第一話 シノブ・エインズワースの誕生
さて、シノブ・エインズワース……もとい、望月忍がなぜ女装なんぞしているのか、そしてなぜウィステリア魔法女学園に身分を偽って編入しているのかというと、そもそもの発端は一月ほど前にまでさかのぼる。
陽気が差す春の朝、長く伸びた黒髪を頭の後ろで一まとめにし、ジャケットとやや汚れたズボンを着るという簡素な格好をした忍は自身が所属する魔法ギルド『パラス・アテナ』本部の長い廊下を歩いていた。なぜかというと、日課である朝の鍛錬を終えてギルド本部へと顔を出した忍は突然ギルド上役からの呼び出しを受けたからである。
――大規模魔法ギルド『パラス・アテナ』。魔術師の相互扶助組織に端を発する魔法ギルドのうち、メルカディア王国内で最も大きな組織である。
研究、開発、製作、教育、戦闘など、おおよそ魔法に絡むほとんどの事が行われている自由なギルドであり、抱える人員数も、人材の多彩さも、ついでに一般市民の認知度や好感度も王国一であるという、名実ともに王国随一の魔術組織だ。
魔術師の集まりである『パラス・アテナ』がなぜ市民に広く認知されているのかといえば、このギルドは一般から有料で依頼を引き受け、ギルドメンバーがそれを解決するというある種の便利屋的側面があるからだ。
一般人でも依頼を出すことができるうえ、基本的に内容を問わない――術師の力が必要と思われる案件であることが条件であるが――依頼を受けてくれるのは『パラス・アテナ』しかないため、多くの人たちにとってこの組織はありがたい存在なのである。
そういうスタンスであるからして、パラス・アテナに舞い込んでくる依頼の内容は千差万別玉石混交。
無造作に掲示板に貼り付けていても全く問題のないようなものが大半ではあるものの、中にはある程度内容を秘匿しておかなければならないような依頼が持ち込まれることもないわけではない。
そういった色々な意味で面倒な依頼はギルドからの呼び出しという形で人員を引っ張り出し、密室で依頼内容を提示するのが通例となっていた。
だからまあ、今日もまた依頼の話だろう……などと軽く考えながら呼び出された部屋の前まで来た忍は、その部屋がいつも仕事の話をする部屋とは違うことも深く考えず、扉のすぐ裏にある気配にも注意を払わず、いつものようにノックをして扉に手をかける。
ギルド内で敵はいないとはいえ、特に子供である忍相手に好んで悪戯を仕掛ける様な人物――どっちが子供だ、などと思ってはいけない――はギルドにも少なくないため気を張っておくべきなのだが……今日に限って忍は完全に油断をしていた。
気を張っていればこの状況にいくらかの疑問が浮かんだかもしれないが……残念ながら後の祭り。忍が軽く頭を下げながら、いつもの調子でその扉を開くと同時に部屋に女性の声が響く。
「確保ーッ!!」
「えっ? なんっ!?」
突然響いた声に忍が驚きの声を上げるとほぼ同時、人影が忍に飛びかかってくる。
忍は反射的に左の拳を握り人影に向かって打ち込むが、とっさに打った踏み込みも力の乗せ方も甘い拳打はその人影の掌によって受け流すように軽く払われる。そしてそのままその人影は流れるように忍の背後に周り、羽交い絞めにして拘束した。
忍と人影の身長差のせいで、忍の両足がぶらりと宙を漂う。
「なッ……この、お前ッ……お前……」
何するんだ! と、口にしかけた忍は、自身を拘束する人物を改めて認識し、語気を弱める。飛び掛かられた時は突然すぎたせいで相手を認識できなかったが……落ち着いてみてみると背後にいる人物は自身の良く知る相手だった。
「……いや、本当に何してるんです?」
呆れを多分に含んだ口調でそう言いながら、忍は自分を拘束している人物に視線を向ける。
「手荒でゴメンね、シノブちゃん。でもこれも上から頼まれたことだから、ギルドメンバーとして涙を呑んで実行しなければならないの……」
