隊だからね!肩書は完璧だな!
「そうだな。源田参謀、私も勉強になった。感謝する。」
草加参謀長もこれは幸いと感じたのであろう、南雲に便乗してきた。司令官、参謀長が同意している状況を覆すことは難しい。
「わ、わかりました。」
源田も一応、左遷でなくて新たな機動部隊の赴任を仄めかした南雲の発言で納得した様子であった。