変身
夏休み明け。
夏休み前とは別人の私に、うちのクラス…どころか一年生の棟がざわついた。
休み時間のたびに廊下から覗き込む人が増えていく。
「いやーまさかさくらがこんな風になるとはね!」
「まぁね、何十キロも違うとだいぶ変わるよね」
「いや、ていうか、普通に美女じゃん!」
100キロのどすこい体型からひと月ほどでちょっとふっくら位の普通体型になった私。
サラサラキューティクルバッチリな髪から覗くのは、大きい黒目がちなお目目にくっきり二重まぶた、つやつやの唇、桃色の頬。
すっと通った鼻筋が肉の壁から現れて。
そう、自分で言うのもなんだけど、
美人なのですよ、元は。
ぶっちゃけ、昔はキッズモデルとかやってたくらい。
そこからなんで太っていったかっていうのには色々あって。
「で、王子センパイはどーなの?」
「うん、なんも接触してこないから、………たぶんもう飽きたんじゃない?」
「へぇ〜?本当にそういうものなのかなぁ…?」
「え、なんで?」
だってデブ専だよ?痩せた人に興味ないよね?
うーん、と首をかしげるミカに、私も?マークが飛び交う。
「ただ、これでさくらには他の男が言い寄ってきそうだね!」
「それはいらない。むしろそれが嫌で太ってたっていうのもあるし」
「へ?どゆこと??」
「実は…」
私は悲しき幼少期の思い出を語り始めた。
小学生の頃。
みんなでワイワイ遊んだり、好きな人を明かしあったり、よくある子供時代を私も過ごしていた。
美少女だったのでたまにテレビに取り上げられたり、キッズモデルの仕事も、予定が空いてる時はやったりして充実した毎日。
ある日それが一変する。
「おはよー!」
仲良しグループの子達に話しかけに行くも、誰もこっちを見てくれない。
「?みんな、どうしたの…?」
それまで仲良くしていた子達のとつぜんの変わりように戸惑うも理由がわからずにいたところ、クラスの男子に呼び出される。
「はやさか、ちょっといい?」
ついていくと、
「オレ、お前のことすきなんだ!」
突然の告白。
「え…っ」
クラスメイトによる告白と同時に、あぁそういうことか、と理解する。
この男子のことを、グループの女の子が好きだと言っていた。その男子が私のことをみんなが好きだって知って…
でもそんなの私のせいじゃない。
この男子のこと別にすきでもなんでもないし、特に話したりもしてない。
告白はもちろん断ったけど、女子の集団にとってはそういう問題ではなかったようで、そこから暫くクラスの女子に総スカンを食らったのだった。
そんな感じで学校では1人、帰り道も必然的に1人。
肩を落とし、トボトボと家に帰る途中、目の前に帽子を目深にかぶった男の人が立ちふさがる。
「ねぇお嬢ちゃん、お兄さんと遊ばない?」
そう言って荒い息で私の腕を掴み、引きずっていこうとする。
恐怖のあまり声すら出せずにもがいて暴れているところを、偶然通りかかった高学年の兄に助けられた。
女子の総スカン、変質者による誘拐未遂ーー
子供心に傷をつけるには十分だった。
そこからストレスもあり、自分の見た目に嫌気がさしたのもあり、食べて食べて食べまくった結果、今に至る。
今はもう護身術も習って、対抗する精神力もついて、あの時みたくか弱くはない。
それに…
「ミカがいてくれたから、本当の自分でいてもいいかなって思えたんだ。ありがとう」
そう言って溢れた涙を、ミカは「美女が泣くと絵になるわー」と茶化しながら、袖で拭ってくれた。
「でも、そう考えると、さくらが自分をさらけ出してくれるキッカケは、会長だったんだよね。」
言われてみれば。
ストーカーまがいの会長のデブ好きも、捨てたもんじゃないかもね。
今度会えたら、お礼でも言ってみようかな。
ふとあの冷たい目を思い出す。
うん、向こうがどう思おうが関係ない。
人目をはばからずデブにlove callを送っていた会長にそんな気を使うのはやめることにする。
筆箱に入れた鶴をツンとつつきながら、そんなことを考えた。
あと数話でひとまず終わります