忍の背後から耳元で囁くようにそう言うのは、パラス・アテナの女性ギルドメンバー、オリヴィア・ロンド。
彼女は忍と同じくパラス・アテナの依頼処理を行う人員であり、忍になにかと世話を焼いてくれるありがたい先輩であり……忍の剣の師匠でもある人物だ。
「はあ、そうですか……で、これから何が始まるんです?」
「簡潔に言うと、シノブちゃんの着替えかな?」
さらりと告げられたオリヴィアの言葉に、忍はぽかんと口を開ける。
「え……? 着替え? そんなの一人でできますけど……」
「んー? それは無理かなー。着替えっていったけど、髪型とかも変えちゃうし……変装とイメチェンを足して割ったみたいな感じ?」
「えっ……ちょっ……どういうっ……!?」
オリヴィアの言葉に驚きと戸惑いを見せる忍だが、そんなことは関係ないといわんばかりに彼女はシノブを強く抱きしめる。
そうやって忍の体を固定した後、オリヴィアは肘から先だけを器用に動かして忍の腰から胸にかけて……女性でいうところのウエスト部分を指先でなぞる。
体を走るこそばゆいようなゾクゾクとした感覚に、忍は思わず声を上げていた。
「ひぅっ……!? お、オリヴィア姉さん!?」
「んー? ……シノブちゃんやっぱり細いわね。結構鍛えてるはずなのに……種族柄ってやつなのかしら……これなら確かに違和感も少なくできるわね」
さわさわと忍の体を触りながら、しきりにうなずいているオリヴィア。
ちなみにオリヴィア姉さんと忍は呼んでいるが、断じて血のつながりはない。忍はオリヴィアに剣の手ほどきを受けていたため、尊敬の念を込めてそう呼んでいるが……そもそも忍に姉呼びするように言ったのはオリヴィア自身であり、その理由は単純にオリヴィアの趣味である。
そんなショタコン疑惑濃厚なオリヴィアは一通り忍の体をまさぐり終えると、再び忍の耳元に口を寄せた。
「さて、じゃあシノブちゃんはこれから女の子になってもらうから。一人でもできるように服の着方とかちゃんと覚えるのよ?」
「ひうっ、耳っ……って、えっ……えっ……?」
耳元にかかる吐息と言葉にビクンと体を震わせた後。オリヴィアの言葉に困惑の視線を向ける忍。
しかしそんな忍を置いてきぼりに、オリヴィアは話を進める。
「大丈夫よ、シノブちゃん。シノブちゃんもともと中性的だから服と髪型を変えれば可愛い女の子になるわよ! うふふふ……」
妖しい笑いを零して欲望丸出しにしているオリヴィアの言葉に自分が何をされるかを忍は何となくであるが理解する。
しかし時すでに遅し、抑え込まれて逃げることもできなくなった忍は悲鳴を上げることしかできなかったのであった。
「待って……ちょっと待ってぇええええええええええええ!!」
☆ ★ ☆
「……もうお婿にいけない……」
オリヴィアに色々と弄り回されて真っ白に燃え尽きながら、息も絶え絶えといった様子で忍は呟く。
まあ、そうなるまで弄られたかいがあってか、忍の見た目はさっきまでとはがらりと変わっており、まさしく別人といっていいような装いになっていた。
伸ばしっぱなしだった髪は女の子らしいロングヘアーに整えられ、前髪も綺麗に切って整えられて左目を前髪で隠す独特の髪型に。服も長袖のブラウスと膝丈のスカートという可愛らしい服装になっている。
当然のごとく下着も女物を……とはいっても、流石にショーツではなく短いドロワなのだが、それでも十分だろう。
上の方もブラを着けており、その下にはほんの気持ち程度の詰め物を入れて小さいながらも膨らみを作る。これのおかげで、彼の体はぱっと見では男の体とは思えないようになっていた。
純ヒューマンではない忍は、種族の特徴として非常に色白で顔も整っているためメイクは軽く整える程度……だが、軽く眉を整えられた後にグロスを唇に塗った顔は、少し手を加えただけなのにぐっと印象が女性っぽくなる。
