名前を呼んで
※会長甘々注意報発令中
今日はボランティアで保育園にやってきた。
ミカのお父さんがやっている保育園でちょっとお手伝いをするのだ。
ミカと一緒に手を洗ってミカパパのところへ戻ると、
「いやぁーいいのかい?子供達、容赦ないよ?」
「構いません。来たくて来たのですから。」
だ か ら 何故いる会長⁉︎
「ホントどこにでも付いてきますね!生徒会の仕事とか御曹司としてのアレコレはないんですか⁉︎」
「将来のお嫁さんのことは何でも知りたいだろう?生徒会の仕事は、しっかりと終わらせているよ。会社のことは休日に手伝っているからね。ふふ、心配してくれるのかい?」
「断じて違います!」
この会話の間にも子供達は、さくらさくらーと足元にまとわりついてくる。
はぁ…可愛すぎる。
「いいなぁ子供達は、気軽に呼べて…。ね、僕も下の名前で呼んでもいい?」
「だめです。」
「じゃあ苗字呼びで我慢するから結婚してくれる?」
「話が繋がってないですよ!」
この間の食堂の件で見直したとはいえ、心を許したわけじゃない!
私は平穏に暮らしたいんだから!!
おなじみになりつつあるやり取りをしていると女の子がトコトコ近づいてくる。
「ねぇねぇさくらー。王子様とおままごとしたいの。いい?」
こう言ったのはおしゃまな年長のマユちゃん。くりくりの天然パーマがめっちゃ可愛い。
視線で会長に問うと、いつもの柔らかい笑みを返してくれたので、「あまり困らせないようにするんだよー」と言って送り出した。
了承したはいいものの、ちゃんと遊べるのか心配になって覗いてみる。
「あなたーご飯ですよー」
空のお茶碗にはどんなご飯が入ってるのだろうか…
そう想像しながら見守る。
「わぁ…美味しそうだねぇ、さくら」
慈しむような声と表情でそう言われて、ドキッとした。
「さくらじゃなくて、マユ!」
怒るマユちゃんの声にハッとする。
「あぁごめんねマユちゃん、僕のお嫁さんといえばもう彼女って決まってるから、つい…」
「決まってません!」
速攻で頭を小突いてから外に出て、私は外にいる子供達と砂場で遊んだり、高い高いをしてあげたり、結構体力を使う遊びで楽しんでいた。
「さくらー!」
「うぉ⁉︎」
どかーん!と効果音がなりそうなくらいの勢いで突撃してくる子供達。
いくら私がどすこい体型でも多勢に無勢。
さすがに勢いを受け止めきれず地面に手をつく。
「いてて、擦りむいた…」
「大丈夫かい?」
いつの間に近くに来ていたのか心配そうに覗き込んだ会長は、擦りむいた膝と手を見て目の色を変えた。
「あおぞら組 河野タクト 、ほし組 吉瀬春紀、はな組 田高 佑磨、ここに並びなさい。」
会長、子供達の名前とクラスもう覚えたの⁉︎
いつもは大人のいうことなんか全然聞かないヤンチャな子達だけど、会長の圧力に負けたのか、即座に整列する。
「君達はまだ幼い。だからと言って、女性に力づくでぶつかっていってはダメだ。ましてや怪我をさせるなんて。君達は、いい男になりたくないのかい?」
「なりたい!」「なる!」
口々にいう男の子達に、厳しい表情を崩さぬまま、拳を出す。
「それなら男子たるもの、いくつでも女性に対して紳士で誠実な気持ちを忘れずにいるべきだ。男同士の約束…できる?」
「おぅ!」「男にニゴンはねぇ!」
拳をこちんとぶつけ合ってから、男の子達は私に謝っていく。
「さくらーごめんな!傷が残ったら俺が嫁にもらってやるよ!!」
「…春紀くん、彼女は僕の嫁だから心配いらないよ?」
子供相手に本気の怒気はやめなさい!
「嫁じゃない!」
なんだかんだで、駆け回る子供達も、周りを見ずにヤンチャすることは減ったようだ。
イケメンの一声、すごいなー
「ハンカチでごめんね。」
たかそうなハンカチを濡らして、膝と手のひらの砂を取り除いていく。
「あの、自分でやるので、」
「これくらいはさせてよ、君は僕の大切な人なんだから」
拭き終わった手の平を返して手の甲にそっと唇を落とす。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎⁉︎⁉︎」
顔を真っ赤にして自分の手を奪いとると、会長は目をぱちくりさせてから、蕩けるような微笑みを浮かべた。
ダッシュで木の陰に逃げ込むと、「はは、かくれんぼかい?」とゆったりとした足取りで追いかけてくる。
ひぃ早い!?
くそぅ脚の尺の違いが憎いッ!
「みーつけた」
とん、と私が寄りかかる木に手をついて、会長の両腕に閉じ込められてしまう。
「ねぇ、さっきの続き…する?」
ブンブンと首を真横に振る私に息がかかるくらいの距離まで顔を近づける会長。
「続きをするのがダメなら我慢するから、代わりに名前で呼ぶことを許してくれる?」
艶かしい声でそう問われ。
そんなもんですむなら!という気持ちでコクコクうなずく。
「よかった」とホッとため息をついてから「擦りむいたところ、痛むようだったら休むんだよ?さくらさん」と言い残して去っていった。
何が男たるもの紳士で誠実に、だ!
プルプル震えながらゆでダコのようになった頬を押さえて、引かない熱としばらく格闘したのだった。