転生四日目ーーー襲来
次の日の放課後、
「納得出来ません!!」
そう言って、ここ生徒会室で声を荒げている男子生徒が一人。
細面の貴公子然とした生徒で、なかなかの美形と言えた。
女子たちからも人気の高そうな彼は、目を吊り上げながら生徒会長に詰め寄っていた。
「どうしてこんな補欠が生徒会に入っているんです!!信じられない!!」
ヒステリックに捲し立てる彼は、どうやら只者ではないらしい。
目に見えてわかる、能力者としての素質。胸の印章は六星に金の刺繍をあつらえた、特別な生徒にしか許されないもの。
なるほど、彼も官位を管理する者に連なる人間なのだろう。
「生徒会は選ばれた人間のみが入ることを許される神聖な場所のはず!それなのに、なぜ補欠ごときが出入りを!?いや、それどころか役職にまでつけるなんて言語同断だ!!即刻取り消して入室禁止の措置を取るべきだ!!!」
いや、お前も生徒会の役員じゃねーだろ。と、誰もが口には出さないものの同じ感想を持つ。
「こんな非常識な事は見たことがない!!!我々は断固抗議する!!
いや、このような異常な事をする生徒会長には是非とも辞任していただきたい!!!」
水理のいる会長用の豪華な机の天板に手を叩きつけながら、息を荒くして言い立てる。
「---そう」
彼女は少年の言い分を聞き、閉じていた目をすっと開く。
「なら仕方ない。
あたし西山水理は生徒会会長職を寿退職することにする」
「え?」
誰かが上げた素っ頓狂な声。彼女は気にせずに俺の手を取って腕を組むと、
「これまでお世話になりました。
これからは二人で仲の良い家庭を築いていきます」
と、一礼してそのまま部屋と出ようとするが、
「な、何やってんのよりーちゃん!?」
慌てて阻止する真奈美さん。
「そーですよ!抜け駆けは許しません!!」
美波も加わって俺たち二人を部屋の中に引っ張り込む。
「むう、折角のチャンスだったのに」
ぷぅっと頬を膨らませる水理だが、
「残念ながら会長、会長職は生徒会その他の認証が得られなければ辞任できませんので悪しからず」
と、極めて冷静な声で突っ込んでくれる詩音さん。
わかってる、と拗ねた子供の様な調子で再び会長用の椅子に体を放り投げる。
どっちが年上かわからないな、と内心思っていると、
「いい加減にしてもらいたい!!!」
男子生徒が再び乱暴に天板を叩きつける。
「こんな非常識な人たちだとは思わなかった!!それというのもこの補欠が入ってきたからだ!!このことは会議の議題として俎上させて頂くし、それ相応の処分は覚悟していただきたい!!」
彼のいう会議とは、上流社会の連中の会合の席で、ということなのだろう。こんなことで一々言い立てることかね?
「はぁ、いい加減にしてもらえないかな三山くん」
そのあまりの態度を見かねたのか、ため息を付きながら少年に言う真奈美。
「そんな変な行動をしていたら、私たちまで変な目で見られるじゃない」
彼女は作業をする手を休めずに、彼の方を見ようともせず口だけで忠告した。
「な!?そんなことありませんよ真奈美さん!!この三山江留守、貴方の婚約者順位第四位の名誉にかけてその様なことは決して!!?」
真奈美さんに言われてあからさまに動揺しているな、こいつ。
そういえば、真奈美さんには何人かの婚約者がいるようだが、こいつもその中の一人か。
この調子じゃ婚約者は何人いるのかわからないが、どうやら立場は彼女のほうが上らしい。
「大体、こんな無能な補欠風情が生徒会にいること自体が異常なのです。人には弁えなければならない分というものがある。それをたかが生徒会会長ごときに贔屓されたくらいでのぼせ上っているような屑には理解出来ないのです」
彼はできるだけ優しく、彼女を諭すように丁寧な口調で言うが、真奈美さんの目は冷ややかだ。口元に浮かべた冷笑が非常に怖い。
それにも気づかず、俺の悪口を滔々と言いながら真奈美さんを何とか諭そうとする三山。
完全に彼女の視線は冷え切っているが、それ以上何も言わない。ことを荒立てないように、というか荒立てる価値もないといわんばかりの背中。
会長や詩音さんも同じような態度。もはや彼を完全に見切っている感じだ。いつもと変わらない笑顔の千里さんだけは違うけど。
しかし、一人だけ態度が違う者がいる。
顔を上げずに黙々と作業に打ち込んでいたが、耳の端まで赤くしている。
いつ怒りが爆発するかも分からない危ない活火山。それが今の美波だ。
「---であるからして」
陶酔しながら俺の悪口の演説を延々と続けていた三山に割って入って、
「分かりました、そこまで言うなら模擬戦をしましょうっ」
突然の俺の申し出に彼は一瞬、色を失う。
「あら~、そうと決まれば早速準備しなくちゃ~」
三山が怒りだすより早く、ぽやんとした声で反応する千里さん。早い。
陶酔から一転、憤怒に色を染める三山の顔面だが、
「まさか、逃げるつもり?」
水理の冷ややかな声に、
「はっ!まさか!!」
それだけ言ってあっさり承諾。
「---いい気になるなよ」
彼は怒りをそのまま俺にぶつけてくる。
「俺に立てついたことをたっぷりと教えてやる…」
今にも飛び掛かってくるばかりの形相だな。
ま、俺にとっては美波が爆発しなかったことの方が重要だけどな。