髪型、服装、顔……これらをちょっと整えることで、忍は「中性的な容姿の少年」から「中性的な雰囲気を醸し出す美少女」に完全に姿を変えていた。
さて、その一方で忍をそんな風にした張本人はというと……
「はぁああああ……流石シノブちゃん、可愛い……肌もすべすべモチモチだし、透き通るくらい真っ白だし……種族差ってずるいわぁ……」
……忍の女装姿を眺めながらそんなことを口にしていた。
ぽわぽわとハートを飛び散らせながら忍を眺めるオリヴィアは、ふと何か思い出したように彼の座る椅子の前に立つと、スカートのポケットから小さな手鏡を取り出す。
「おっと、うまくいきすぎて肝心のシノブちゃんに見せるの忘れてた……。シノブちゃーん、はい、これ今のシノブちゃんね?」
「……」
唐突に手鏡を渡してきたオリヴィアに不満げな表情を見せながら、忍は手鏡を受け取る。
こんな格好が似合っているわけがないだろう……と内心で不満をこぼしながら手鏡を覗き込んだ瞬間、彼は目を疑った。
そこには、不機嫌そうな顔でこちらを覗き込んでいる、見知らぬ可愛らしい少女の姿があったからだ。
「……誰?」
「誰って……鏡なんだからシノブちゃん以外ないでしょ?」
「いや、え? これ、僕……!? だってこれっ……」
オリヴィアの言葉に驚きながらも再び手鏡を覗き込む。そこには前髪で左目を隠し、驚きで目を見開いている、どこか中性的な雰囲気を漂わせる美少女の姿が映っていた。
いや、よくよく見てみればなるほど、自分であることは分からなくもない。目も眉も鼻も口も、顔のパーツは確かに鏡でいつも見ている望月忍のものだ。
しかし何というか、髪型を……前髪はやや変わっているとはいえ、女の子らしい髪型に変え、軽く化粧を施しただけで顔の印象は大きく変わるものらしい。
「……ありえん」
「フフッ、どこからどう見ても女の子でしょ? 試しにニコッて笑ってみて?」
「え、あ、はい……」
オリヴィアにそう言われ、試しに忍は記憶にあるパラス・アテナの受付嬢の姿をトレースして小首を傾げながら軽くはにかんでみる。
同時に、鏡の中の女の子も小首をかしげながら軽くはにかんできた。
(……うわ、うわ、うわぁ)
目の前の少女の微笑みに忍は思わず顔が熱くなる……が。
「……うっわー」
その直後、その少女が自分自身の姿であることを思い出して死にたくなった。
ふと鏡面に視線を向けると、そこにはやっぱり可愛い少女がいて……げんなりした表情でこっちを眺めている。それを見た忍は、自分の横でキャーかわいいーなどと言っている変態を無視して、ああやっぱりこれが今の僕なんだなと小さくため息をついた。
「……で、結局この格好は何なんですか」
しばし時間が経ち、オリヴィアが落ち着いたころ、精神的、肉体的両方の疲労からぐったりしながら、忍は不機嫌そうにそう口にする。
「ああ、それはね――」
「――そこは俺が説明しよう」
オリヴィアが口を開くのと同時、その言葉を遮るように部屋の扉が開き、一人の男性が入ってきた。
濃い焦げ茶色のボサボサ髪と顎に生えた無精髭という冴えないオッサン的風貌でありながらも、切れ長の目と薄茶色の瞳からは独特の力強さが感じられる。部屋にいる面子に気配すら感じさせずに扉を開けたことといい、その隙のない立ち居振る舞いといい明らかに実力者であることが感じられた。
「……セドリックさん……私が説明しようとしてたのに……」
入ってきた男性……ギルド幹部の一人であるセドリック・ラウントリーは、自分のセリフを取られてやや機嫌が悪くなったオリヴィアの呟きをスルーして忍のそばに来ると、まじまじと忍を観察し始めた。
「ほうほう、ふむふむ……思った以上に化けたなこりゃ……妻にも見せてやるべきかなぁ」
「えっ……レナ母さんに……? それはちょっと……」
「いやー、あいつ娘も欲しいってよく言ってるし、ちょうどいいだろ。なあ、息子よ?」
「それを知ってるから嫌なんですよ、セド父さん……」
セドリックの言葉に頭を抱えてそう呟く忍。二人の会話からも分かるように忍とセドリックは――血の繋がらない、義理のというのが頭につくものの――れっきとした親子である。
そういう事情から忍はセドリックの妻、セレナのことをよくよく知っていた。
普段は穏やかで物腰柔らかではあるが、時折箍が外れたようにテンションが高くなる……そんなセレナに今の自分を見せるのは危険極まりない。
きゃあきゃあ言われながら、勢いのままにおもちゃにされるのが目に見えているのだ。そんな目に合うのは御免被る。
忍にはドラゴンの口に飛び込むような趣味はないのだ。
しかし、そうやって抵抗する忍に、セドリックは無慈悲に爆弾を放り投げる。
「……そうは言うがお前、あいつ、お前に女の立ち居振る舞いを教えるのは私だって張り切ってたから、多分逃げんのは無理だぞ」
「えっ……うそぉ……」
そう言いながら再び忍は頭を抱える。美人の義母に愛でられる未来が確定し、さらに疲れが積み上がるのを感じて大きくため息をついた。
「……えっと、まあ、その辺はもういいです。諦めます。それはもう置いといて、早くこの格好をさせた理由を説明してください」
頭痛すら感じてきた自身の境遇に顔をしかめながら、忍はそう言ってセドリックに話の続きを促す。セドリックは忍の言葉にまあそうだな、と軽く頷いた後、口を開いた。
「……わざわざお前にそんな恰好をしてもらったのも、当然理由がある。というのも今回の仕事はお前がその恰好をしないとできないことでな……不本意だろうが我慢してくれ。お前の仕事は――」
「僕の、仕事は……?」
神妙な顔をして声を潜めるセドリックにつられ、忍もなんとなく神妙な気持ちになり声を潜める。そしてセドリックは厳しい表情と硬い声で忍にその内容を告げた。
「……お前の仕事は――パラス・アテナ推薦の編入生、『シノブ・エインズワース』としてウィステリア魔術女学園に潜入することだ。」
「……え?」
セドリックの信じがたい言葉にキョトンとしながらそんな声を漏らす忍。そんな彼の内心が手に取るようにわかるセドリックは苦笑しながら言葉を続けた。
「ああ、まあ、気持ちは分かるが……冗談とかじゃないんだな、これが。というか、冗談で女装なんかさせるわけないだろ。こいつはお前に任せる仕事で……お前にしかできない仕事なんだ」
「いや、あの、そもそもウィステリアってあのウィステリアですよね?」
「うむ、騎士団員や高位のギルドメンバー、宮廷魔術師なんかも輩出しているあのウィステリアだ。ちなみにそこにいるオリヴィアの母校でもある」
怪訝な顔をしながら口にした忍に、セドリックは鷹揚に頷きながら言葉を返す。
ウィステリア学園は先ほど彼が口にしていた通り王国内でも珍しい女子校であり、その上そうでありながらも実践主義の魔法教育を行っていることでも有名な学校である。
無論、女子校であり魔法学校でもあるのだから他の学校の様に淑女教育なども行われてはいるのだが、ウィステリアにおいてそれらの重要度はほかの学校に比べて低い。貴族出身の生徒も多く、また卒業後に宮廷魔術師や女性王族のために女性のみで構成される近衛師団――通称白百合近衛団――に抜擢されることもあるため、必要最低限やってはいるが……逆に言えば実践派にして実戦派と呼ばれるウィステリアではそういった教育は最低限しかしていないということでもある。
そんな独特の校風と、才能あるものは受け入れるという創立理念のもと奨学金の使用や各方面からの推薦を積極的に受け入れているという事実から、ウィステリアの名前は非常に有名なのである。
まあ、そういった学校であるため、壁で守られた場所にいる上っ面ばかり上品な貴族たちからの受けは悪く、潜在的な敵が多いところでもあるのだがそれはそれとして。
そんな場所への潜入任務……ということで、忍は困惑の表情を浮かべながら再び口を開く。
「その……どうして僕が?」
「そりゃお前、そこそこ以上に戦えて、なおかつ就学年齢のギルメンはお前しかいないんだよ。ありがたいことに、お前ならちょっと変装すれば女子で通せるしな」
「ぐぬっ……まあ、その通りなんですけど……」
「いっておくが、身長低いやつなら誤魔化せるんじゃないかってのはナシだ。確かにいなくはないが……あいつら潜入はできるかもしれんが、護衛戦闘には向いていない奴らばかりだからな」
ガリガリと頭を掻きながら忍の考えを先回りして潰すセドリックに、忍は年齢より若く見える女性メンバーを思い浮かべる。
読むと精神に変調をきたしてくるような魔本を常に携帯している魔導書狂い(ビブリオマニア)、とにかく派手好きで壊したがりの瓦礫製造機、魔力は膨大だが体力がないために継戦能力が著しく低い虚弱術師etc.etc……
なるほど、『一人で』『人を守るために戦う』のが不可能なタイプしかいない。
「……まあ、とりあえず納得はしてませんけど理解はしました。ちなみに、理由なんかは教えてもらえるので……?」
「ああ、問題ない。もともとあそこは狙われる理由に事欠かなねぇ場所ではあったんだよ。実戦派だなんだといっても魔術学園、それも女学園だ。当然、良いトコの嬢ちゃんも多いからな。だからまあ、その辺の対策の一環として時々やってることだ」
「時々なんですか」
「そうだな。求められる資質が特殊すぎるから、どうしてもずっとというわけには、な」
「それは……まあ、たしかに」
そう言いながら自身の格好を思い出して苦笑いを浮かべる。そもそも、第一条件として子供に見える、などという仕事はなかなかこなせる人が現れないだろう。
というか、逆にこれまで条件に合う人物がいたということに忍は驚きを隠せなかった。
「学園には表向きの警備員とかいるから、こういう依頼は不測の事態が起きるかもって時に来るんだが……まあ、あんまり気にし過ぎなくていいぞ。向こうさんは万一に備えて、生徒に一番近いところで護衛できる人物がほしいだけだしな」
「生徒に、一番近いところで……」
「ああ。今年は珍しく他国からの留学生もいるし、その関係もあっての依頼なんだろうが……ま、とりあえずお前は当分一人の学生でいられるから、ほどほどに頑張って学園生活を謳歌しておけ」
「……そんな、呑気な」
「いいじゃねぇか、それで。おまえが向こうで呑気してられるってのは、本当は良い事なんだからよ」
「そりゃ、そうかもしれないですけど……」
割と呑気なセドリックの言葉に、忍は小さくため息を吐く。
とはいえ、その言葉は正しいものなのは確かであるため、それ以上は何も言わなかった。
「とにかく、お前の任務はウィステリア魔術女学園に潜入して生徒たちの護衛をすることだ。ついでに……まあ、仕事をおろそかにしていいわけじゃないがしっかり青春を謳歌してこい。それは今しかできんことだからな……分かったか?」
「後半はともかくとして……はい、任務了解しました」
ややふざけている感のあるセドリックに対し、真面目な声で了承の返事をするシノブ。
まあ、学生生活云々とやや呑気な言葉はあるものの、依頼自体は至極真っ当なものである。拾ってもらった恩を返すために、この年でギルドメンバーになった忍にとっては否はない。
まして、初めての個人任務となればなおさらであった。
☆ ★ ☆
……ちなみに。
「ああ、そうそう、任務の期間なんだが……今のところ未定だ。事と次第によっちゃあ卒業してもらうことになるかもしれんから、その覚悟だけはしとけ。すぐに帰ってこれると思うなよ、シノブ・エインズワース?」
「えっ……えっ……?」
などという会話がその後交わされたりしたが、まあ話の本筋には関係ない話である。